第040話:無自覚な超人ダンスと、魔力酔いのフルーツタルト
学園中が注目する『ダンジョン体育祭』のメイン競技、大ダンス大会。
スタジアムの特設ステージには、ダンジョンの魔力波長とシンクロするための特殊なフィールドが展開されていた。
「さあ、いよいよ我々Eクラスの出番だ。お前たち、白石殿のフルーツタルトのために死力を尽くせ」
佐藤通はステージの袖にパイプ椅子を広げ、どっかりと座って欠伸をしながら指示を出した。
「って、佐藤さんは踊らないんですの!?」
「総大将は動かんものだ。音楽、スタート」
トールの適当な合図と共に、激しいビートのダンスミュージックが鳴り響いた。
ステージに立つのは、氷華、盾花、鯖江の三人。
「わ、わたくし、幼い頃に習ったワルツのステップしか知りませんわよ……っ!」
氷華が戸惑いながら一歩を踏み出した――その瞬間であった。
先日の「海鮮ピクニック(エリアボス討伐)」のおこぼれで【レベル20】に到達し、魔力【SS】、敏捷【C】というエリートを遥かに凌駕するステータスを得ていた彼女の身体が、本人の意思を完全に無視して超常的な動きを見せた。
「えっ!? か、身体が勝手に……きゃあああっ!」
氷華は美しい氷のオーラを纏いながら、一流のフィギュアスケーターも驚愕する光速の4回転ジャンプとスピンを連続で決めてみせた。
「うおおおっ! なんか力があふれてきますぅぅっ!」
続いて、体力【S】、筋力【A】の圧倒的フィジカルを誇る盾花が、背中の『絶対障壁』を背負ったまま床に手をつき、重力を完全に無視した超高速のウィンドミル(ブレイクダンスの大回転)をぶちかます。
「俺も、俺も足が止まらないッスゥゥゥッ!」
鯖江は敏捷【B】(逃げ足特化)の脚力を活かし、摩擦係数ゼロのキレッキレなムーンウォークでステージを滑空していく。
彼らの無自覚な超人ステップがダンジョンの魔力波長と完璧にシンクロし、スタジアム全体が虹色の光に包み込まれた。
ピピピッ……ピィィィィィィンッ!!
運営が用意した魔力測定スコアボードの数値が限界を突破し、爆発して煙を上げる。
「……よし。完璧なフォーメーションだったな」
ただ椅子に座って見ていただけのトールが、満足げに頷いた。
結果は言うまでもなく、Eクラスのぶっちぎりの総合優勝であった。
Aクラスのエリートたちが絶望の涙を流す中、トールは運営から優勝賞品である『超特級・幻のダンジョンフルーツ盛り合わせ』と『最高級海鮮の目録』をひったくるように受け取った。
「おい、佐藤……」
そこへ、新任の凪教官が胃薬を噛み砕きながら、死んだ魚のような目で近づいてきた。
「お前らの異常なスコアも、あのチートすぎる自動回収鞄の件も……上の連中には『すべて機材のエラーとバグでした』って、俺が全力で報告書を捏造してもみ消してやる」
「ほう。それは助かる」
「だから頼む……! 俺の定時退社のために、明日からもずっと部室の結界の中で、一歩も外に出ずに昼寝しててくれぇ……!」
かくして、事無かれ主義の凪教官は、トールの昼寝を守るための立派な『パシリ教官兼もみ消し役』へと覚醒を果たしたのであった。
* * *
「お待たせしました! 体育祭優勝、おめでとうございます!」
その日の夜。ペントハウスのダイニングに、エプロン姿の白石さんが至高の祝勝会メニューを並べた。
テーブルを彩るのは、手に入れた目録の最高級海鮮と、ウォーター・サーペントの極上白身肉をふんだんに使った『海鮮の冷製カペッリーニ(細麺パスタ)』。トマトとバジルの爽やかな酸味が、疲れた胃袋を優しく刺激する。
「……美味い。運動(見ていただけ)の後の身体に、この冷たいソースと海鮮の濃厚な旨味が染み渡る」
トールが神速のフォークさばきでパスタを平らげると、いよいよ本日のメインイベントが運ばれてきた。
「デザートは、幻のフルーツを使った究極のタルトです!」
純白の皿の上に鎮座するのは、虹色に輝くダンジョンマンゴーや、星空のように瞬くメロンが山盛りに乗った特大のフルーツタルト。
トールたちが一口食べた瞬間、フルーツの常識を覆す圧倒的な甘味と、ナイアガラの滝のような果汁が口内で弾けた。
「んんんんんまァァァァァイッ!!」
盾花と鯖江が涙を流して天を仰ぎ、氷華も「ほっぺたが落ちますわ……!」と顔を綻ばせる。
――しかし。
この『幻のダンジョンフルーツ』には、一つだけ隠された効果があった。人体に無害ではあるが、極上の甘味と共に気分を高揚させる『微弱な魔力酔い』の成分が含まれていたのだ。
レベルが20以上に上がり、魔力耐性のついた氷華や盾花は「なんだか身体がポカポカしますわ」程度で済んでいたが、一般人である白石さんには効果覿面だった。
「……はぁ。佐藤様ぁ……このフルーツ、とっても甘くて……美味しいですねぇ……」
白石さんが、とろんとした熱っぽい、艶めかしい瞳でトールを見つめ、フラフラと立ち上がってトールの隣の席へと座り込んできた。
「し、白石殿? 顔が赤いぞ。それに息が荒い」
「えへへ……佐藤様、頑張ったご褒美に、あーん、してあげますぅ……」
白石さんがフォークでタルトを刺し、トールの口元へ。その際、酔いでバランスを崩した彼女の身体が、トールにピトッと完全に寄りかかった。
夏用の薄手のトップスとエプロン越しに、彼女の尋常ではないボリュームの『双丘』が、トールの腕にムギュゥゥッと暴力的なまでの質量で押し潰される。
「……っ!」
幻の果実の甘い匂いと、白石さんの艶めかしい汗の香りが混ざり合う。大人の女性の無防備すぎる密着と、腕に伝わってくる圧倒的な弾力に、さしものトールもフォークを持ったまま顔を真っ赤にしてフリーズした。
『ギャアアアアアッ!! 魔力酔いハプニングからの、超絶密着あーんイベント!! 白石殿の破壊力がカンストして大気圏を突破しましたわーーッ!!///』
テーブルの上のイシュラーナが、狂ったようにフラッシュを焚いて連写を始める。
「ああっ、ずるいですわ! わたくしも佐藤さんに『あーん』しますの!」
「私もーっ! 佐藤さん、お肉も食べてくださーい!」
魔力酔いでテンションのおかしくなった氷華と盾花までが、トールに左右から抱きついてくる。
体力【S】となった盾花のハグはもはや万力であり、氷華のAスタイルがトールの背中に「板氷」のようにゴツンと当たる。
「ぬぉっ!? ま、待てお前ら、苦しい……ッ!」
一方、ベランダでは鯖江がサキュバスに「よく頑張ったわね、可愛い下僕」と膝枕され、歓喜の涙を流しながらフルーツを口に入れてもらっていた。
極上の飯、大企業をもみ消すパシリ教官の誕生、そして限界突破のラッキースケベハプニング。
「……やれやれ。誠に、騒がしくて極楽である」
トールは両腕に極上の柔らかさ(と板氷)を感じながら、カオスで幸せな祝勝会の夜に、身も心も委ねていくのであった。




