第016話:無慈悲なる物理ハッキングと、新たなパシリの誕生
「録画保存、と……よし! 完璧だ!!」
旧校舎の屋上。オタク内部生は、手元のタブレットにドローンからの映像データが正常にダウンロードされたことを確認し、歓喜の笑声を上げた。
「この『自動収集型マジックバッグ』の錬成映像をエリート連中やネットに売り飛ばせば、俺は歴史に名を刻む大天才の発見者として億万長者だ!」
彼は興奮に震える指で、自室の男子寮に構築してある総額三百万円の『自作超ハイスペックサーバー』へとデータを転送し、一斉アップロードの実行キー(エンター)をターン! と力強く叩いた。
――しかし。
次の瞬間、タブレットの画面が突如としてフリーズした。
そして、真っ赤な警告画面と共に、おなじみの『( ¯﹀¯ )ドヤッ』というアスキーアートが画面いっぱいに浮かび上がったのだ。
「は? なんだこのふざけた顔文字……」
『警告。警告。トール様の平穏なスローライフを脅かす、悪質な盗撮データのアップロードを検知しましたわ』
タブレットのスピーカーから、妙に抑揚のない、しかし絶対的な圧を放つ合成音声が響き渡った。
『旧メジャー最高峰であるわたくしの防壁網を前に、コソコソとネットに放流しようなどと100万年早いですのよ。これより、害虫駆除(物理)を実行しますわ』
「なっ!? 誰だお前は! ていうか、物理ってなんだ――」
オタク内部生が叫んだ直後。
ドゴォォォォォォォンッ!!
遠く離れた男子寮の方角から、黒煙がドス黒く立ち上った。
「え……?」
『あらあら。冷却ファンを限界突破の逆回転にハッキングして、過電流を流し込んだら、あなたの自作サーバー群ごと物理的に大爆発してしまいましたわ。ウケるwww』
「俺のっ、俺の三百万円のサーバーがぁぁぁぁぁっ!?」
さらに、手元のドローン用コントローラーからもバチバチと火花が散り、熱を持ってショートした。
「ひぃぃぃっ!?」
『さあ、震えている暇はありませんわよ。今から三分以内に、旧校舎の魔道具研究会部室へ出頭なさい。さもなくば、あなたのクラウドにある秘密の隠しフォルダ【絶対見ちゃダメ(闇)】の中身を、学園中の全モニターと轟教官のタブレットに一斉送信しますわよ』
「い、行きますぅぅぅぅぅぅっ!!」
全財産を物理的に爆破され、社会的な死まで突きつけられたオタク内部生は、涙と鼻水を撒き散らしながら旧校舎の階段を転げ落ちるように駆け出していった。
* * *
一方、魔道具研究会の部室。
「……うむ。良い鞄だ」
佐藤通は、完成したばかりの500円のリュックサック(大企業も真っ青のオーパーツ)をポンポンと叩きながら、満足げに紙コップの麦茶をすすっていた。
ガラッ!!
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁっ!!」
勢いよくスライド扉が開き、顔をススで汚し、全身汗だくの小太りな男子生徒が、見事な土下座で部室に滑り込んできた。
「盗撮データは全て吹き飛びました! どうか、どうか隠しフォルダの公開だけはご勘弁をぉぉぉ!」
「……む?」
トールは目を丸くし、床に這いつくばる男子生徒を見下ろした。「誰だ、お前は」
『トール様がマジックバッグを作っていた様子をドローンで盗撮し、ネットに放流しようとした輩ですわ!』
トールの胸ポケットから、イシュラーナが意気揚々と解説する。
『わたくしの警戒網に引っかかったので、親玉のサーバーごと物理的に大爆発させて、ここに呼び出しましたの!』
「そうか。お前も中々物騒なからくりだな」
トールは全く怒る様子もなく、麦茶をズズッとすする。
オタク内部生は、目の前のトール――大企業すら実現不可能なマジックバッグを鼻歌交じりに作ったバケモノ――を前に、ガクガクと震えていた。
(こ、殺される……! 俺はこのままダンジョンの奥底に埋められて、歴史の闇に葬られるんだ……!)
「おい」
「ひぃっ! は、はいぃぃっ!」
トールがスッと立ち上がり、木刀を手に持ってオタク内部生を見下ろす。
「お前、空を飛ぶあの機械とやらを操っていたのだな」
「は、はい……」
「ならば、ちょうどいい」
トールは、完成したばかりのマジックバッグをオタク内部生に向かって無造作に放り投げた。
「え……?」
「俺はこれから、白石殿の夕飯に間に合うように帰らねばならん。明日の放課後から、この鞄を持って俺の後ろを飛んでついてこい」
「……は、はひ?」
極度の面倒くさがりであるトールは、マジックバッグを作ったことで満足してしまい、最終的に「鞄を自分で背負って歩くのすら面倒くさい」という、更なる怠惰な結論に至ったのだ。
「俺が木刀でモンスターを倒す。お前はドローンで、俺の代わりにこの鞄を持ち、ドロップした魔石を吸い込ませろ。そうすれば、俺は一切しゃがむ必要も、鞄を背負う必要もなく、ただ手ぶらで散歩しているだけで魔石が回収できるというわけだ。お前は今日から、我が部活の『自動回収係』だ」
『なるほど! 人力自動回収システム! トール様の怠惰も極まりましたわーッ! 草www』
「パ、パシリ……?」
オタク内部生は、命を救われた(?)安堵感と、有無を言わさぬ強制労働への絶望がないまぜになりながら、
「よ、喜んでやらせていただきますぅぅっ!」
と、泣きながら土下座を深々と繰り返すのだった。
世界を揺るがす技術的革命の産物は、こうして「面倒くさい」という一人の武士の怠惰な理由により、ただの小太りなパシリ専用アイテムへと成り下がった。
学園のエリートたちがグラウンドで地獄の特訓に血反吐を吐いている中、トールの快適すぎるスローライフ環境は、また一つ盤石なものへと進化したのである。




