↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/111

第084話:新技術対策室の来訪

 


 バレンタインの浮かれた空気が落ち着き始めた、二月下旬のある日。


「――というわけで、来週、学園に外部からの視察が入る」


 放課後の職員朝礼を終えたばかりの凪教官が、部室の扉を開けるなり、そう切り出した。


「視察、っスか?」


「内閣府直轄の『新技術対策室』とやらだ。表向きは『ダンジョン安全視察プログラム』。学園内のダンジョン運用体制と、生徒の安全管理状況を確認しに来るらしい」


「内閣府……」


 盾花が僅かに緊張した面持ちで呟く。氷華も、いつもの明るさを潜め、真剣な表情で耳を傾けていた。


「案ずるな。あくまで正規の行政手続きだ。学園側にも、拒否する理由も権限もない」


 凪教官は淡々とそう言うと、一枚の書類を机に置いた。


「担当者の名前は、東城冴子。三十歳手前の若手主任だそうだが……まあ、会えば分かる」


 その言葉の端に滲む、僅かな含みに、部室の空気が微かに引き締まった。


「トール、お前たちの活動が目立ちすぎた結果だ。今更どうこう言っても仕方あるまい。粗相のないようにな」


 凪教官はそれだけ言い残すと、踵を返して部室を後にした。


 * * *


「――国家機関、本当に来るんですのね」


 氷華が、いつになく神妙な声で呟く。


「む。前に鯖江が独力で追い返した、あの探りの本体か」


 トールが木刀の手入れの手を止め、珍しく真剣な表情で顎に手を当てた。


「たぶん、そうだと思うッス……。あの時の手口、素人じゃなかったっスから」


 鯖江も、緊張気味に頷く。部室に、僅かな沈黙が落ちた。


「大丈夫ですよ、皆さん」


 白石さんが、努めて明るい声で場を和ませるように口を開いた。


「正式な手続きを踏んだ視察なんですから、変に身構える必要はありません。いつも通りにしていれば、それが一番です」


「白石殿の言う通りだな」


 トールが小さく頷く。


「相手が誰であろうと、俺のやることは変わらん。定時退社と、うまい飯。それだけだ」


 その、あまりにもぶれない一言に、張り詰めていた部室の空気が、僅かに緩んだ。


「相変わらず、佐藤さんはそうですわよね……」


 氷華が呆れ半分、安心半分の笑みを浮かべる。


「あの……もし、何か聞かれたりしたら、どこまで話していいんスかね」


 鯖江が心配そうに尋ねると、盾花が腕を組んで考え込んだ。


「基本的には、聞かれたことに正直に答えていいと思う。私たちがやましいことをしているわけじゃないもの」


「その通りだな」


 トールが即座に頷く。


「隠し立てするから、余計に怪しまれる。堂々としていればいい」


「トールさんがそう言うと、なんだか本当にそんな気がしてきます」


 盾花が苦笑しながら呟くと、部室の空気は、いつもの調子を取り戻していった。


 その一方で、トールの膝の上のスマホには、誰にも見えない小さな一文が、静かに表示されていた。


『――東城冴子。以前、別荘のサーバーへ探りを入れてきた発信元と、所属部署が一致しますわ。おそらく、同じ組織の人間で間違いありません』


『表向きは丁寧な視察担当者ですけれど……油断はできませんの。ただし』


『ここで慌てて隠し立てをするのは、かえって悪手ですわ。堂々と、いつも通りにお過ごしになるのが、一番の防御だと思いますの』


「……分かっている」


 トールは短く答えると、木刀を鞘に収めた。


 * * *


 視察当日。


 制服姿の学生たちが行き交う渋谷代々木学園の廊下を、一人の女性がまっすぐな足取りで歩いていた。


 年齢は三十手前だろうか。きっちりと結い上げた黒髪と、隙のないパンツスーツ。手にした革製のファイルには『内閣府 新技術対策室』の刻印が控えめに入っている。


「――失礼いたします。本日、安全視察でお伺いいたしました、東城冴子と申します」


 部室を訪れた彼女は、深々と丁寧なお辞儀をした。物腰は柔らかく、声にも刺々しさは一切ない。だが、その双眸だけは、部室の隅々まで静かに見渡すように、微かも動きを止めなかった。


「よろしくお願いいたします、東城様」


 白石さんが代表して応対すると、東城は柔らかく微笑んだ。


「白石様ですね。事前資料で拝見しております。……こちらが、話題の魔道具研究会の皆様ですか」


 視線が、順に部室の面々を巡っていく。氷華、盾花、鯖江、そしてトールへ。


「……」


 トールと目が合った瞬間、東城の微笑みは、僅かも崩れなかった。だが、その一瞬だけ、彼女の瞳の奥で、何かが静かに計算されたような気配があった。


「本日は、学園内のダンジョン運用状況を確認させていただくだけです。皆様には、普段通りにお過ごしいただければ結構ですので」


「うむ。承知した」


 トールが素っ気なく頷くと、東城は小さく頷き返し、手元のファイルに何かを書き込んだ。


「では、さっそくですが――地下ダンジョンの、いつも活動なさっている階層をご案内いただけますか」


「いつも活動している階層は、少々刺激が強いかもしれません」


 白石さんが控えめに答えると、東城は柔らかく首を振った。


「もちろん、安全に配慮した階層で結構です。皆様の普段の実技活動を、そのまま拝見できれば」


「承知いたしました。それでは、第二十層へご案内いたします」


 白石さんが丁寧に応じると、東城は小さく頭を下げ、手元のファイルに視察日時を書き込んだ。その筆致は、驚くほど整然として乱れがなかった。


「本日はよろしくお願いいたします」


 もう一度深く一礼した東城を先頭に、一同はエレベーターへと向かった。その丁寧すぎるほど丁寧な物腰の奥に、部室の全員が、言葉にならない緊張を感じ取っていた。


 新技術対策室の本格接触は、こうして、静かに、しかし確実に幕を開けたのであった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。