第044話:極上の海鮮・オーク肉BBQと、夜のビーチの極楽ハプニング
オークの先遣隊による強襲と、魔剣カタストロフの抜刀から数十分後。
無事に神宮寺氷華を救出し、トールは彼女を抱きかかえたまま、合宿所のプライベートビーチへと帰還した。
「お帰りなさいませ、佐藤様! 氷華ちゃん!」
「氷華ちゃぁぁぁんっ! よかった、無事で本当によかったぁぁっ!」
待機していた白石さんが駆け寄り、盾花が号泣しながら氷華に抱きつく。
「心配をかけてごめんなさい、盾花。……トールくんが、助けてくれましたの」
氷華はトールの上着を羽織ったまま、少し顔を赤らめてトールを見上げた。
「うむ。それよりも白石殿、食材の再調達が完了したぞ」
トールが背後のパシリ(鯖江)に顎でしゃくると、自律ドローンにぶら下がったマジックバッグから、ドサドサと大量の食材が砂浜のシートの上に吐き出された。
深海ボスからドロップした巨大イカのゲソと、幻の特大ホタテ。そして――。
「……さ、佐藤さん? この、巨大な霜降りのブロック肉はなんですの?」
「ああ。オークの肉だ。奴らにイカを踏み潰されたからな、慰謝料代わりに切り落としてきた」
異世界のオーク肉は靴底のように硬く血生臭かったが、現代ダンジョンの魔素を吸って育ったオークの肉は、美しい赤身と雪のような脂身が層をなす『極上の霜降り肉』であった。
「素晴らしいです! これなら最高級の豚肉以上の、極上のステーキになりますよ!」
白石さんのプロの料理人としての瞳が輝き、すぐさまBBQの準備が再開された。
一方、ビーチの片隅では。
「貴様らァッ! 調子に乗って未知のエリアの封印を解き、あまつさえ魔物を呼び寄せるなど、探索者として言語道断だッ!!」
Eクラスを陥れようとして逆にオークを呼び寄せてしまったAクラスの残党たちが、新任の凪教官から容赦のない雷を落とされていた。
「ひぃぃぃっ! す、すいませんでしたぁっ!」
「貴様らは全員、合宿期間中のトイレ掃除と砂浜のゴミ拾いの刑だ! 一歩でもサボってみろ、俺の権限で一発退学にしてやる!」
エリートたちは疲労困憊のままゴミ袋を持たされ、泣きながらビーチの清掃へと駆り出されていった(マイルドなざまぁ)。
「……はぁ。また俺の胃が……」
生徒たちを怒鳴り散らした後、凪教官はテントの裏で胃薬を水で流し込んだ。
彼の手元のタブレットには、『オーク出現は次元のバグであり、海が割れたのは特異な自然現象である』という、苦しい言い訳で捏造された報告書が表示されている。イシュラーナのハッキングで証拠映像は改竄済みだが、上層部を納得させるための作文は彼の仕事だった。
ジュワァァァァァッ!!
その時、ビーチに食欲を暴力的に刺激する音が響き渡った。
「お待たせしました! 究極の海鮮&オーク肉BBQです!」
白石さんが網の上に並べたのは、バターと醤油が焦げる香ばしい匂いを放つ『幻のホタテ』と、プリプリに焼き上がった『巨大イカのゲソ』。そして、網の半分を占領する、分厚く切り出された『オークの霜降り肉の炭火焼き』だった。
「いただきます」
トールは、まずはオークの厚切り肉を箸で掴み、口へと運んだ。
「…………ッ!!」
トールの脳髄に、美味の雷鳴が轟いた。
異世界の硬いオーク肉の記憶が、一瞬にして上書きされる。炭火で香ばしく焼かれた表面を噛み破ると、イベリコ豚を遥かに凌駕する濃厚で甘い脂が口いっぱいに溢れ出す。白石さん特製のニンニク醤油ダレが肉の旨味を極限まで引き出し、噛むほどに多幸感が押し寄せてくるのだ。
「美味い……! なんだこの圧倒的な肉の旨味は! オークとはこれほどまでに美味なる生き物だったのか……!」
トールはすぐさま、飯盒で炊き上げられた白米の山を猛烈な勢いでかき込んだ。
「ホタテも最高ですぅぅっ! バター醤油と白ご飯、無限にいけますぅっ!」
「こちらの海鮮塩焼きそばも絶品ですわ! イカの旨味が麺に染み込んで……お箸が止まりませんの!」
盾花と氷華も、先ほどの恐怖などすっかり忘れ、至福の表情でBBQを堪能している。
「凪先生、お疲れ様です。お仕事の合間にどうぞ」
テントの裏で項垂れていた凪教官のもとへ、白石さんが紙皿に盛られたイカ焼きとオークの串焼き、そして塩焼きそばを差し入れた。
「あ、ありがとうございます……」
凪教官がフラフラとオークの串焼きを口にした瞬間。
「うっ……美味すぎる……っ!! なんだこの甘い脂は……っ!」
徹夜の報告書作成で荒んだ胃袋に、極上のタンパク質と炭水化物が染み渡っていく。白石さんの温かい笑顔と、この至高のBBQ。
「……俺は、パシリでいい。この飯が食えるなら、学園のシステムなんざ幾らでも騙してやる……っ!」
事無かれ主義の教官は、涙を流しながらイカ焼きを噛み締め、もみ消し役としての確固たる生き甲斐を再確認するのであった。
* * *
すっかり日が落ちた、夜のビーチ。
お腹を満たした魔道具研究会の面々は、砂浜で花火を楽しんでいた。波の音と、パチパチと燃える手持ち花火の光だけが、周囲をロマンチックに照らしている。
「さ、佐藤さん……今日は、本当にありがとうございました。その……少し、肝試しみたいで怖いですわね」
暗がりに怯えた氷華が、トールの背中にピタリと張り付いてきた。水着越しの体温と、Aスタイル特有の『板氷』のような硬い感触がトールの背中に伝わってくる。
「気にするな。それに、暗闇に魔物が潜んでいようが、俺がすべて切り伏せる」
「……もう。そういうところが、ズルいですのよ……」
氷華が顔を赤くしてトールの背中に顔を埋めた、その時。
「ああっ!」
少し離れた場所で花火の補充を取りに行こうとしていた白石さんが、暗闇の砂浜に足を取られてバランスを崩した。
「むっ!」
トールが瞬時に振り返り、倒れそうになった白石さんを正面からガッチリと抱き留めた。
「さ、佐藤様っ……!」
「危なかったな、白石殿」
――ボフッ。
パレオビキニに包まれた、大人の女性の暴力的なまでの『双丘』が、トールの胸板にムギュゥゥッと強烈な質量で押し付けられる。
夜の海風に乗って漂う、石鹸と潮騒の混ざり合った艶めかしい香り。暗闇と水着という無防備すぎる状況での超密着に、さしものトールも呼吸を忘れてフリーズした。
『ギャアアアアアアッ!! 夜のビーチでのラッキースケベからの、Wヒロイン密着イベント!! 破壊力が限界突破してサーバーが飛びそうですわーーッ!!///』
暗がりの中で、イシュラーナの無音シャッターのフラッシュが狂ったように瞬き続ける。
「ご、ごごごめんなさい佐藤様ッ! 私ったら、またドジを……っ///」
「いや……誠に、良いクッションであった」
「もうっ! 佐藤様!!///」
顔を真っ赤にしてトールの胸をポカポカと叩く白石さんと、背中から「わたくしだって、いつかはクッションになりますわ!」と謎の対抗心を燃やす氷華。
エリートたちの理不尽な悪意も、オークの襲撃も、美味しい海鮮BBQと夜のハプニングの前にすべて溶けて消え去った。
夏の夜の海風を感じながら、マイペースな武士は両腕(と背中)に感じる極上の柔らかさ(と硬さ)に身を委ね、波乱に満ちた合宿の夜を、最高に平和なスローライフとして味わい尽くすのであった。




