↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/111

第111話:最終話:うまい飯と、変わらぬ日常

 


 ――数年後。

 渋谷代々木学園の片隅、かつて「魔道具研究会」と呼ばれた部室があった場所には、今も変わらぬ賑やかな空気が流れていた。もっとも、そこに集う顔ぶれは、あの頃より少しだけ大人びている。

「――結衣、そろそろ試験の結果が出る頃だろう」

 すっかり背の伸びた結衣が、制服姿で部室の扉を開けた。かつて「新しいパパ」と呼んでいた頃の面影を残しながらも、その顔つきには、確かな凛々しさが宿っている。

「パパ、聞いて! 実技試験、学年首席だったよ!」

「――ほう。当然だな」

 トールが、いつも通りの真顔でそう答えると、結衣は誇らしげに胸を張った。

「白石殿の血を継いでいるのだ。当然の結果だろう」

「もう、佐藤様ったら」

 キッチンから顔を出した白石さんが、微笑ましそうにその様子を見つめていた。彼女の隣には、今も変わらぬ穏やかな笑顔がある。

 * * *

「――佐藤さん! 神宮寺グループの新規エネルギー事業、無事に稼働を始めましたわ!」

 すっかり実業家としての貫禄をつけた氷華が、意気揚々と部室に駆け込んでくる。かつての「氷の女王」の面影を残しながらも、その表情には、以前よりずっと柔らかな余裕が浮かんでいた。

「うむ、見事だな」

「当然ですわ! それより、今日は新作のケーキを持ってまいりましたの! 召し上がって!」

「――ふふ、氷華ちゃん、相変わらずですね」

 盾花が、苦笑しながらそれを眺めている。戌井鍛冶工房の後継者として、母と共に工房を守り続ける彼女の腕には、いつしか職人らしい確かな逞しさが宿っていた。

 * * *

「――ボスー! 新作の召喚獣、また懐いてくれたっス!」

 鯖江が、誇らしげに神話級モンスターを引き連れて部室に飛び込んでくる。彼はいつしか、電脳防衛の専門家として、国内でも指折りの腕前を認められるようになっていた。

『鯖江くんの成長ぶり、わたくしとしても鼻が高いですわ』

 トールの懐で、イシュラーナの声が、いつも通り賑やかに響く。

「――相変わらず騒がしい奴らだ」

 蓮司が、呆れたように、しかしどこか嬉しそうに笑いながら、部室のソファーに腰を下ろした。彼もまた、この部室に、そしてこの時代に、確かな居場所を見つけていた。

「――そういえば、蓮」

 トールが、ふと思い出したように声をかけた。

「先日の学生剣道大会、指導した後輩が優勝したそうだな」

「ああ。まあ、俺の指導が良かったのもあるが、あいつ自身の努力の賜物だろう」

 蓮司は謙遜しながらも、その顔にはどこか誇らしげな色が浮かんでいた。数年前、正体不明の転入生として現れた男が、今ではこの学園の剣術指導者として、確かな信頼を勝ち得ていた。

「――お前も、すっかりこの時代に馴染んだものだな」

「お前ほどじゃないさ。……だが、悪くない人生だと思っている」

 蓮司はそう言うと、懐かしそうに窓の外へと視線を移した。異世界の戦場で共に戦い、そして一度は死に別れたと思われた二人の男が、こうして同じ時代を、同じ場所で生きている。その事実は、何年経っても色褪せることのない、確かな奇跡だった。

 * * *

 夕暮れ時、部室の窓から見える渋谷の街並みを、トールは静かに眺めていた。

(――あの日、俺が斬り伏せた魔神の向こうに広がっていた世界と、この賑やかな日常と。どちらも、今の俺にとって、かけがえのないものだ)

 かつて、静かな夜だけが苦手だった武士は、今ではこの賑やかな日常の中にこそ、確かな安らぎを見出していた。

「――トール様、今日の夕飯は何になさいます?」

 白石さんの声に、トールは、いつも通りの真顔で答えた。

「うむ。……美味いものであれば、それでいい」

 その、あまりにも普段通りの一言に、部室に集った皆が、それぞれの笑い声を響かせる。

「――トールさん、その台詞、この何年も、ずっと変わりませんわね」

 氷華が呆れたように、しかし愛おしそうにそう言うと、蓮司も肩を揺らして笑った。

「変わらないから、いいんだろう」

 蓮司の一言に、トールは静かに頷いた。

「その通りだ。変わらぬ日常こそが、俺たちが命を賭して守り抜いたものだからな」

 その言葉に、部室の全員が、それぞれの想いを込めて頷いた。

 規格外の武士と、彼を取り巻く、かけがえのない仲間たち。

 昼寝と、うまい飯と、静かな平穏を胸に、彼らの日常は、これからも変わらず、穏やかに、そして賑やかに続いていくのであった。

 * * *

 夜が更け、それぞれが家路につく中、トールは一人、部室のベランダに立ち、夜空を見上げていた。

(――あの異世界の戦場から、随分と遠くまで来たものだな)

 かつて、化け物と恐れられながらも戦い続けたあの日々と、この何気ない、しかしかけがえのない現代の日常。そのどちらもが、今のトールを形作る、確かな一部だった。

「――トール様」

 胸ポケットから、イシュラーナの声が、いつものように優しく響いた。

「なんだ」

『これから先も、ずっと、お傍におりますわ。……そして、皆様の日常が、これから先も、変わらず穏やかであり続けますように』

「――ああ。そのために、俺は、これからもここにいる」

 トールは、静かに、しかし確かな決意を込めてそう答えた。

 規格外の武士と、彼を取り巻く、かけがえのない仲間たちの物語は、こうして、一つの大きな戦いに幕を下ろした。だが、その先に続く日常は、まだ何も終わってはいない。明日もまた、白石さんの美味しい料理があり、氷華の賑やかな笑い声があり、盾花の優しい心遣いがあり、鯖江とイシュラーナの頼もしい電脳の盾があり、そして蓮司という、かけがえのない親友がいる。

 昼寝と、うまい飯と、静かな平穏。それこそが、規格外の武士が、命を賭して守り抜いた、何よりも大切な宝物だった。

 ――完――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。