↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/77

第062話:大々的な宣伝と、究極カレーのための密林実習

 


「――ご覧ください! 渋谷代々木学園では、新興メジャーの最新カリキュラムにより、なんと入学からわずか半年で『第一学年の全生徒が第20階層を突破し、レベル20に到達』いたしました! 是非、皆様のお子様も我が学園へ!」


 十月。秋の気配が深まる中、朝のニュース番組の合間や渋谷の大型ビジョンでは、そんな渋谷代々木学園の真新しいCMがこれでもかと大々的に流されていた。


 先日の実習で、魔道具研究会の引率(という名のお散歩)によって数百人の一般生徒が第20階層を突破した事実。雷撃兵器の不良在庫で大赤字を出した新興メジャーの上層部は、なりふり構わずその事実だけを切り取り、学園の宣伝プロパガンダに利用したのである。

 結果として、その効果は絶大だった。「あの底辺のEクラスですらレベル20になれるなんて!」と世間の親たちは熱狂し、来年度の入学希望者が殺到、新興メジャーの株価は奇跡のV字回復を遂げていた。


 * * *


「……というわけで。学園のブランド力が爆上がりして上層部が調子に乗った結果、来週の『二学期・中間実技テスト』の舞台は、一気に飛んで【第30階層】で行うことになった」

 Eクラスの教壇で、凪教官が胃薬をボリボリと噛み砕きながら忌々しそうに告げた。

「ええええっ!? 第30階層!?」

「でも俺たち、もうレベル20超えてるし、意外と余裕なんじゃね?」

 一部の男子生徒たちが、自身のステータス画面を見て根拠のない自信を口にする。彼らは「氷のハイウェイ」を歩いてレベルが上がっただけで、実戦経験が全く伴っていないことに気づいていなかった。


「……五月蠅いな。せっかく涼しくなってきたのに、また外に出なければならんのか」

 教室の最後列。佐藤通トールは窓から秋空を見上げ、心底鬱陶しそうにため息をついた。

「俺は適当にサボるぞ。中間テストなど知らん」

「そうはいきませんわよ、佐藤さん! 第30階層といえば『深緑の地下密林』……。オークの群れや、殺人蟷螂キラーマンティスが跋扈する危険地帯ですのよ!」

 隣の席から、神宮寺氷華(氷の女王)が身を乗り出してくる。

「ええい、知らんと言っているだろう。俺の昼寝の邪魔を――」


『お待ちになって、トール様!』

 トールの胸ポケットから、イシュラーナ(スマホ)がバイブレーションを鳴らした。

『第30階層の地下密林は、ただの危険地帯ではありませんわ! あの階層でドロップする【オークの霜降り肉】は、エリートたちは見向きもしませんが……白石殿の手にかかれば、最高級の豚肉として化けますのよ!』

「……ほう」

 トールの目の色が変わる。

『さらに! 密林に生息する【マンドラゴラの根】を隠し味のスパイスとして使えば……今夜、白石殿が作ってくれる予定のカレーが、宇宙の真理に到達するほどの『究極のポークカレー』に進化しますわーーッ!』

「……よし。俺たちの本日のミッションは『カレーの具材調達』だ。満点フルスコアで通過するぞ」

「モチベーションの切り替わりが相変わらず極端ですわね!」

 氷華のツッコミを背に受けながら、トールは真っ直ぐな瞳で木刀の柄を握りしめた。


 * * *


 実習テスト当日。第30階層【深緑の地下密林】。

「ぎゃあああっ!? なんだこのカマキリ、動きが速すぎる!」

「だ、駄目だ、レベルは俺たちの方が上のはずなのに、剣が当たらないぃっ!」

 うっそうと茂るジャングルの中で、勘違いをしていた一般生徒たちは、プレイヤースキルの圧倒的な欠如により、さっそくモンスターたちに大苦戦パニックを強いられていた。


 そんな阿鼻叫喚の地獄絵図のド真ん中を、トールたち魔道具研究会の面々は、完全にピクニック感覚で歩いていた。

「ブモォォォォッ!!」

 茂みから、筋骨隆々の巨大なオークが巨大な斧を振りかざして飛び出してくる。

「邪魔だ」

 ――ヒュンッ。

 トールが歩みを止めることなく木刀を軽く振るうと、オークは白目を剥いて光の粒子となり、見事なサシの入った『極上霜降りオーク肉』がドロップした。

「キェァァァァッ!!」

 上空から奇襲をかけてきた殺人蟷螂の鎌を、盾花(タンク娘)が『絶対障壁イージス』で軽々と弾き返し、氷華が指輪で制御されたピンポイントの『フリーズ・ブリーズ』で凍り付かせる。


 その光景の最後尾では、鯖江パシリが自走ドローンにぶら下げた『500円の自動収集リュック』で、ドロップした肉や魔石をシュポポポッ! と全自動回収していた。

「ボス! オーク肉、すでに50キロ超えました! カレー何十杯分ッスかこれ!」

「うむ。次はスパイスだ。マンドラゴラを探せ」

 トールが鬱陶しそうに足元の奇妙な草を引っこ抜く。

「ギャァァァァァァァァァッ!!」

 引っこ抜かれたマンドラゴラが、鼓膜を破るような致死性の悲鳴を上げ、密林全体に響き渡る。

 しかし、トールはあらかじめ自分と仲間たちの耳元に『ピンポイントの絶対防音結界(見えない耳栓)』を展開していたため、その悲鳴は一切届いていなかった。

「うるさい根菜だ。コンッ」

 トールがマンドラゴラの頭を木刀の柄で叩くと、悲鳴はピタリと止まり、極上の香りを放つスパイスへと変化した。


「よ、余裕すぎますわ……。周りのクラスメイトたちが地獄を見ているというのに、わたくしたちだけ、ただのお買い物(お使い)ですの……」

 氷華が周囲の惨状と自分たちの温度差に遠い目をしている中、トールは腕時計を確認して頷いた。

「よし。カレーの具材は完璧に揃った。定時退社するぞ」

 学園の宣伝によって不当に引き上げられた「第30階層」という過酷なハードル。

 しかし、マイペースな武士の「食への執念カレー」の前には、どんな難関テストも、ただのスーパーマーケットの特売セールに過ぎないのであった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。