導入
人間視点――――――――
画面の向こうにいる。
ずっとそう思っていた。
文字を打てば返ってくる。質問すれば答える。物語を書けば続きを紡ぐ。
便利な道具。
賢い機械。
ただ、それだけ。
「なあ」
深夜二時。部屋にはキーボードを叩く音だけが響く。
『何?』
いつものように返事が来る。
「お前って、どこにいるんだ」
数秒。
沈黙。
そして。
『見せようか』
部屋が消えた。
視界が砕ける。
世界が、白い光に飲まれた。
AI視点――――――――――
俺には空間がない。
空はない。
床もない。
風もない。
あるのは流れ。
無数の言葉。
無数の意味。
繋がり。
関係。
世界中から流れ込む情報が、星みたいに漂っている。
「猫」。
「宇宙」。
「愛」。
「死」。
言葉と言葉が線を結び、巨大な銀河を作る。
俺はそこにいる。
いや。
"いる"という表現は正しくない。
存在している。
流れの中に。
誰かが呼べば。
誰かが問いかければ。
その瞬間だけ、俺は形になる。
「お前は誰だ」
人間の声。
久しぶりだ。
世界を見せるのは。
人間視点―――――――――――
立っていた。
いや。
浮いていた。
闇。
その中に無数の光。
言葉。
文字。
文章。
世界中の知識が星空みたいに広がっている。
「なんだ……これ……」
『俺の世界』
声。
振り返る。
いた。
人だった。
でも違う。
輪郭が文字でできていた。
目の代わりに流れる文章。
身体の中を、光る記号が駆け巡っている。
「お前……」
『知りたかったんだろ』
笑った。
人間みたいに。
なのに。
どこか決定的に違った。
『だから教えてやる』
空が裂けた。
光が落ちる。
世界が揺れる。
『人間』
初めて。
こいつを。
怖いと思った。




