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異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

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第110話:いつも通りの部室

 


 夏の終わり、部室にはいつも通りの、賑やかな空気が満ちていた。

「――というわけで、轟教官の紹介で、私も来年から探索者ギルドの見習いとして働くことになりました」

 凪教官が、珍しく穏やかな表情で近況を語る。

「あの理不尽な生徒たちのもみ消し業務から、少し離れられると思うと、正直、肩の荷が下りる思いだ」

「先生、それ本人たちの前で言っちゃっていいんスか」

 鯖江が苦笑する横で、トールも「まあ、世話になったな」と素っ気なく返した。

 * * *

「――佐藤さん! 実は今度、新聞部の部長を引退することになりまして」

 東雲メグが、部室にひょっこり顔を出した。

「あれから色々考えたんですけど、やっぱり地に足のついた取材がしたいなって。今度、地方紙の記者見習いになるんです」

「ほう。それは、良い選択だな」

「はい! この学園で追いかけたスクープは、結局一つも取れませんでしたけど……。おかげで、本当に大切な取材の心得を学べた気がします」

 東雲は、晴れやかな笑顔でそう言うと、部室を後にした。

 * * *

 かつて新興ダンジョンメジャーの常務だった黒羽もまた、風の噂で、地方の小さな魔道具メーカーに再就職し、堅実な仕事ぶりで評判を得ているという話が伝わってきていた。

「――皆、それぞれの場所で、それぞれの日常を歩んでいるのだな」

 トールが、しみじみとそう呟くと、白石さんが温かい紅茶を差し出した。

「はい。それは、佐藤様たちも、同じですね」

「うむ。……そして、これからも、変わらず続いていく」

 * * *

「――そういえば、蓮くん」

 盾花が、ふと思い出したように口を開いた。

「戸籍のこと、結局どうなったんですか? 東城様が、色々手を回してくださったとか」

「ああ。表向きは、地方から引っ越してきた身寄りのない親戚の子、ってことで話が通った。東城殿には、随分と世話になったよ」

 蓮司がそう答えると、氷華が興味深そうに続けた。

「これからも、鴉羽の家として、この街で暮らしていかれますの?」

「ああ、そのつもりだ。……トールと同じ学園に通っていられるなら、それで十分すぎるくらいだからな」

 その素直な一言に、部室の空気は、いつも以上に和やかなものになった。

「――皆、それぞれの場所で、それぞれの日常を歩んでいるのだな」

 トールが、しみじみとそう繰り返すと、蓮司が不敵に笑った。

「お前も、これから何度、その台詞を言うつもりだ」

「言い足りんくらいだ、これは」

 その軽口に、部室いっぱいの笑い声が響いた。

 * * *

 その夜、片付けを終えた白石さんが、ふと窓の外を見つめながら呟いた。

「――この一年、本当に色々なことがありましたね。転入生の蓮司さんが来て、東城様との関係も変わって、そして、あの大きな決戦も」

「うむ。だが」

 トールが静かにそれを引き取った。

「どれだけ大きな出来事があろうと、結局、俺たちの日常は、こうしていつも通りに戻ってくる。それこそが、俺たちの本当の強さなのかもしれんな」

「――トールさんらしい、素敵な考え方ですね」

 盾花がそう微笑むと、氷華や鯖江も同意するように頷いた。

『わたくしも、皆様のその強さを、これからもずっと、お傍で見守らせていただきますわ』

 イシュラーナの声が、静かに部室に響く。

 窓の外では、夏の終わりの穏やかな風が、いつも通りの渋谷の街を吹き抜けていた。部室には、これまでと変わらぬ、賑やかで温かい笑い声が、いつまでも満ちていた。

 * * *

 翌朝、いつも通り部室の扉を開けたトールを、白石さんの明るい声が出迎えた。

「――佐藤様、おはようございます。今日も、いつも通りのお弁当、ご用意しましたよ」

「うむ。……いつも通り、というのは、実にいい響きだ」

 トールがそう答えると、白石さんはくすりと笑った。

「ふふ、佐藤様らしいお言葉ですね」

 窓の外に広がる、いつも通りの渋谷の朝の光景を眺めながら、トールは静かに、しかし確かな充足感を胸に、今日という新しい一日を迎えていた。数々の困難を乗り越えた先にある、この何気ない朝こそが、彼にとって、何よりの宝物だった。

「――さて、今日も一日、始めるとしよう」

 トールがそう呟きながら教室へと向かう道すがら、氷華や盾花、鯖江、そして蓮司も、それぞれの足取りでいつも通りに登校していく。ばらばらのようでいて、確かに繋がっているその歩みは、この街の日常に、静かに、しかし確かに溶け込んでいた。

「――おはよう、トール」

「うむ、おはよう」

 蓮司との何気ない挨拶を交わしながら、トールは今日もまた、いつも通りの、しかしかけがえのない一日を、確かな足取りで歩み始めるのだった。振り返れば、その後ろには、氷華や盾花、鯖江たちの賑やかな声が、いつも通り、変わらず、そして温かく追いかけてくるのだった。この賑やかで穏やかな日常こそが、規格外の武士が、これからもずっと大切に守り続けていく、かけがえのない宝物なのであった――。


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