第三話──意味深な黒魔導師──
目の前に佇むのは私の父と母。横には微笑み続けている彼、静夜さん。今にも深刻な話をするような気がする。そう、気がする。
『お話は通ってましたかね〜?』
静夜さんが変わらぬ表情で父と母に語りかける。
『ええ......。一応は通っていたんですが......』
私と会った時はすごく表情を綻ばせていた母も今では引き締まって暗い表情をしていた。
『ど、どういう事ですか?』
やっと話をしたかと思えばいきなり話通ってますか?......って。何の事?
『全ての経緯ですよ?遠隔魔法で知らせておいたんです。』
静夜さんが手短に答える。だから全ての経緯ってなんなんですってば......。
『全ての経緯って言っても分かりませんよね。例えば鼾をかいて寝ていたこととか白いおひ......』
『あー!ダメですダメですー!』
((それってただの私の恥ずかしい出来事じゃないですか!))
机をガタッと音を立て、立ったせいで髪の毛が乱れてしまった。両側の少し濃い赤が混ざったピンク色のリボンを結び直す。
『本当に......イルは......?』
母が兄の所在について聞いてきた。全ての経緯って兄の事?まさか......魔物の事も?
『リンのお兄さん、イル君は魔物によって残虐な死に方をしました。その魔物については今後も調査しておきます。すいません。』
静夜さんが深々と頭を下げた。真剣な表情の静夜さん、何だかカッコイイ......。って私何を......。
『そして魔物の事で調べて分かっていることは、全てリンさんに話します。』
えっ!?どういうこと?
『分かりました......。リン、頑張ってね』
母がニコリと応援する。
((......?待って......!?何?いきなりっえ!?嘘でしょ?私、何処かへ行くなんか言ってないよ!?))
えっ何が起こってるの?ッという表情が顔に出ていたのか静夜さんがそっと補足する。
『実はね?────』
※※※※※※※※
『イルが死んだって本当ですか!?』
思念が魔法回路を伝って届いていく。洞窟へと素材を取りに行ったリンと、イル。もう1日が経って探そうか探すまいか迷っている時にその念話は届いた。
『はい。詳細はわかりませんがそれだけは事実です』
『そう......ですか......』
念話を介して話をしているのは静夜さんと名乗る、声からして大人しそうな感じの人だった。思わぬ話で驚いてしまっている私に静かに声をかける。
『魔物に殺されたようです。それも無惨に......』
『......イルの身体は残っていますか......?』
死んだのならせめて遺品だけでも......。と、話の飲み込みが早い母であったからの冷静な判断。
『いいえ......』
うっ......っと、掠れ声を出しながら私は俯いた。
『ですが、まだ確実ではありません。魔物退治のついでにイルさんの体の有無を確認しておきます。』
『はい。お願いします』
『それでは、また......。』
プツリと消えた念話の余韻を感じさせながらそれでもリンが生きている事に安堵した。
その時、また魔法回路が繋がれた。
『なんですか!?』
まさかもう、新たな情報が?っと思い声を少し荒らげた。
『すいません。言い忘れてました。多分帰るまでにリンさんは必ず旅に出たいというでしょう。その時はよろしく頼みます』
『はい、分かりました』
※※※※※※※※
『────という事なのさ』
最後の一文で少し疑問符が出た私はすかさず母に問う
『母さん、その時悲しかったんでしょ?なんですぐ了承したの?えっ?なんでそんなことわかるんですかとか言わなかったの?』
『それは......なんででしょうね?』
苦笑いをしながら話を返す母に少し驚きつつも納得した。
そういえば母は変なとこだけ理解力早いんだった......。
『というわけなので。支度は二日後までに整えておいてください。最初の目的地は一番近い街であるファルンです。冒険者ギルドもありますしね。』
その後、私は身支度、母と父はイル兄の事で頭をいっぱいにしていた。必要な物は大体静夜さんが紙に書いてくれたのでそれをもとにリュックへ詰め込む。物静かすぎる父(そういえば、一言も話してない!)によって作られた杖と母が新調してくれたローブ、更にイル兄が使っていた薄く埃のかぶった剣。剣はリュックを傷つけるかもしれないので腰に下げておく。
温かな重みを感じながら心で挨拶する
『お兄ちゃん、行ってくるね!』
※※※※※※※※
今まで洞窟の反対側の道など通ったことがなかったので見渡す限りの草花に驚かされる。色とりどりの花に蝶たちが華やかに舞っている。蜂が蜜をすすって甘い香りを感じる。静夜さんが左、私が右で並んでいる。全身を服で覆っている静夜さんはやはりゴブリンであることを伏せているのかな...。母と父は気づいていなかったけどもし気付いたら危ないことが起こるのだろうか?それは嫌だな...。と、チラチラと見ながら思った。
『これなら気にしなくて大丈夫だよ?それより前に壁が。』
『冗談はよしてください!もう騙されませんよ!────ってあぅぅ......』
『だから言ったじゃないか......ってあれ?これ魔物だ』
『今度こそ冗談ですねって、痛ててて......』
前を向くとそこには壁なのだがふわふわしていた。まるで獣の毛並みのような......
『ジー』
『あっ......。すいませーん。ででは、失礼しまぁす』
────そそくさと逃げました。穏やかな性格だったのか追ってくることもなく逃げた私たちを一目見てまた歩いていった。静夜さんでも顔が見えないほど大きかったのかぁ。と思いつつ顔をチラッと見て見ると見慣れた顔が写っていた。
『可愛かったね。なんの魔物なんだろう』
いつもの笑顔で話す静夜さんは今だけ違って輝かしく見えた。
それから数十分ひたすら歩いたり走ったり話したり騙されたりしながら目的の街であるファルンへと辿り着いた。
白い不思議な文様をした入口を通り商店が見えた。入ったすぐにある商店は食べ物、衣服、武器、防具が沢山並んでいた。
『このフル塩。今なら100フルのところを80フルだよー!』
『新たな武器を仕入れたぜー!どんどんこいやー!』
各店の番が大きな声で客を取り込んでいく。そこには鎧を身につけたガチっと引き締まった男性、ローブを身につけ怪しげな魔法屋へアレコレと意見を述べている人もいた。とても賑やかな光景に思わず心が踊る。でも、そこには魔物は一匹もおらず少し寂しかった。
『なにか買いますか?あれとかこの店とか面白そうですけど......』
『いや、ここはまだ用はないかな。そのまままっすぐ行こうか』
静夜さんの言う通り、多い人混みに混乱しつつも真っ先に冒険者ギルドへと向かった。ギルドへ近づいていく度に鉄臭い装備の数々を纏う冒険者が増えていった。中にはいかにも強者といった風貌を持つ人や簡単なクエストばかり終わらせている様な初心者な人もいる。
ギルドと上下左右の間隔が様々な位置で書かれている看板を見て私は即座に楽しそう、賑やかそうなどということを感じた。彼は...と、視線をちらりと向けると少し強ばっていた。緊張してるのかな?と思いつつ声をかけようと思ったら静夜さんがこちらを向いてきて何も無かったように顔の表情を変えた。何だか......なんだかな......。
チリンチリンとドアを開ける時の鈴が響きいくつもの人で溢れかえるギルド、またの名を集会場に入った。何人かは見慣れない顔だろうかこちらをチラッと見てまた話を戻していった。そのまま前を通って受付嬢のところへと行く。
『ギルドに登録しに来ました。』
静夜さんがそう言うと受付嬢は慣れた手つきで登録書を渡す。
『この必須事項のところには必ず書いてくださいね?その他は特に書かなくても結構です』
爽やかな対応をし、あちらこちらの冒険者のクエストの受注、完了したかの確認をするため小走りで離れていった。
『必要事項は名前と性別それと種族だね』
『種族はどうするんですか?』
小話程度に質問した。流石に亜種族なんて書いたら問題外だし、逆に人間と書いてもバレたら一層まずい......。
『どうにかするさ』
その一言だけ言って彼は用紙と一対一になった。仕方なく自分の分へと目を戻す。
『あのー』
書こうと思った瞬間肩へ微かな感触が伝わった。そちらの方を向くと子供......?のような顔立ちの冒険者?が立っていた。
『その人ゴブリンですよね?』
えっ?と思って指を指している方を見ると見事に静夜さんの正体がバレてしまった。
『い、いえ。違いますよ?彼は立派な人げ』
『いやー明らかにゴブリンだよねー?────クラアルハ』
小さな魔道士は目線を静夜さんの靴に向けて黒い風を発生させた。その瞬間、服が切れながら静夜さんの足元を顕にした。
ゴブリン特有である皮膚が魔法に気付いた冒険者の釘付けとなった。瞬く間に沈黙の波が広がり、楽しげに話していた剣士も目の前で忙しく働いていた受付嬢も目を丸くして彼を見た。
『ほーら。やっぱりゴブリンだ。みんなー、こいつゴブリンだよー』
『────っわ!』
ちびっこ魔道士の言葉が火種となり集会場にいる全てが彼に誹謗中傷を浴びせる
『魔物め!出ていけ!』
『殺されたくなかったら去れ!』
『クズは消えろ!』
数々の暴言に心が締まりそうな感触を味わいながら恐る恐る彼の表情を確認する。
彼の表情は苦しいというより困ったような顔をしていた。こんなにひどい言葉が飛び交っているのになぜ悲しまないのか。
(それは後で知ることになるが......)
『なんでこんな所にゴブリンがいるんですかー?襲いに来たんですかー?』
宙にふわりと浮かぶちびっこ魔道士は飛び交う声に溶け込むように応戦した。ちびっこなのに。
『とりあえず落ち着いて下さい......』
静夜さんが今の空気を分かっていないのか申し訳なさそうに語りかける、がすぐにかき消されさすがの静夜さんも少し慌てていた。
『泣いちゃえー。泣いちゃえー。』
ちびっこの癖に。
『泣いちゃえー。泣いちゃ』
ドゴオオオオオオッ!
その時大きな爆発音が街を襲った。ちびっこが浮き(元々浮いているが)街全体が大きく揺れた。皆が動揺する中、かれはポツリと呟いた。
『────やっと、来ましたか』
作者『ちびっこ魔道士のせいで描写がちびっこしかないんだかどうしてくれるんだ?』
ちびっこ魔道士『...ちびっこ言うなし。これでも強いんだkらな!』




