第056話:無慈悲なスパイ一掃と、家族公認のコスプレプレイ(?)
魔道具研究会の部室の入り口では、事無かれ主義の凪教官と、娘の青春を守るために親バカと化した神宮寺家当主(氷華の父)が、外部の調査員たちを相手に決死のディフェンス(もみ消しレスバトル)を繰り広げていた。
その裏側。部室の奥にある窓ガラスが、音もなく溶け落ちた。
「……フッ。表の連中が騒いでいる隙を突くのが、我々プロの流儀よ」
迷彩マントを羽織った数人の黒装束の男たちが、部室の中へと滑り込んでくる。彼らは世界有数の軍事企業から高額な報酬で雇われた、産業スパイ兼・裏の始末屋たちであった。
「見ろ!
あそこに展示されているのが、ネットを騒がせている無限冷却機とマジックバッグだ!
すべて回収しろ。邪魔な学生がいれば殺して構わん」
スパイたちが暗殺用の特殊ナイフを構え、展示スペースへと忍び寄ろうとした――その時。
「……五月蠅いな。せっかくの食後の休憩が台無しだ」
部室の最奥、特大アンティークソファーから、一人の男子生徒が気怠そうに立ち上がった。
「あ? なんだお前は。大人しくそこで寝て――」
スパイのリーダーが嘲笑おうとした瞬間。
――ヒュンッ!!
佐藤通の姿がブレたかと思うと、部室の空間そのものが歪むほどの凄まじい衝撃波が巻き起こった。
「ガハッ!?」
「ごッ、ぐえェェェッ!?」
木刀の神速の峰打ち。殺気すら乗っていない純粋な『暴力の風圧』だけで、スパイたちは全員、肋骨や手足を綺麗に粉砕され、一瞬にして壁際へと吹き飛ばされた。
数十億円の最新ステルス装備を身にまとった一流のエージェントたちが、一歩も動くことなく、文字通りただのゴミ屑のように無力化されてしまったのだ。
「チッ……。羽虫どもめ、部室の空気が汚れただろうが」
トールは心底鬱陶しそうに木刀を肩に担ぐと、傍らで皿洗いをしていた鯖江の召喚獣たちに顎でしゃくった。
「戦乙女、サキュバス。このゴミどもを処理しておけ。次から他の羽虫が寄り付かないよう、派手にな」
「はっ。マスターの御心のままに」
「ふふっ、任せてちょうだい」
トールの命令(パシリの召喚主である鯖江の意思は完全無視)を受け、二体のSSR神話級モンスターが動いた。
「不浄なる者どもめ、マスターの聖域を汚した罪、その身で贖え!
<神槍・ブリューナク(手加減版)>!!」
戦乙女が純白の槍を振るうと、まばゆい神聖な光の奔流がスパイたちを包み込み、「ギャアアアアッ!」という悲鳴と共に彼らを窓の外の空の彼方(数十キロ先の海の上)へと文字通り『星』にして打ち上げた。
「あら、私の子豚ちゃんたちはこっちよ。永遠の悪夢の中で踊りなさい――<ナイトメア・カーニバル>」
サキュバスが投げキッスを放つと、残りのスパイたちは「ひぃぃぃっ!
許して、許してぇぇっ!」と幻覚に苛まれながら泡を吹き、自ら進んで部室のダストシュート(ゴミ箱)の中へと頭から飛び込んでいった。
一流の産業スパイたちが、一切の慈悲もなく、そして過剰なまでに派手に処理されていく。
「ぼ、ボス……。スパイが一瞬で星になりましたけど……」
鯖江がガタガタと震える中、トールは「これでようやく静かになった」と、再びソファーに腰を下ろした。
――そこへ、タイミング良く部室の扉が開いた。
「パパ! ママ! お化け屋敷、すっごく怖かったよー!」
元気な声と共に駆け込んできたのは、実家のおばあちゃんに連れられて文化祭を回っていた、結衣ちゃんであった。
そして結衣ちゃんの丸い瞳は、胸のボタンが弾け飛びそうになりながら顔を真っ赤にしている『超過激サイズのメイド服姿の白石さん』に釘付けになった。
「わぁっ! ママ、フリフリのお洋服すごい!
お姫様みたいで、すっごく可愛い!」
「ゆ、結衣!? 違うの、これはただのお手伝いで……っ!」
結衣ちゃんの無邪気な絶賛に慌てふためく白石さん。しかし、後ろから入ってきたおばあちゃん(白石さんの母)は、頬に手を当ててニヤニヤと笑い出した。
「あらあら……。普段は真面目な顔をしているのに、若い旦那様の前ではこんなフリフリの過激な衣装を着て『接客ごっこ』をしてるのねぇ」
「お、お母さん!? 何を勘違いして――」
「夜のタワマンだけじゃ飽き足らず、わざわざ学校の文化祭でまでコスプレプレイだなんて……最近の若い夫婦は本当に激しいわねぇ」
「お母さぁぁぁぁんっ!?
昼間のワイドショーみたいな思考回路やめてくださいっ!!///」
完全にパニックになり、顔から火を出してしゃがみ込む白石さん。
しかし、結衣ちゃんはそんな母親の羞恥などお構いなしに、トールのズボンの裾を引っ張って同意を求めた。
「ねえパパ! ママ、すっごく可愛いでしょ!」
「……」
トールは、先ほどの『顔面ダイブ&極上ヒップホールド』の暴力的なまでの柔らかさと香りを両腕に思い出しながら、真顔で、かつ力強く頷いた。
「うむ。白石殿のメイド服という装甲は、前後ともに極上のクッション性と包容力を備えていた。俺の疲れた心身を癒す、誠に素晴らしい衣装だ」
「さ、佐藤様ぁぁぁっ!?
お母さんと結衣の前で何を仰ってるんですかぁぁぁっ!!///」
限界突破の茹でダコと化した白石さんが悲鳴を上げる。
「まあまあ! 前後ともにたっぷり堪能したのね! 本当に熱々ねぇ!」
おばあちゃんがポンッと手を叩いて喜び、結衣ちゃんが「やったー!
パパもママ大好き!」と無邪気にバンザイをした。
……その「完全に出来上がった家族のイチャイチャ空間」を少し離れた場所から見ていた氷華と盾花は、自分たちの勝てる隙が1ミリもないことを悟り、白目を剥いてソファーにへたり込んでいた。
「……終わりましたわ。あれはもう、完全に『夫婦の営み』の領域ですの……っ」
「勝てませんよ……。あのメイド服の破壊力でも、家族の絆でも、絶対に勝てないですぅぅっ……」
喧騒が一段落し、結衣ちゃんとおばあちゃんがはしゃぎながら他の出し物のパンフレットを見に行った、その隙のことだった。
白石さんが、ふと真剣な顔でトールを見上げた。
「……冗談みたいに聞こえたと思いますけど。結衣も、母も、今日みたいに佐藤様のことを『家族』として扱えるのを、本当に嬉しく思っているんです」
「……そうか」
トールは短くそう答えただけだったが、その声には、いつものおちゃらけた響きはなかった。白石さんは、それだけで十分だというように、そっと目を細めて微笑んだ。
窓の外の遠く空の彼方で、スパイたちが打ち上げ花火のようにキラキラと輝いている。
大人の色気と極上のハプニング、そして無慈悲なスパイ一掃劇。
ヤバすぎるオーパーツが並ぶ魔道具研究会の文化祭は、強面武士と超過激なメイドお母さんの『家族公認のイチャイチャ空間』として、最高にカオスで平和なフィナーレを迎えるのであった。




