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異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第三章:ダンジョン体育祭と、もみ消し教官の誕生

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第037話:最高級海鮮の採取と、神域の白米

 


 六月の学園の一大イベント『ダンジョン体育祭』。そのメイン競技が「大ダンス大会」であり、総合優勝の賞品が『超特級・幻のダンジョンフルーツ盛り合わせ』と『最高級海鮮の目録』であると発表された放課後。

 魔道具研究会の部室では、神宮寺氷華(氷の女王)と戌井盾花(タンク娘)が、タブレット端末を見ながら頭を突き合わせていた。

「……ダンスと言っても、わたくしは幼い頃に社交ダンスの基礎を習った程度ですわ。激しいステップなど踏めませんのよ」

「私も、大盾を持って踊るなんて想像つかないですよぉ。佐藤さーん、どんなフォーメーションにするんですかー?」

 二人が部室の特大ソファーを振り返ると、そこには佐藤通トールが腕を組み、非常に険しい真顔で虚空を睨みつけていた。

「……最高級、海鮮」

「えっ?」

「フルーツタルトも捨てがたいが……やはり海鮮だ。白身魚の極上の天ぷらを、天つゆにくぐらせて炊きたての白米でかき込む……。そんな想像をしてしまったら、体育祭の優勝賞品まで待てるはずがないだろう」

 トールは弾かれたように立ち上がり、立てかけてあった木刀を手にした。

「ダンスの特訓には、良質なタンパク質が不可欠だ。おい、海鮮採取にいくぞ」

「い、今からですか!? っていうかそれ、ただ自分が食べたいだけですわよね!?」

「ボスゥ! ドローンの準備できてますぅっ!」

 氷華のツッコミを完全に無視し、トールと鯖江パシリは意気揚々と部室を飛び出していった。


 * * *


 学園地下ダンジョン・第11〜20階層【湿った土塊と地下水脈】。

 初心者卒業帯と呼ばれるこの階層は、ぬかるんだ足場と薄暗い水脈が続く、探索者にとって非常に厄介なエリアである。

 ――だが、今日のトールにとっては、ただの『巨大な生け』に過ぎなかった。

「シュルルルルッ!」

 泥の中から、猛毒を持つ【ポイズンリザード】が飛び出してくる。

「トカゲの尻尾は珍味だと聞いた。イシュラーナ、毒は抜けるか?」

『お任せくださいませ! わたくしの超絶スキャンで毒袋の位置を完璧に特定! 切断すべき座標をトール様の網膜(スマホのAR画面)にマッピングしますわ!』

「うむ。コンッ」

 トールがすれ違いざまに木刀の峰を落とす。ポイズンリザードは白目を剥いて光の粒子となり、毒袋が完全に除去された安全で新鮮な『尻尾肉』だけがドロップした。

「ゲコォォォォッ!!」

 続いて、牛ほどの大きさがある【ジャイアントトード】が巨大な舌を伸ばしてくる。

「異世界のカエルは泥臭くて食えたものではなかったが……ここの水は綺麗だからな。美味いかもしれない」

 コンッ。

 一撃で沈んだ巨大ガエルからは、極上の地鶏を超える弾力を持つという『太もも肉』がドロップする。

 それらの極上食材を、鯖江の自走ドローンにぶら下がった500円のリュックサック(自動収集マジックバッグ)が、ダイソンの吸引力でシュポポポポッ! と全自動で回収していく。


「……あの、佐藤さん。海鮮を獲りにきたのではなくて?」

「これではただのゲテモノ狩りですわよ……っ」

 ドン引きしながらついてくる氷華と盾花を尻目に、トールはついに第20階層の最深部、広大な地底湖へと足を踏み入れた。

「シャァァァァァァァァッ!!」

 湖面が爆発し、水飛沫の中から巨大なエリアボス【ウォーター・サーペント】が鎌首をもたげた。青く輝く美しい鱗を持つ、レベル20の強力な水棲魔獣である。

「来たな。本日のメインディッシュ」

 トールの瞳に、極上の食欲が発火する。

「大人しく、白石殿の天ぷら鍋に収まれ」

 ヒュンッ!

 空間を切り裂くような無音の踏み込み。トールが空中で木刀を一閃させると、強固なサーペントの胴体がまるで豆腐のように両断された。

 ドズゥゥゥンッ!!

 光の粒子と共に、臭みが全くなく、上品で脂の乗った『極上白身肉』が大量にドロップし、リュックサックへと吸い込まれていく。

「よし。鯖江、そこの地下水脈の水を汲めるだけ汲んでおけ。この階層の水は、魔力で不純物が完全に浄化された『極上ピュアウォーター』だ。これで米を炊けば、さらに美味くなるはずだからな」

「イエッサー! ポリタンクに限界まで詰めますボス!」

 こうして、ダンスの練習を完全に放棄した「海鮮(と珍味)採取ピクニック」は、圧倒的な大漁で幕を閉じた。


 * * *


「お待たせしました! 異世界と現代のフュージョン・フルコースです!」

 その日の夜。ペントハウスのダイニングに、エプロン姿の白石さんが次々と大皿を並べていった。

 テーブルの中央には、ウォーター・サーペントの極上白身肉を使った『薄造りのお刺身』と、衣が黄金色に輝く『サクサクの天ぷら』。

 その隣には、ジャイアントトードの太もも肉をカラッと揚げた『大ぶりの唐揚げ』と、食欲をそそる香りを放つ『バター醤油ソテー』。

 さらに、ポイズンリザードの尻尾肉を甘辛いタレで焼き上げた『炭火焼き鳥(焼きトカゲ)風』の串焼き。

 そして――極上ピュアウォーターを使って土鍋で炊き上げられた、真珠のように輝く『神域の白米』。


「いただきます」

 トールは祈るように両手を合わせると、まずはウォーター・サーペントの白身天ぷらを箸で摘み、温かい天つゆにくぐらせて口へと運んだ。

 サクッ……!!

「…………ッ!!」

 トールの脳髄に、美味の雷鳴が轟いた。

 高級魚のクエやフグにも匹敵する、上品でありながらも濃厚な脂の旨味。それが白石さんの完璧な火入れによって、ふっくらとした熱々の白身として口の中で解れていく。

 すかさず、神域の白米をかき込む。ピュアウォーターで炊かれた米は、一粒一粒が自ら甘みを主張し、天ぷらの脂を極上の高みへと昇華させた。

 トールの箸の動きが、神速の無限ループへと突入する。


「んんんんんまァァァァァイッ!!」

 向かいの席では、盾花がジャイアントトードの唐揚げにかぶりつき、涙と鼻水を流していた。

「カエルのお肉なんて初めて食べましたけど……これ、超高級な地鶏より弾力があって、ジューシーな肉汁が溢れてきますぅぅっ!」

「こ、こちらのトカゲの尻尾も……! 炭火の香ばしさと甘辛いタレが絡んで、もう、白ご飯が止まりませんわ……っ!」

 氷華も「氷の女王」の仮面をかなぐり捨て、串焼きを片手に白米を猛烈な勢いで掻き込んでいる。


「……美味い。誠に美味である」

 トールはトードのバター醤油ソテーを咀嚼しながら、目から一筋の涙をこぼした。

「異世界で食った泥臭いカエルとは、完全に別次元の食べ物だ……。これほどの美味を前にしては、いかなる魔神も、いかなる大企業もひれ伏すしかないだろう」

『トール様、また感動のスケールがバグってますわ! でもこの飯テロ映像、深夜の裏掲示板に投下したら間違いなく億バズり確定ですのよ! 草www』

 イシュラーナが激しくバイブレーションを鳴らすが、トールは意に介さず、ひたすらに白石さんの手料理(と自ら調達した極上食材)を味わい尽くしていく。


「ふふっ。皆さん、いっぱい食べてくださいね。ピュアウォーターのおかげで、お出汁もすごく美味しく引けたんです」

 白石さんが頬に手を当て、慈愛に満ちた笑顔で見守っている。


「……ふぅ。食った食った」

 ついに神域の白米が入ったおひつを空にしたトールは、特大ソファーに移動して深く息を吐いた。

「よし。極上のタンパク質は補給した。これで完璧なダンスのフォーメーションが組めるな」

「だから! 結局食べて寝るだけで、ダンスの練習なんて一秒もしてないじゃないですか!」

「わたくし、もうお腹がパンパンで動けませんわ……」

 盾花のツッコミと、ソファーで丸くなる氷華の声を聞きながら、トールは満足げに目を閉じて平和な寝息を立て始めた。

 大ダンス大会の特訓は全く進んでいないが、魔道具研究会の胃袋と幸福度は、今日も限界突破のカンストを記録し続けるのであった。







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