↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/111

第080話:暴風怪鳥の絶品ローストチキンと、聖夜と二年参りの極楽パーティー

 


 学園地下ダンジョン・第79階層【暴風と雷鳴の渓谷】でのピクニック(買い出し)を無傷で終え、定時退社をキメた佐藤通(トール)たち。


 極上の『テンペストモモ肉』を無事に持ち帰った翌日の夜、ペントハウスの広大なリビングは、華やかなクリスマスパーティーの会場へと変貌を遂げていた。


「メリークリスマース!」


 部屋の隅に飾られた大きなクリスマスツリーの横で、サンタクロースのポンチョを着た結衣ちゃんが元気にクラッカーを鳴らした。


「おおーっ! 結衣ちゃん可愛いッス!

 俺の戦乙女とサキュバスも、今日はクリスマス仕様でお手伝いさせますんで!」


 トナカイの被り物をした鯖江録郎(パシリ)が、サンタ帽を被った二体の神話級召喚獣と共にテーブルのセッティングを手伝っている。


「……ふむ」


 トールは特製・魔道こたつの中から、集まった仲間たちを眺めていた。


「お待たせしました、佐藤さん! わたくしたちも着替えてきましたわ!」


 寝室から現れた神宮寺氷華(氷の女王)と戌井盾花(タンク娘)の姿を見て、トールは真顔で頷いた。


 盾花はモコモコとしたトナカイの着ぐるみ姿で、小柄な彼女によく似合っている。


 一方の氷華は、肩と背中が大きく開いた、赤と白の鮮やかな『ミニスカ・サンタクロース』の衣装に身を包んでいた。白く長い手足と銀髪が映え、非常に美しい――のだが。


(……布地が余っているな)


 衣装の胸元部分の設計が、氷華の『Aスタイル(絶壁)』を考慮していない標準サイズであったため、悲しいほどにスカスカで浮いてしまっていたのだ。


「ど、どうですの……?

 トールくんのために、少し大胆なものを選んでみましたのよ……っ///」


「うむ。通気性が良くて動きやすそうな装甲だな。だが、風邪を引かないようにしろよ」


 トールが全くラブコメの波動を受信せずに真顔で答えると、氷華は「そうじゃありませんわーッ!」と顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。


 だが、ひとしきり地団駄を踏んだ後、氷華はふと勢いを失い、トールの着流しの袖を、きゅっと小さく掴んだ。


「……そんなこと、言わないでくださいまし。わたくしだって、本当は白石さんみたいに……貴方に、女の子として、ちゃんと見てほしくて……がんばった、のですから……っ」


 消え入るような声で、上目遣いにトールを見つめる氷華。その瞳の潤みに、トールは一瞬、からかいの言葉を失った。


「……子供などとは思っていない。その、非常によく似合っているぞ、氷華」


 真顔で、しかし確かな本気の響きを込めてそう告げると、氷華は今度こそ言葉を失い、耳まで真っ赤に染め上げた。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


 悲鳴とも呻きともつかない声を上げて硬直する氷華に、トールは小さく首を傾げるばかりだった。


 そこへ、キッチンから極上の香りが漂ってきた。


「お待たせいたしました! 今夜のメインディッシュです!」


 現れた白石さんの姿に、トール(と鯖江)の目が完全に釘付けになった。


 彼女は、シックな赤いワンピースの上から、白いフリルがあしらわれた『サンタ風のホルターネック・エプロン』を身に着けていたのだ。


 胸元でキュッと結ばれた紐が、大人の女性特有の『圧倒的で暴力的なまでの双丘』をこれでもかと強調し、歩くたびにその豊満な質量がたわわに揺れる。


「ひゃっ……! 白石さん、そのエプロン、胸がこぼれそうですわよ!?」


 氷華が自身のスカスカな胸元と見比べて、絶望の声を上げる。


「えっ? そ、そうですか?

 結衣がどうしてもママもサンタさんになってって言うから、通販で買ったんですけど……やっぱり少し、サイズが小さかったみたいで……///」


 恥ずかしそうに頬を染める白石さんの圧倒的なバブみ(母性)と大人の色気に、トールの極上の食欲(モチベーション)が、さらに一段階ギアを上げた。


『……白石様のサンタエプロン、破壊力が尋常ではありませんわね。トール様が語彙を失うお気持ち、分からなくもありませんの』


 トールの胸ポケットでイシュラーナ(スマホ)が、控えめに、しかし確かにシャッター音を一つだけ鳴らした。


「さあ、冷めないうちにどうぞ! 暴風怪鳥の特大ローストチキンです!」


 テーブルの中央に置かれたのは、皮目がパリッと黄金色に焼け、ローズマリーやタイムといったハーブと、ニンニクの暴力的な匂いを放つ巨大な丸鳥のローストであった。


「いただきます」


 トールが豪快に切り分けられたモモ肉にかぶりつく。


 パリッ、ジュワァァァァァッ!!


「……美味い!!」


 トールの脳髄に、美味の雷鳴が轟いた。


「暴風の渓谷を飛ぶことで限界まで引き締まった筋肉から、噛むほどに濃厚な肉汁がナイアガラの滝のように溢れ出す!

 白石殿の特製ハーブソルトと、腹に詰められたガーリックライスの旨味が、野性味あふれる鶏肉を完璧な宇宙(コスモ)へと昇華させているぞ!」


「んんんんまァァァァイッ!!

 ご飯が、チキンの脂を吸ったご飯が無限にいけますぅぅっ!」


「お肉が……こんなに大きいのに、口の中で解れますの……っ!」


 盾花と氷華も、エリートの矜持を完全に捨ててチキンに齧り付いている。


 骨の髄までチキンをしゃぶり尽くしたトールは、深く息を吐き出した。


「白石殿。このローストチキンは、間違いなく俺の人生における最高のクリスマスプレゼントだ」


「ふふっ、ありがとうございます、佐藤様。でも、プレゼント(デザート)はまだありますよ」


「ええ! 食後のデザート(別腹)は、わたくしにお任せくださいませ!」


 氷華が意気揚々とキッチンへ向かい、冷蔵庫から特製のケーキを取り出してきた。


「わたくしの愛の結晶……『究極の深層ブッシュ・ド・ノエル』ですわ!」


 氷華がドヤ顔でテーブルに置いたのは、丸太を模したチョコレートケーキ――なのだが。自身の「Aスタイル」への強烈なコンプレックスが暴走した結果、不自然なまでに巨大で、まん丸なドーム型にデコレーションされた『双丘のケーキ(特大サイズ)』であった。


『欲望が完全に造形へ出力されておりますわね……。氷華様の設計思想、末恐ろしいですわ』


 イシュラーナがツッコミを入れるが、トールは真顔でフォークを入れた。


「……うむ。美味い。濃厚なチョコクリームが、お前の氷魔法で極限まで冷やされていて、口溶けがアイスのようだ。……それに、この巨大な丸み(ケーキ)。非常に食べ応えがあって、素晴らしいボリュームだ。俺はこういう、大きくて柔らかいものは嫌いではないぞ」


「~~~~~~ッ!!///」


 トールの無自覚な「大きい方が好き」宣言に、氷華は茹でダコのように顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。


 宴もたけなわ。


 結衣ちゃんや仲間たちとグラス(子供用シャンメリー)を傾け合っていた白石さんが、空いたお皿を片付けようと立ち上がった時だった。


「あっ!」


 サンタエプロンの裾を自分で踏んでしまい、白石さんがバランスを崩してトールの方へ倒れ込んだ。


「危ない、白石殿」


 トールが瞬時に腕を伸ばし、白石さんを真正面から抱き留める。


 ドサッ!


 結果として――トールの顔面は、胸元の大きく開いたサンタエプロンからこぼれんばかりの『極上の双丘の谷間』へと、完璧な軌道でダイブ(埋没)してしまった。


「むぎゅぅぅっ!」


 甘い石鹸の香りと、信じられないほどの弾力。


「さ、佐藤様ぁぁぁっ!?///」


 悲鳴を上げながら身を離した白石さんと、顔を上げたトールの視線が、ほんの一瞬だけ、正面からぶつかった。


 途端に、二人の脳裏を同じ記憶がよぎる。雨の降る静かな夜、重ねた手のひらから伝わった体温。言葉もなく抱き寄せた、あの夜の確かな温もり。


 周りの騒がしさが、一瞬だけ遠くなる。


「……」


「……」


 白石さんの頬が、いつもの照れ隠しの怒りとは違う、じんわりとした熱を帯びていく。その瞳に浮かんだ、言い知れない潤みに、トールもまた耳の先まで赤く染めて、気まずそうに視線を逸らした。


 だが、それも刹那のことだった。


「も、もうっ! 佐藤様のおばかぁぁっ!!///」


 白石さんはいつも通りの調子を取り戻すと、頬を膨らませてトールの肩を軽く叩いた。


「ああっ、ずるいですわ! わたくしもクッションになりますの!」


「佐藤さん、チキンのおかわりありますよーっ!」


 真っ赤になって怒る(照れる)白石さんと、背中から抱きついてくる氷華、そして肉を差し出す盾花。


 外の世界では、エリートたちが寒い冬空の下でダンジョン攻略に血反吐を吐いている。しかし、マイペースな武士の居城(ペントハウス)では、極上の食材と最高に騒がしい『家族のクリスマス』が、暖かく、そして幸せに更けていくのであった。


 ――そして、慌ただしくも幸せな年末があっという間に過ぎ去り、大晦日の夜。


「佐藤様、お約束していた年越し蕎麦です! 暴風怪鳥のダシで、贅沢に仕上げてみました」


 白石さんが運んできたのは、こんがりとした鶏の香ばしい風味が湯気と共に立ち上る、特製の年越し蕎麦であった。テンペストモモ肉を余さず使った鶏天が、これでもかと山盛りに乗っている。


「うむ。テンペスト・バードの旨味が、蕎麦の一本一本にまで染み渡っているな。……このダシだけで永遠に飲んでいられる」


「私、鶏天だけで三人前はいけます……!」


 盾花が早速、蕎麦そっちのけで鶏天にがっついている横で、氷華は自身の分の蕎麦を静かに、しかし優雅にすすっていた。


「ねぇねぇ、パパ! 紅白見た後は、みんなで初詣行くんだよね!?」


 結衣ちゃんが、こたつの上でぴょんぴょんと跳ねながらトールの袖を引っ張る。


「ああ。約束通り、年が明けたら『二年参り』とやらに連れて行ってやろう」


「にねんまいり……?」


「うむ。大晦日の夜から、日付を跨いで元日にかけて神社に参る、この時代特有の風習らしい。イシュラーナ曰く『年をまたいで願を掛けると、御利益が二倍になる(諸説あり)』とのことだ」


『トール様、その説明ですが……実は五秒前に、わたくしが適当に検索して申し上げた豆知識ですの』


 スマホの中でイシュラーナが、悪びれた様子もなく、こっそり舌を出す。


 紅白歌合戦をBGMに、こたつでみかんを剥きながらまったりと過ごすうちに、日付はゆっくりと年を跨いでいった。


「――さて。行くか」


 零時を回ったのを見計らい、トールたちは厚着をして、近所の氏神様である渋谷の神社へと繰り出した。


 結衣ちゃんは白石さんとお揃いの兎柄の可愛らしい着物、氷華と盾花は温かい和装コート姿である。渋谷の街中だというのに、参道は初詣の人波でごった返していた。


「わあぁ……! 人がいっぱいだね、ママ!」


「はい。結衣、はぐれないように手を繋いでいましょうね」


 白石さんの和装姿(防寒用の道行コートの下は、上品な訪問着だ)は、参道の照明に照らされて一段と艶やかであり、すれ違う男たちが次々と二度見していく。


『白石殿の和装、破壊力が新年早々カンストしてますわーーッ!! 今年も俺得な一年になる予感がしますの!』


 イシュラーナが胸ポケットの中で盛大にはしゃぐ。


 長い行列に並び、無事に賽銭を投げ、鈴を鳴らして手を合わせる一同。


(……平穏。あとは、うまい飯が食えれば言うことなしだ)


 トールの願いは、いつも通り実にシンプルであった。


「わたくしは……もちろん、『来年こそは、少しでも成長できますように』ですわ……!」


 両手を合わせながら、切実な表情でぶつぶつと呟く氷華。何を成長させたいのかは、聞くまでもなかった。


「私は、氷華ちゃんのこと、これからもちゃんと守れますようにって……」


 盾花が真剣な顔で祈る姿を見て、氷華は隣で少しだけ目を潤ませた。


「パパとママと、氷華お姉ちゃんと盾花お姉ちゃんと、みんなでずっと、一緒にいられますように!」


 結衣ちゃんが大きな声で、何の恥じらいもなく願い事を叫ぶ。


 その無邪気な言葉に、白石さんは優しく目を細め、氷華と盾花は顔を見合わせて頬を緩めた。トールもまた、口には出さぬまま、小さく頷いていた。


 参拝を終えた帰り道、屋台の熱気とソースの焼ける香ばしい匂いに、トールの足がぴたりと止まる。


「白石殿。今宵はまだ宴の途中のようだ」


「ふふっ、そうですね。それでは、屋台で少し温まっていきましょうか」


 結局、甘酒と焼きたての大判焼き、熱々のたこ焼きを買い込んで、境内の隅の縁台に腰掛ける一同。


「はぁー……あったまるぅ……」


 盾花が甘酒の湯気に顔を近づけて、幸せそうに目を細める。


「今年も、部室と別荘が最高の一年になるといいですわね」


「うむ。定時退社と、うまい飯さえあれば、俺にはそれで十分だ」


 トールがそう言って甘酒を一口すすった、その時だった。


「――あっ!」


 冷え込みで足元が悪かったのか、白石さんが石畳の段差に躓き、トールの方へと倒れ込んでくる。


「危ない、白石殿」


 トールが反射的に受け止めると、その顔面は、道行コートの隙間からこぼれた着物の胸元に、またしても完璧な軌道でダイブしてしまった。


「むぎゅっ……!」


 その一瞬、白石さんの瞳に、あのクリスマスの夜と同じ、言い知れない潤みが過ぎった。


「さ、佐藤様ぁぁっ!? ま、また、こんな年明け早々……っ///」


「うむ。……初詣の御利益とは、実に素晴らしいものだな」


「もうっ! 佐藤様のおばかぁっ!!」


「ずるいですわ、白石さん! 今年こそはわたくしにも御利益がありますようにーーッ!」


 真っ赤になって怒る白石さんと、羨ましそうに便乗しようとする氷華、それを微笑ましく眺める盾花と結衣ちゃん。


 渋谷の夜空に、除夜の鐘の残響と、家族たちの賑やかな笑い声が溶けていく。


 こうして、規格外の武士と、彼を取り巻く愉快な仲間たちの新しい一年は、今年も変わらぬスローライフと共に、暖かく幕を開けるのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。