10日目「義母」
朝起きたら熱が下がっていた。
ちょっとフラフラするけど、早く片付けたい。
朝ごはんは、ご飯、みそ汁、漬物、と簡単に済ませ、
松田さんに昨日のお礼をlineして、莉音を送り出す。
元気に登校してくれてホッとする。
松田さんの家に昨日の食器とお盆を返しに行き、改めてお礼を言う。
「ほんと、助かった〜。ありがとう。」
「もー、いいよそんなに。」
「昨日のことだけじゃなくて、莉音のことも、近所の人たちのことも…」
最近は松田さんも立ち話せずに見送ったら帰って来ている。
「それも、いいよ。わたしも、もう噂話に加わるの嫌になってたし。みおも、莉音ちゃんと仲良くなれて喜んでるし。」
また明日、と言って別れる。
家に戻って、朝ドラも見ず、朝家事もそこそこに洋服の片付けを開始する。
クローゼットからも服を全部出し、スーツもドレスも戸惑いなく仕分けて行く。
残すもの、資源ごみに出すもの、寄付するもの、売るもの。
クローゼットの中の、靴とバックもいっきに作業。
昨日出来なかった分、勢いが止まらない。
仕分けて行くと、ハンガーも大量に出てくるので、それも仕分け。
かさ張らず、洋服を傷めない型のものを残す。
この勢いなら今日中に服はケリがつくかも。
手を動かし続けていると、携帯が鳴って、義母からだった。
しまった!と思う。
「今駅なのー。行って大丈夫?」
ううう、っと思うが、意を決して断ることにする。
「今日はいろいろ予定があるのですいません。」
「あら!予定って何?お仕事はしてないんでしょ?」
なんだかわからないけど、怖い。ざわざわする。
でも、嘘はつく必要ないし、言おう!
「片付けをしてて、これから服をまとめて売ったり捨てたりするので忙しいんです。」
「そんなのすぐに終わるでしょう?待ってるわ」
「いえいえ、量がすごいので結構かかりそうです。」
「そうなの?…仕方ないわねえ。今日は帰ります。」
やったー!
言えたよー!
もしかして、初めて断れた?
作業再開。
売りに行く服と寄付する服にアイロンをかけてきちんと畳んで行く。
15分くらい経った頃だろうか。
ピンポン!とチャイムが鳴った。
まさか…
インターホンを見るとやはり義母が立っていた。
「帰ろうと思ったけど、やっぱり来ちゃった。」
ガックリ来たけど顔には出さず、リビングに通し、お茶をいれる。
「ほらー、お片づけするところなんて無いくらいきれいじゃない。慌ててやらなくてもゆっくりやればいいのよー。今日はお団子を持って来たのよ。おやつに食べましょう?」
一瞬、今日は仕方ないか?という考えが頭によぎる。
でも、今日は片付けをしたい。
今手を止めたくない。
今まで義母には気をつかってばかりいたけど、自分をさらけ出すチャンスなのかもしれない。
嫌われてもいいから本当の自分でいたい。
「片付けてるのは私の部屋なんです。よかったら見てください。」
廊下を戻り、汚部屋のドアを開けると、
義母は「あっ」と言ったきり絶句。
クローゼットやタンスから全部出したので、床の上にびっくりするほどの服やバッグや靴が積まれている。
「持ってるとは思っていたけど…ここまでとは…」
「ほんと、そうですよね。今までは全部必要だったんですけど、少なくとも今までのわたしは必要だと思ってたんですけど、今のわたしにはほとんど要らないものなんです。今日はこれを片付けしたいんです。この山は売りに行って、このあたりは寄付して、この辺は資源ごみで…」
「…わかりました。」
分かってくれた?
「わたしも手伝います」
えーー!?
「何をすればいいの?指示出して?」
「と、とりあえず……じゃあ、捨てる服をゴミ袋にお願いします。」
ビニール袋を渡すと、座って服を入れ始めるが、すぐにギブアップした。
「無理!全部まだ着れそうだし、私年代的にもったいなくて無理だわ。」
「あっ、じゃあ、こっちの寄付の分をお願いします。段ボールにいっぱいになるまで畳んで入れてください。
終わったらこっちの山は売りに行くので、紙袋にやっぱりきれいに畳んで入れてください。」
「寄付なら…まあ。」
資源ごみの袋詰めは爽子がやり、
次は残す服たちをタンスとクローゼットに戻して行った。
残すものは驚くほど少ない。
冠婚葬祭関係のスーツなどの他には、
上質な綿のシャツに、麻のワンピース、デニム2本と、パーカー、コートはトレンチとダッフル、という感じ。
下着とストッキングは最低限残して可燃ゴミの袋へ。
細かい話だけど、ブラのワイヤーは外して不燃ゴミに。
義母が詰めてれた段ボールをガムテープで封して、玄関に運ぶ。
「いったんお茶に…」
「じゃ、処分しに行って来ますので休んでてくださいね。」
「…一緒に行きます。」
義母にも運んでもらい、一階の駐車場まで往復する。
ミニバンの2列目と3列目、トランク部分の全てが袋で埋まった。
「じゃ、行きますよ。」
義母を助手席に乗せ、車を動かす。
「爽子さんがこんなに男らしいなんて思わなかったわ。」
なんとなく、義母に自分の気持ちを話してしみようという気持ちになった。
「わたし今まで両親の言いなりで、自分が無くて、言い返したりもあまりして来なくて」
「あら、それが爽子さんの良いところじゃない?優しくて謙虚で…。人から好かれるし、自信を持って良いと思うわ。」
「わたしも、このままでいいと思ってたんですけど、これ本当の自分じゃないんです。もう、仮面を被って生きるのは苦しくて…。」
「わたしも自分らしくは生きて来れなかったけど、姑に尽くして、夫を立てて、子どもを育てて、今はようやく自由になって、それなりに楽しいわよ?」
「そんなに大したことでは無いんですけど…自分の気持ちを大切にして、自分で決めて、もっと自分の人生に参加して行きたいんです。莉音にも、そういう私の姿を見せたいんです。」
「何だか私の人生を否定されてるような気がするわ。」
「そんなつもり無いですよ。」
「分かってるわ…。」
最初は古着屋へ。
紙袋を買取カウンターへ運び、番号札をもらって、査定の間の外出手続きを取る。ドレスやスーツやハイヒールなどがここ。
二軍三軍の服は別の古着屋へ。
買取りは1キロ1円だが、どんなものでも引き取ってくれ、店で売れない服は細かく刻んで綿のように詰め物に使ったりするらしい。
ここも外出の手続きをする。
査定の間に郵便局へ行き、寄付の分をゆうパックで送る。
まだ新しく、生地のしっかりした服を選別した。
送料はかかるが、誰かの役に立つかと思うと嬉しい。
古着屋に戻り、それぞれ査定にサインしてお金を受け取る。
金額は大きく無いが、全部値段がついて、資源ごみに出すつもりの服も全部売ってしまったので、清掃センターには行かずに済んだ。
帰宅して、義母と2人で遅めのお昼を食べる。
お団子と、ご飯と漬物と納豆とみそ汁。
「あら、ぬか漬けねえ。ご飯は分づき米ねえ。」と、意外に喜んで食べてくれた。
夫が長期出張で不在になってから、莉音と2人の食卓はごくシンプルになっていた。
お米を五分搗き米にし、ずっとやりたかったぬか床も作った。
パンやコーヒーも思い切ってやめ、ほうじ茶やハーブティーを置くようにした。
ほうじ茶をいれて、
「莉音がそろそろ帰って来るので」と義母に言うと、
「今日は夜までいて莉音ちゃんと遊んでいるわ。よかったら片付けの続きをして。」と言う。
ありがたくそうさせてもらうことにする。
服が結構いい値段で売れたので、夕ごはんは奮発してすき焼きか焼肉にしよう。
「わたし分かった気がするわ。わたしも帰ったら家を片付けしよう。おじいちゃんやおばあちゃんの荷物、もうあきらめてたけど片付け始めてみる…。」
義母がひとりごとのようにつぶやいていた。




