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異世界帰りの最強武士、現代ダンジョン学園で底辺Fランクに偽装してスローライフを送る~昼寝と専属家政婦の極上ご飯を邪魔する大企業は、木刀の峰打ちで物理粉砕(ざまぁ)します~  作者: トール
第四章:夏休みの臨海合宿と、極楽ハプニング

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第101話:電脳の盾、最後の一撃

 


 深夜、ダンジョン別荘のリビング。

「――鯖江くん、そろそろ本番ですわよ」

『はいっス! 常盤側のシステム、これまでの防御戦とは訳が違うのは分かってます。でも――』

 鯖江は、真剣な表情でタブレットを構え直した。

「俺とイシュラーナさんの二人でなら、絶対に突破できるっス」

『ふふ、頼もしいですこと』

 イシュラーナと鯖江は、東城から得た情報を手掛かりに、常盤の私設サーバーへと静かにアクセスを試みていく。幾重にも張り巡らされたセキュリティを、鯖江の地道な観察眼と、イシュラーナの圧倒的な演算能力が、一枚ずつ剥がしていった。

「――来た。これ、盾花さんのお母さんの工房と、氷華様の実家に対する圧力の指示書っス」

『ええ。それに――』

 イシュラーナの声が、僅かに緊張を帯びた。

『常盤が、最深部のゲート起動実験を、間もなく強行しようとしている日時が記されていますわ。……三日後』

「三日後、っスか」

『ええ。それと、人質にする対象の候補リストも見つかりましたの。盾花さんのお母様、氷華様のご実家、そして――』

 イシュラーナの声が、一瞬だけ途切れた。

『結衣ちゃんの通う保育園も』

 その一文に、鯖江の顔から血の気が引いた。

「――絶対に、そんなことさせないっス」

『ええ。今回だけは、わたくしも本気で怒っておりますの』

 二人は、これまでで最も真剣な表情で、証拠と人質の位置情報を完全に特定し、静かに、しかし確実にデータを確保していった。

 * * *

 作業を進める中、鯖江の指先が、ふと止まった。

「――イシュラーナさん、これ」

『何ですの』

「常盤のサーバーに、もう一つ、深い階層があるっス。……開いていいものか、正直迷ってるっス」

『危険を感じるなら、無理はなさらないでくださいまし。わたくしたちの目的は、あくまで証拠の確保ですもの』

 イシュラーナの気遣いに、鯖江は一瞬迷ったが、静かに首を振った。

「いや……。ここまで来たら、最後まで見届けるッス。盾花さんたちのためにも」

 その決意のもと、鯖江が最後の階層を開くと、そこには、常盤が独自に進めている"ゲート実験"の、より詳細な技術資料が眠っていた。異世界からエネルギーを恒常的に抽出し、軍事転用するための計画――その全貌が、そこには克明に記されていた。

「……こんなことまで、考えてやがったのか」

 鯖江の声に、これまでにない怒りが滲んだ。

 * * *

 翌朝、部室に届けられたその報告に、全員が息を呑んだ。

「三日後、か」

 トールが静かに呟く。

「鯖江、イシュラーナ、よくやった」

「あ、いえ、その……! 当然のことをしただけっス!」

 鯖江が照れ臭そうに頭を掻く横で、イシュラーナも珍しく、素直な喜びの一文を灯していた。

『――トール様に褒めていただけると、悪くない気分ですわね』

 剣でも魔法でもない、地道な観察と根気だけで成し遂げられたその功績は、部室の誰の目にも、確かな輝きを持って映っていた。

「――鯖江」

 蓮司が、珍しく真剣な表情で鯖江の肩に手を置いた。

「お前のその力、剣や魔法とは違う種類の強さだ。誇っていい」

「蓮さん……。ありがとうございますッス」

 鯖江は、これまでにないほど誇らしげな表情で、静かに頷いた。

 * * *

 その夜遅く、部室に一人残った鯖江は、改めて自分の集めた資料を見返していた。

(――俺、こんなにでかいことに関わってるんだな)

 これまで、自分の役割はあくまで「電脳面のサポート」であり、トールや蓮司のような、前線で戦う仲間たちを陰から支えるだけの存在だと思っていた。だが、今回の一件で確保した情報は、この先の展開を大きく左右する、決定的な鍵になろうとしていた。

「――鯖江くん」

 不意にイシュラーナの声が、スマホ越しに響いた。

『あなたの力がなければ、わたくしたちは、常盤の狙いも、危険の全貌も、ここまで正確には掴めませんでしたわ。……剣を振るうことだけが、強さではございませんの』

「イシュラーナさん……」

『どうか、自信を持ってくださいまし。あなたは、この部室にとって、かけがえのない盾なのですから』

 その言葉に、鯖江は思わず目頭が熱くなった。

「――ありがとうございます。俺、これからも、精一杯やるッス」

 窓の外に広がる夜景を見つめながら、鯖江は、静かに、しかし確かな決意を胸に刻んでいた。

 翌朝、その資料は改めて部室の全員へと共有され、常盤の計画のあまりの周到さと非情さに、誰もが言葉を失った。だが、その沈黙を最初に破ったのは、いつも通りのトールの一言だった。

「――上等だ。ならば、こちらも本気で潰しにかかるとしよう」

 その素っ気ない、しかし確かな頼もしさに満ちた宣言に、部室の空気は、再び前向きな決意へと変わっていった。鯖江もまた、その一言に背中を押されるように、しっかりと拳を握りしめていた。決戦への三日間が、静かに、しかし確実に、着実にゆっくりと幕を開けようとしていた。それぞれの想いを胸に、それぞれの持ち場で、それぞれにできる備えを進めていく夜だった。


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