団長の弱味を探すつもりが、エヴァン副団長に遊ばれる
昼食後、私は団長の弱味を探しに、団長の執務室へ向かっていた。
イシスは今、事務の女の子達と情報収集がてらお喋りしている。マーティン先輩やオーガスタス達は、食後の鍛錬だ。
団長は今、騎士団から外出している。
なので、団長の執務室にコッソリ侵入することにした。
執務室の扉を開けて、中に入ると誰も居ない。
よし、チャンスだ。
団長が留守だとわかっている今、この部屋にくる者はいない。
私は団長の机、引き出し、棚と、順々に見ていく。
(団長は女性関係の不祥事とか無さそうだしなぁ〜、)
女性関係の不祥事を隠している証拠でも見つかれば、
一発なのだけれど、やはり無さそうだ。
騎士団に入団してから3ヶ月近く経った今、
騎士団の中で団長を観察していたが、
あいにく団長の醜聞は聞かないし、怪しい素振りもない。
(騎士団の予算を横領してるとか、実はパワハラ上司だとか、王族の地位を利用して悪事を働いているとか、
何か無いかな〜、)
しかし何も無い。
「団長を失脚なんて、させられる気がしねぇ・・・う〜ん、」
あの誠実で真面目な団長に、不祥事の影など無いのではないか。
(そういえば、団長の家って、王城の自室とは別に、
王都にあるんだっけか。)
もし何かあるとしたら、団長の家くらいだろうか。
そう考えながら、団長の執務室から出ようと扉を開けた瞬間、鍛えられた胸板にぶつかった。
「ぶへぇっ!」
「おっと、ゴメン、」
見上げると、オレンジの瞳に、グリーンがかった蜂蜜色の輝くサラリとした髪の優男イケオジの顔があった。
エヴァン・キース副団長、ギルロイド団長の同期の優秀な騎士であり、
令嬢達からかなり人気の高い人だ。
「エヴァン副団長、失礼致しました」
「ミカ・マグノリアか。
どうしたの、団長は今留守だけど。」
「あ、ちょっと、団長にご相談があって・・、団長が留守なの忘れてたんです、」
「あ〜なるほどね、俺で良ければ伝言、伝えようか?」
「あ〜いえ、大丈夫ですよ、」
(団長の執務室を漁ってただけなんです)
私は、そそくさと去ろうとしたが、柑橘系の爽やかな香りがし、
肩をグイッと掴まれた。
「?!」
「まあまあ、せっかくだし少し話そ?」
エヴァンに肩を抱かれるような形で、
執務室に押し込まれた。
「紅茶でも淹れてあげるからさ。俺、紅茶淹れるの上手いんだよ」
「は、はぁ、、、」
腰を抱かれるような形で、グイグイとソファに座らせられる。
エヴァンの柑橘系の香水の匂いが鼻をくすぐる。
(強く抵抗したら逆に怪しまれそうだしな)
仕方ない、と、されるがままにソファに座る。
「ギルロイドが、君と仲良さげだからさ、
俺も君と話して見たかったんだよね〜、
よくギルロイドと話してるでしょ?」
紅茶をカチャリと置かれる。
「あーいや、団長が親切だから、僕を気にかけてくれてるのかな〜って思ってました。僕、色々心配おかけしてるので」
団長の心配の大半は、
他の騎士に比べたら華奢で男にモテる、「ミカ・マグノリア」を心配してくれているという、実に不本意な誤解による心配なのだが。
「確かに面倒見が良いやつだよ。
でも、君のことは特に気にかけてるんだよね。
ミカは何かと目立つからかな?」
「あはは、そうかもしれないですね。」
「同室のイシス・リオガルドとは同郷の出身だってね?故郷はどんなところなんだっけ」
副団長の質問に、私は事前に用意されていた資料通り答える。
「僕の故郷は・・・」
エヴァンが、ニコニコと人当たりの良さそうな柔らかな笑みを浮かべて、ウンウン、と相槌を打ちながら話しを聞く。
男盛りの優男イケオジの柔和なスマイルは、
女性達をメロメロにしているスマイルだ。
(人の話しを楽しげに聞く、優男イケオジ、、女にモテる仕草って感じだな)
潜入や情報収集に使えそうな仕草だし、自分も真似してみようかな、なんて思った。
「紅茶、美味しいかい?」
「はい、ありがとうございます」
(エヴァンは王弟派の貴族、キース伯爵令息。
あの野外訓練の時にはエヴァンも居たけど、まさかエヴァンが、ザガードが魔獣誘引香水を仕組んだ訳ではないよな?)
「ミカは、入団初日から話題になってたし、
凄いよね。野外訓練では暴走魔獣に果敢に向かい、
ザガードのこと更生させたし。凄いよ本当に」
「いや〜、結果的にそうなっていたというか、
あはは・・」
「それに、相棒のイシスとは真逆で、男にモテる美少年て、もっぱらの話題だよ?ふふふ、」
「うーん、不本意な評判なんですよねソレ・・・男にモテても嬉しくないですし・・・僕別に、男は恋愛対象じゃないですし」
「ふぅん?そうなんだ。じゃあ、
ギルロイドのこと好きな訳じゃ無いんだ?」
私は思わず紅茶を「ブッ!!」っと噴き出した。
(何でそんな質問になる??!)
「いや好きじゃないですよ?!
や、騎士としてカッコいいとは思いますけどね?!!」
私が慌てて否定すると、
エヴァンが目を見開いたあと、笑い声をあげた。
「あはははは!ハハッ、あははは!」
「はい・・・?」
「いやあ、失敬。
君、野外訓練で暴走魔獣に襲われた後も、割と冷静だっただろう?君は、誰かが困ってる時も、飄々と人を助けていて、あまり動揺してないし、」
エヴァンの言う通り、ミカエラは、自分がピンチの時や、困惑するような場面に遭遇しても、大抵は飄々としている。
「だから、そんなリアクションするとは思わなくて、
いつも通り飄々と、かわされると思ったのに、くくく、」
「わ、笑い過ぎだっ!です!」
ミカエラは怒るが、そんなミカエラに、エヴァンはますます笑い出す。
(こ、この人・・・ムカつく!!!)
ミカエラはギリギリと歯ぎしりをし、エヴァンを睨む。
「悪い悪い。
何か君って、いつもどこか、何に対しても、
他人事みたいな態度っていうか、
ギルロイドが、『ミカはあまり自分の怪我にも頓着しない』って心配してたからさ。
だから、ちゃんと怒ったり騒いだりするのが意外で、」
「・・・何なんすか一体、」
(何なんだコイツは!!)
何だろう。ムカつく。
普段のミカエラなら気にしないが、エヴァンに心を乱されて動揺したからか、ミカエラは冷静ではなかった。
心の奥に踏み込まれるような落ち着かなさ。
「君の人間らしい表情が見られて面白かった、
ギルロイドが君に構うからさ、気になってたんだよね〜。君、何だかんだギルロイドには少し心開いてるように見えたから、
もしギルロイドのことが好きだったら、面白いなあ〜って。あ、それとも、実は俺のこと好きだったりする?」
人に動揺させられることに慣れていないミカエラは、
自分が動揺する様子を楽しむエヴァンに、らしくない程にイラッとした。
ブチッとこめかみに怒りマークが浮かんだ私は、エヴァンを締め上げにかかった。
(人のことを、おちょくりやがって、この色ボケ男が!)
紅茶のカップを持ち、頭を傾けたままのエヴァンの後ろに素早く回り、
エヴァンの首に腕を回す。
が、
「!?」
エヴァンは素早く立ち上がり、ソファの背もたれを掴み飛び越え、私の背後に回り、私の胴体に腕を回し持ち上げた。
拘束を解こうと、ソファの背をダン!と蹴って体を浮かして、エヴァンの顔に頭突きしようとしたら腕が緩んだため、
エヴァンの腕から抜け出し、床に転がる。
起き上がろうとした瞬間、両手を掴まれ体を持ち上げられ、
ソファに体を寝かせられた。
「いや〜焦った焦った、」
「チッ、」
逃げようと体を動かした。
その瞬間、
(・・・・・・)
ミカエラの体を押さえるエヴァンの手が、ミカエラの胸部を押さえたために、胸元がエヴァンの手に覆われている。
(ギャーーー!!)
ヤバい。
最近、ザガード達から、餌付けされていたせいか、
以前より体に脂肪が増え、
硬い胸筋が、女性らしいラインになり始めていたのだ。
故に、サラシのサイズが合わなくなり、
サラシを新しいものに変えなければ、と思っていた矢先。
「普通なら、俺は相手に背後に回られる前に制圧出来るのに。
新入りの騎士が、俺の背後を取るなんて、君本当に規格外・・・ミカ・マグノリア?」
「ハ、ハナセ、」
「あ、ごめんごめん、やり過ぎたね・・・ん?」
体を起こそうとしたエヴァンは、手を動かした時に、
違和感を感じた。
ミカエラの体格や体型的に、胸元は硬い胸筋しか無いはずだが、
まるで女性のような感触。
「ミカ、君、胸元に何か物入れてる?」
ハンカチでもいれているのだろうかと疑問になり聞くと、
ガチャリ、と扉が開き、
ギルロイド帰ってきた。
「・・・は?」
ギルロイドは目を見張った。
自分の執務室のソファで、
ミカの体を押さえつけるエヴァン。
焦った顔のミカ。
「・・・エヴァン、お前、男にも手を出したのか?」
「え?や、ちが、これは」
その後、エヴァンの首根っこを掴んだギルロイドはエヴァンを投げ飛ばした。
「この色ボケ!新入り騎士にまで手を出すとは!」
「団長!違うんです!」
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「〜〜ていうことなんです、」
「どっちみちお前が悪いじゃねえかエヴァン」
「いや、はい、ごもっともです」
事情を聞いたギルロイドは、
エヴァンを床に正座をさせ、
ギルロイドの説教に平身低頭頷いている。
「ギルロイドが気にかけてる、今話題の新入り騎士ミカ君の飄々とした態度を崩すのが面白くて、
やり過ぎました、ごめんなさい」
「はあ・・・ミカ、お前、こいつ殴っとくか?」
「いや、副団長を締め上げようとしたり、僕も暴れたりしたので、もう良いです。」
元々、団長の執務室を漁ってたところを副団長に見つかりかけて焦ってたのを考えれば、バレずに済んだのは御の字だし。
「すまないな、根は良いやつなんだが、俺から叱っとく」
私は団長にお礼を言って、執務室を出た。
私らしくない、あんなに怒るなんて。
(この副団長は、人の心をかき乱すのが上手い。気をつけねば)
そう思ったミカエラであった。




