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異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

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第096話:盾花、単独で動く

 


 その数日後、盾花のもとに、実家の母から一本の電話が入った。

『――盾花。おかしな話なんだけど、うちの炉の設計図を、なぜだか防具メーカーの調達担当だっていう人が欲しがっていて……。しかも、ずいぶん強引な口ぶりで』

「え……」

 電話を切った後、盾花はしばらくの間、部屋で一人考え込んでいた。

(――工房のデータが流出したのは、私が部室に出入りしているせいかもしれない)

 そんな考えが、頭から離れなかった。

 * * *

 翌日の放課後。

「――すみません、今日は一人で用事があるので」

 盾花は、部室のみんなにそう告げると、一人で外出した。向かった先は、業界誌の取材で知り合った、防具メーカーの担当者との待ち合わせ場所だった。

「戌井さんの工房の技術、我々としても大変興味がありまして……。ぜひ、詳しい資料をご提供いただけないかと」

 慇懃な態度の担当者に、盾花は毅然と言い返した。

「工房の技術は、母が長年かけて積み上げてきたものです。簡単にお渡しできるものではありません」

「そう仰らずに。悪いお話ではないと思いますが」

 粘る担当者を前に、盾花は僅かに気圧されながらも、決して引かなかった。

「――何度言われても、答えは変わりません。失礼します」

 盾花はそう言い切ると、席を立った。担当者は苦い顔をしながらも、それ以上は引き止めてこなかった。だが、店を出た後、盾花の足取りは、思いのほか重かった。

(――これで、本当に良かったのかな。強引に断って、また何か、工房に嫌がらせをされたりしないかな)

 一人で抱え込んだ不安が、じわじわと胸を締め付けていく。

 * * *

 その夜、少し疲れた様子で部室に戻ってきた盾花を、トールが静かに出迎えた。

「……無茶をしたな」

「――ばれてました?」

「イシュラーナが位置情報を追っていた。心配だったのでな」

 トールの素っ気ない一言に、盾花は苦笑した。

「すみません。私、あの時、決めたはずなんです。ただの親友としてここにいるって。でも、実家のことになると、どうしても、一人で抱えたくなってしまって」

「一人で背負う必要はない」

 トールは、いつになく真っ直ぐに盾花を見据えた。

「お前の母君の工房は、お前一人の問題ではない。俺たちの、この部室の問題でもある」

「――トールさん」

 盾花の瞳に、じわりと涙が浮かんだ。

「それに」

 トールは、僅かに口の端を緩めた。

「無茶をするなら、一人でするな。誰かと共に無茶をしろ。その方が、よほど強い」

 その言葉に、盾花は小さく頷いた。かつて選び取った「ただの親友」としての在り方に、また一つ、確かな芯が加わった夜であった。

「――それに」

 トールは、少し離れたところで様子を見守っていた蓮司へと、ちらりと視線を向けた。

「一人で背負って潰れるのがどれほど愚かなことか、俺はよく知っている。……だからこそ、お前には、二度とそうはさせん」

 その一言に籠められた重みに、盾花だけでなく、蓮司もまた、僅かに目を伏せた。誰も詳しくは語らなかったが、そこには、かつて異世界の戦場で、それぞれが一人で何かを抱え込み、失ってきた過去の記憶が、確かに横たわっているようだった。

「――さて、辛気臭い話はこれくらいにしておこう」

 トールがそう言って空気を切り替えると、白石さんが新しいお茶とお菓子を運んできた。

「皆さん、夜も遅いですし、温かいものでも召し上がってください」

 その一言に、部室にはいつも通りの、穏やかな笑い声が戻っていった。

「――今度から、一人で抱え込まずに、ちゃんと皆さんに相談します」

「それでいい」

 トールが短くそう答えると、後ろで様子を見ていた氷華が、そっと盾花の肩に手を置いた。

「当然ですわ。わたくしたちは、そのためにここにいるのですから」

 その言葉に、盾花はようやく、安堵の笑みを浮かべることができた。

 * * *

 その夜遅く、部室に残っていた鯖江とイシュラーナは、密かに例の防具メーカーについて調査を進めていた。

『――鯖江くん、少し妙なことが分かりましたわ』

「なんスか」

『先程の担当者が名乗っていた会社、登記上は実在しますけれど、ここ半年ほどの間に、複数の小規模な工房や町工場に対して、同じような強引な技術提供の打診を繰り返しているようですの』

「マジっスか……。それって、単なる商売っていうより」

『ええ。誰かに依頼されて、動いているようにも見えますわ。もっとも、まだ確証は持てませんけれど』

 鯖江は、モニターに映る調査結果を見つめながら、静かに拳を握った。

「盾花さんの工房だけじゃなく、他にも被害者がいるかもしれないってことッスよね。……絶対に、突き止めてやるッス」

『頼りにしておりますわ、鯖江くん』

 イシュラーナの声に、鯖江は珍しく真剣な面持ちで頷いた。部室の平穏な日常の裏側で、静かに、しかし確実に、何かが動き始めていることを、この時点で気づいていたのは、まだごく一部の者だけだった。窓の外には、初夏の澄んだ星空が、静かに広がっていた。


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