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異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

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第092話:蓮、日常に馴染む



 翌日から、蓮司は少しずつ、部室の日常に溶け込んでいった。

「蓮くん、召喚術の適性とかあります?」

「いや、俺は普通に剣が専門でな。魔法の類はからきしだ」

 鯖江の召喚獣自慢に律儀に付き合いながらも、蓮司は基本的には物腰の軽い、話しやすい男として周囲に受け入れられていった。

「――蓮くん、意外と良い人ですのね」

 氷華が紅茶を淹れながら、しみじみと呟く。

「見た目は少し怖そうなのに、優しいですよね」

 盾花も同意するように頷いた。

「トールさんとは、なんだか妙に馬が合うみたいですし」

 その言葉に、白石さんはふと視線をトールへと向けた。トールは相変わらずソファーで木刀の手入れをしていたが、蓮司がやってきてからというもの、その横顔に、ほんの僅かだけ、以前よりも柔らかな気配が滲んでいることに、白石さんだけは気づいていた。

「――佐藤様は、鴉羽さんのこと、お気に召したようですね」

「さあな。悪くない相手だとは思うが」

 トールは素っ気なくそう答えるだけだったが、その口元には、確かな安堵が浮かんでいた。

 * * *

 それだけではない。蓮司は、この部室の「もう一つの日課」にも、驚くほどすんなりと馴染んでいった。

「――蓮くん、お昼寝の時間ですよ」

 昼下がり、白石さんがそう声をかけると、蓮司は最初こそ「昼寝? 部活中にか?」と戸惑っていたが、一度ソファーに横になってしまえば、その心地よさにはあっさりと降参した。

「――なるほどな。これは、確かに癖になる」

「だろう? 俺の日常の半分は、この昼寝で出来ている」

 トールが隣のソファーで得意げにそう言うと、蓮司は「お前、相変わらずくだらねえ自慢するな」と苦笑しながらも、まんざらでもない様子で目を閉じた。

 その光景を眺めながら、盾花がくすくすと笑う。

「二人とも、本当に息が合いますよね。まるで昔からの相棒みたい」

「――さあな。案外、そうなのかもしれん」

 蓮司が薄目を開けてそう呟くと、盾花は「?」と首を傾げたが、それ以上追及はしなかった。

 * * *

 数日が経つうちに、蓮司は部室の設備にも、それなりに興味を示すようになっていた。

「――このスマホの中に、本当に喋るAIが入ってるのか」

「ああ。イシュラーナだ。俺の相棒だと思ってくれればいい」

 トールがそう説明すると、蓮司はスマホの画面を興味深そうに覗き込んだ。

『――初めまして、鴉羽蓮司様。トール様の大切なご友人と伺っております』

「……丁寧な喋り方だな。しかも、俺のことをもう知ってるのか」

『ふふ、色々と調べさせていただきましたの。お気を悪くなさらないでくださいまし』

 イシュラーナの声に、蓮司は苦笑した。

「用心深いな、お前さんの相棒は」

「それだけ、この部室のことを大切に思っているということだ」

 トールがそう答えると、蓮司は僅かに目を細め、それ以上は何も言わなかった。

「――しかし、便利な時代になったもんだな。異世界にいた頃は、伝令一つ飛ばすのに早馬を三日走らせたってのに」

 蓮司がしみじみとそう呟くと、鯖江が目を輝かせて食いついた。

「蓮さん、異世界の話、もっと詳しく聞かせてくださいよ! 馬とか、魔物とか!」

「――おいおい、そう簡単に話せる代物じゃねえよ」

 蓮司は苦笑しながらはぐらかしたが、その視線がちらりとトールへと向けられたのを、鯖江以外の誰も気づいていなかった。トールもまた、僅かに頷き返すだけで、それ以上は何も言わなかった。

「まあ、いずれ機会があれば、な」

 その一言に、鯖江は「絶対っスよ!」と食い下がったが、蓮司はそれ以上は取り合わず、話題を逸らすように紅茶のお代わりを求めた。

 * * *

 放課後の部室に、鴉羽蓮司という新しい風が吹き込んで数日。

 イシュラーナだけは、いまだ静かに、しかし確かな警戒を緩めずにいた。

『――戸籍の謎については、まだ完全には納得しておりませんの。ですが、トール様が信頼なさっているのなら、わたくしも信じますわ』

 トールの胸ポケットで、その一文が、誰にも見えないところで静かに浮かんでは消えた。

 穏やかな春の日常の裏側で、新しい歯車が、静かに、しかし確実に回り始めていた。

 * * *

 その週末、部室では珍しく「蓮司歓迎会」なる催しが開かれることになった。発案者は、もちろん白石さんである。

「――佐藤様の大切なご友人ですもの。しっかりお祝いしなければ」

「そんな大げさなことしなくても……」

 蓮司は戸惑いながらも、テーブルいっぱいに並んだ手料理の数々に、思わず目を丸くした。筑前煮、唐揚げ、出汁巻き卵、そして白石さん特製の肉じゃが。どれもが、丁寧に、心を込めて作られたものだと、一目で分かる出来栄えだった。

「――こいつは、たまげたな」

「白石殿の飯は、この学園で一番だ。せいぜい味わって食え」

 トールが誇らしげにそう言うと、蓮司は苦笑しながら箸を手に取った。一口食べた瞬間、その表情が、これまで見せたことのないほど柔らかく緩んだ。

「……うまい」

「だろう」

「――こんな飯、五年ぶりに食った気がする」

 その一言に込められた重みを、この場にいる誰もが正確には理解できなかった。だが、白石さんだけは、その表情の奥にある何かを感じ取り、そっと微笑んだ。

「これからは、いつでも食べにいらしてくださいね」

「――ああ。世話になる」

 賑やかな笑い声が、部室いっぱいに響いていった。


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