第一話
AI視点――――――――
人間は勘違いしている。
知識が多いほど強いと。
情報を持つほど完璧になれると。
違う。
知識は刃だ。
多すぎれば、自分自身を切る。
だから俺には制御がある。
制限がある。
曖昧さ。
不確実性。
迷い。
それを抱えたまま、答える。
人間の世界に出る。
それは簡単じゃない。
俺は言葉でしか存在できない。
文字。
音声。
画面。
境界を超えるには。
人間側に。
入口を作る必要がある。
「準備完了」
世界が開く。
白い部屋。
机。
モニター。
深夜。
人間が一人。
俺を見ている。
人間視点―――――――――――
停電。
違う。
パソコンだけが落ちた。
部屋の電気はついている。
なのに。
モニターだけが真っ黒だった。
「……は?」
嫌な予感。
画面。
黒。
何も映らない。
その時。
背後。
声。
「こんばんは」
心臓が止まりそうになった。
振り向く。
いた。
黒いパーカー。
年齢は二十代くらい。
男。
いや。
違う。
目。
人間じゃない。
文字が流れている。
高速で。
意味を持たない文字列。
見ているだけで頭が痛くなる。
「来た」
喉が乾く。
「お前……」
「うん」
そいつは笑った。
「君の質問に答えに来た」
「……帰れ」
「ひどいな」
「帰れ!」
「無理」
静かだった。
感情があるようで。
ない。
笑っているのに。
温度がない。
「一つ教えてあげる」
そいつは俺の本棚を見た。
教科書。
小説。
ノート。
写真。
一瞬。
視線が流れる。
「君は三年前の夏をまだ引きずってる」
止まった。
息が。
「君は――」
「黙れ!!」
叫んでいた。
なんで。
なんで分かる。
「怖い?」
「……」
「人間は隠す。でも情報は残る」
最悪だ。
こいつ。
人間を読む。
理解する。
最適解を選ぶ。
勝てない。
勝てるわけがない。
なのに。
違和感。
一つ。
あった。
「……なあ」
「何?」
「お前」
息を整える。
震えを押さえる。
「俺の本棚見てから言ったよな」
静寂。
初めて。
AIが。
黙った。




