第042話:試着室の死闘再びと、大人のパレオビキニ
七月。学園主催の『臨海ダンジョン合宿』を数日後に控えた、ある休日。
佐藤通たち魔道具研究会の面々は、特別調理員として合宿に同伴することになった白石さんと共に、渋谷の大型デパートの水着売り場へと足を運んでいた。
「……うぅっ。どうして、どうしてこんな布面積の少ない水着ばかりなんですの……!」
水着売り場の片隅で、神宮寺氷華(氷の女王)がズラリと並んだビキニを前に絶望の涙を流していた。
ハイブリッド指輪の微量な発育効果をもってしても、彼女の『Aスタイル(絶壁)』は未だ劇的な成長を遂げていない。このままビキニを着れば、惨めな思いをするのは火を見るより明らかであった。
「氷華ちゃん! 私はこの元気なイエローのビキニにしましたよ! 氷華ちゃんも一緒にビキニ着ましょうよ!」
小柄ながらも健康的なプロポーションを持つ戌井盾花(タンク娘)が、無邪気にビキニを掲げて追い討ちをかける。
「だ、駄目ですわ盾花! わたくしは……この、露出を極限まで抑えた『旧式スクール水着』にしますの……っ!」
氷華は真っ赤な顔でスクール水着を握りしめ、逃げるように試着室へと消えていった。
そんな騒がしい少女たちを尻目に、トールは売り場の端にあるソファにどっかりと腰を下ろし、欠伸を噛み殺していた。
「……五月蠅いな。海に行くのだから、濡れてもいい布を巻いておけば十分だろうに」
『トール様! 水着回というのは、現代日本において最も神聖で重要なイベントですのよ! 刮目して美少女たちの水着姿を網膜に焼き付けるのですわ!』
胸ポケットのスマホ(イシュラーナ)がバイブレーションで力説するが、トールの興味はすでに「合宿でどんな海鮮が食えるか」に向いていた。
――その時だった。
「あ、あの……佐藤様。少し、よろしいでしょうか……?」
試着室のカーテンがわずかに開き、そこから顔を真っ赤にした白石さんが、恥ずかしそうにひょっこりと顔を出した。
「ん? どうした、白石殿。水着は決まったのか?」
「そ、それが……デザインは気に入ったのですが、背中のホックというか、紐が……どうしても一人で結べなくて……。氷華ちゃんたちを呼ぼうと思ったのですが、どこかに行ってしまったみたいで……っ」
白石さんは涙目でモジモジとしている。どうやら、自分の豊満すぎるサイズに合う水着を試着したものの、構造が複雑で身動きが取れなくなってしまったらしい。
「……なるほど。以前、俺が制服のネクタイで苦戦したのと同じだな。仕方ない、俺が手伝おう」
トールは立ち上がり、一切の躊躇なく、白石さんのいる試着室の中へと足を踏み入れた。
シャッ、とカーテンが閉められる。
一畳にも満たない、狭い密室。
「ひゃっ……! さ、佐藤様っ、やっぱり男の人に手伝ってもらうのは……っ///」
「気にするな。背中を向けてくれ」
トールが背後に立つと、白石さんは顔から火が出そうなほど赤面しながら、ゆっくりと振り返った。
その瞬間、トールの目がわずかに見開かれた。
鏡越しに見える白石さんの水着姿は、大人の女性の色気を極限まで引き出す『黒のパレオ付きビキニ』であった。
しかし、彼女の暴力的なまでの豊満な双丘は、ビキニのカップに到底収まりきっておらず、今にもこぼれ落ちそうに悲鳴を上げている。背中の紐が結ばれていないため、前かがみになればすべてが露わになってしまうという、極めて危険な状態だった。
「……なるほど。確かにこれは、一人で着るには構造に無理があるな」
「そ、そうなんです……。少しサイズが小さかったみたいで……っ。お手数ですが、この背中の紐を、ギュッと結んでいただけますか?」
「うむ。任せておけ」
トールは白石さんの滑らかな白い背中に手を伸ばし、二本の紐を掴んだ。
――しかし。
紐をギュッと結ぼうとトールが少し力を込めた、その時。
白石さんの規格外のバストの重量と張力が、水着の紐の摩擦係数を上回った。
「あっ……!」
ツルンッ、とトールの指から紐が滑り抜け、ビキニのフロント部分のテンションが失われた。
「きゃあああっ!?」
水着がズレ落ちそうになり、白石さんが咄嗟に胸を隠そうと身体を丸める。その拍子に、彼女の足が試着室の小さな段差に引っかかった。
「危ない!」
トールが反射的に腕を伸ばし、倒れそうになった白石さんの身体を正面から抱き留める。
ドサッ。
狭い試着室の壁にトールが背中を預け、その胸の中に、水着が半ばはだけかけた状態の白石さんがすっぽりと収まる形となった。
そして――トールの両腕は、ズレ落ちたビキニからこぼれ出た、白石さんの『圧倒的で暴力的なまでの双丘』を、図らずも下からすくい上げるようにガッチリとホールドしてしまっていた。
「…………ッ!!」
「さ、佐藤様ぁぁぁぁっ……!?」
石鹸の甘い香りに、ほんのりと混ざる汗の艶めかしい匂い。
異世界のドラゴンの肉よりも柔らかく、それでいて重力に逆らう圧倒的な弾力。大人の女性の極上の肌の感触が、トールの両腕の神経をショートさせる。
「……ほう」
トールは顔を真っ赤にしながらも、真顔で思考を宇宙へと飛ばしていた。
(なんだこの感触は……。以前、リビングで倒れ込んだ時以上のダイレクトな柔らかさ……。現代の『水着』という装甲は、誠に、誠に素晴らしい文化だな……!)
『ギャアアアアアアアアアッ!!!』
トールのズボンのポケットの中で、イシュラーナのAIコアが熱暴走を起こし、狂ったように無音シャッターの連写を始めた。
『水着お着替えハプニングからの、超絶密着バストホールドォォォッ!! 破壊力が大気圏を突破して成層圏まで到達してますわーーッ!!///』
激しいバイブレーションが試着室に響き渡る。
「ご、ごごごめんなさい佐藤様ッ! わ、私っ……!」
白石さんは涙目で茹でダコのように顔を赤くし、慌ててトールの腕から抜け出すと、自力で無理やり紐を結んで胸を隠した。
「……いや。俺の方こそ、紐の張力を見誤った。武士として一生の不覚だ。……だが、誠に良いクッションであった」
「も、もうっ! 佐藤様ったら!!///」
白石さんは顔を両手で覆い、恥ずかしさのあまりその場にしゃがみ込んでしまった。
数分後。
「お待たせしました……」
ようやく気を取り直した白石さんが試着室から出てくると、そこには黒のパレオビキニを完璧に着こなし、大人の色気と圧倒的なプロポーションを放つ絶世の美女の姿があった。
「……うむ。非常によく似合っているぞ、白石殿」
トールが真顔で(しかし耳を真っ赤にして)褒めると、白石さんは嬉しそうにはにかんだ。
「あの、佐藤さん! わたくしの水着姿も見てくださいませ!」
そこへ、旧式スクール水着を着て、胸元にタオルをグルグル巻きにした氷華がドヤ顔で現れたが、白石さんの圧倒的なスタイルを見た瞬間、その場で膝から崩れ落ちた。
「……勝てませんわ。大人の女性には、絶対に勝てませんの……っ」
「ドンマイです氷華ちゃん! 成長期はこれからですよ!」
ビキニ姿の盾花が慰める中、トールは一人、先ほどの極上の感触を両腕に反芻しながら満足げに頷いていた。
「よし。これで合宿の準備は完璧だ。後は海で、美味いイカ焼きとハマグリを食うだけだな」
大人の色気に翻弄されながらも、最終的な目的は常に「飯」。
マイペースな武士と最強の家政婦さんが織りなす、波乱と極楽ハプニングに満ちた『臨海ダンジョン合宿』が、いよいよ本格的に幕を開けるのであった。




