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今は亡き者

 それからのことは、あまり記憶にない。我を失って、暴れたのではないかと思う。というか、ツグミにそう、説明をされた。何でもお見通しの彼女は、僕が暴れて人を殺す前に謀ったかのようにあの港に現れ、僕と、セツに手をかけた奴らを全員拘束し、牢屋にぶち込んだ。一通り暴れた後、意識を失って、気がついてからズッと僕はこの牢屋の中にいる。牢屋に入るのは、これで二度目だな。そして、こうやってからかわれるような目で、ツグミに見られているのも。

「やっと落ち着いたようだな。まったく、あいつと言い、貴様と言い、私に迷惑ばかりかけよって」

「……落ち着いてなんか、いられるわけないでしょう」

目の前でまた、大切な人を失ったのだ。取り乱さないわけもない。だが、残念ながら、糸も取られ、食事もろくに取っていない今のヒショウには、暴れるだけの力も残っていなかった。

「セツは、死んでなんかないですよね。あの子は、僕を残して先に死んだりなんてしない。あの子は、僕のせいで死ぬなんて、あり得ない。あの子は。だって、またなって、あの子は言ったんです。きっと今も、どこかに隠れていて」

「ヒショウ。これは、私と、白虎も、了承している。セツは、死んだんだ。いい加減受け入れろ」

「あなたも、セツの仲間なんですよね。それで僕をだまそうとして」

ヒショウは、続きを言おうとしたがそれ以上口が動かなかった。ツグミの悲痛な顔が、全てを物語っていた。自分だって、わかっているのだ。彼の笑顔を、最期の笑顔を、この目でしかと見とどけてしまったのだから。

「僕に、何のようですか」

ヒショウは、二人に背を向けるとうずくまるように膝を抱えて言った。

「セツが、あの子が何を考えていたのか、貴様は知りたくはないのか?」

ツグミの言葉に、ヒショウの肩がわずかにピクリと動く。

「とはいったものの、貴様に拒否権はない。こうすることが最善だからな」

「大体想像は付いています」

「ついてない。ついているのなら、いつまでもこんなところでやさぐれていないだろ。第一、ここの鍵は、しまっていないのに」

ツグミは牢屋の格子をあけてみせた。知っている。とっくに鍵なんて開けられていることも。特訓、謹慎なんて終わっていて、仕事に戻らなくてはいけないことも。それでも、これは自分への罰なのだ。わがままでも言い。一度はすくった葉zの命を救うことが出来なかった自分への戒めなのだ。

「まあいい。聞けばきっと貴様は、いてもたってもいられなくなってここを飛び出すだろうからな」

ヒショウは何も答えない。それでもツグミは、臆することなく言葉を紡いでいく。

「もともと、ホトの目的はセツだったのだ。ゼンとわずかでもつながりを持つ彼を、そして、朱雀の力をも得た彼を、ほしがっていた。彼は間違いなく、この国や、玄武国の復興の役に立つからな。象徴という面でも、裂け目を塞ぐことが出来るという面でも。貴様を先にここに連れ込んだのは、わかっていたと思うが、おとりだ。離れさせれば朱雀の力で良いように記憶が改変され、貴様への執着が増し、貴様がここにいる限りここにつないでおけると考えた。私もそれには気がついていたが、貴様がここに来ることは確かに、玄武国の復興やこの国の安寧につながることは未来をみてわかっていた。だから容認していた」

「僕だって、それには気がついていましたよ。それでも、まさかあの子がここに来るだなんて思っていなかったし、ここまでなつくとも思っていませんでした。どうせ今後も狙われるのなら、僕の目に届くところに置いておけば良い。そう思っていたのに……。あなたには、こうなる未来も見えていたのではないですか」

「いや。あの子がここに来たことは、白虎にとっても予想外のことだったそうだ。貴様の血を貰い、半分神獣化していた彼の未来を読むことは非常に難しい。こうなることに気がついたのは、つい最近のことだった」

「なら」

「もちろん、私は止めたぞ。ホトは、セツに、貴様を手放す代わりに自分に使えてほしいと貴様が死んでいる間に口説いていたから、セツもホトの計画には気がついてた。だが、あいつは、貴様がそんなこと望まないことなんてよくわかっていたし、貴様の神獣としての力をなくさせることにも反対だった。だから、二人で自由になれる道を探したんだ」

「捜したって……。でも、結局こんな結果になってしまうのなら」

「話を最後まで聞け。ホトには、わかっているとおもうが、青龍がついていた。特にあのミズキとかいう間諜は厄介だ。あいつが今回の件は、実行犯だろう。彼らの計画を悟ったセツは、貴様を危険に巻き込まないようにあえて単身、危険だとされていたキャンプに向かって襲われた。ホト達の計画では、そこで瀕死のセツを見つけた貴様が血を分け与え、セツの神獣化が完成するはずだった。そのために、火をはなたせ、彼が死ぬ時間を遅らせたんだ。だが、あいつはそれを逆に利用した。貴様でも完全に治癒させることは出来ない裂け目による影響をわざと使って、死ぬ道を選んだんだ」

「それは……それはわかっています。目の前で、みましたから」

「ここまで聞いても、貴様はまだわからないのか?セツの目的が」

「はい?セツは、僕を守るために死んだ。そのことを、僕にわからせようとでもしているんですか?そんなこと、言われなくても僕だってわかりますよ」

いらだつヒショウの声に、ツグミはため息を漏した。

「違う。いっただろ。あいつは二人で自由になるために、死んだんだ」

ヒショウは振り向くとツグミをにらみつけた。

「揶揄いに来たのなら帰ってください」

「セツを手にかけたあいつらを処刑し、その動機は、このままでは玄武国が消滅してしまうと思った危機感による、反逆だと、正式に軍部から発表をした」

「しかし、そんなことをすれば、民の間で軋轢が生まれて」

「ああ。それでいいんだ。それが、あいつの望んだことだからな」

「はい?」

ヒショウは訳がわからないと言うかのように眉をひそめる。

「三日後、玄武国行きの船が出る。この国のやり方に疑問をもった多くの移民が、玄武国に帰るそうだ」

「は……」

それは、セツがかねてからいっていた、玄武国への帰還移住計画そのものだった。

「貴様には、それに同行してもらう」

「同行って……」

「玄武国に行けと言っているんだ」

「きゅ、急にそんな。キャンプの方々の支援は誰が指揮するんです?それに」

「セツはそんなのとっくに見抜いていて,対策もしてくれていた。この前、朝議で話していただろ。あいつは生前に、帰還までの手続きや、こちらの指揮内容をまとめてくれていた。何の非の打ち所もない、素晴らしい手順書だったよ。いまごろ、文官達はその作業の実現に追われているだろうな。軍部もできる限りの支援は行うつもりだ。それに、これは、アイツの,セツの頼みでもあるんだ。セツは生前、ホトに約束していたそうだ。ヒショウ、お前は何があっても玄武国ににまず送れと」

「……」

ヒショウは無言のまま目を見開いた。

「ホト様は」

「ああ。あいつは、そうだな。数日間は、驚いた後、がっくりとしたような感じでなかなかに見物だったが、今はいつも通りに戻ってやっているぞ。何でも、玄武国に新しい神獣が生まれるまでに、この世界を平等にしたいとかなんとか言って。どうやら、かつてゼンが一瞬でも認めた相手に一杯食わされたお陰で、あいつのひねくれた考え方も少しは元に戻って、またゼンに陶酔して、次に会うときまでに約束をかなえたいとかなんとか言っていたな。ああいう変なやつには、ああやって思い知らせるのが効くんだな。覚えておこう」

「……」

「前を見もしないで、いつまでもうじうじしているのは貴様だけだぞ」

すごい。

そんな感想しか、出なかった。セツが全て仕組んだのか。セツは、ここまで見越して――。

「あの子は、本当にすごいですね」

「ああ。貴様の何倍もな」

「返す言葉もありませんよ」

神獣が聞いてあきれる。一人で、全ての問題を解決してみせた。彼の方がよほど神のようだ。

「だが、あいつがここまで出来たのは、貴様のお陰だ。貴様の為だからここまでできたと、あいつは言うだろうな。全く、見ていてこちらの方が恥ずかしくなる」

その言葉で、一瞬浮かれた気持ちは再び沈んでいった。幾らうまくいったとは言え、彼が死んだことに違いは無い。それもこれも、自分のせいなのに。

「ああ。勘違いするなよ。私は貴様を責めているのではない、珍しく、感謝しているのだ……って、なんだ、その目は」

ヒショウはからかわれたと思って、ツグミをにらみつける。

「はあ。いいか、よく聞けよ。私もあいつのこの計画を知ったときには、絶望したさ。全力で止めようとした。だが、その時にさらに先の未来も見えたのだ。今日は餞別に、そいつを伝えに来てやったのだから感謝しろ」

「先の、みらい?」

「ああ、そうだ」

朱雀の執務室の前でセツと言い争いになったときに見えたあの幻影は、今でもずっと、まぶたの裏に焼き付いている。

「死んだ人間は、生まれ変わる。貴様もこの国の信仰を、勿論しっているだろう?」


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