島に残された記録
地下書庫には埃の匂いが満ちていた。
崩れた棚や風化した資料が、薄暗い空間の中に静かに横たわっていた。
薄暗い空間の中で、レグルスは慎重に紙束を机へ並べていく。
アルノもその隣へ立った。
表紙にはこう書かれている。
イオ島異常調査記録。
五百年前の記録だった。
「読めますか」
アルノが聞く。
レグルスは頷いた。
「神代文字ではないので読めます」
少しだけ嬉しそうだった。
研究者の顔だった。
慎重に一枚目を開く。
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○月○日
神代遺跡周辺にて魔力汚染を確認。
調査班を派遣。
汚染源は遺跡内部と思われる。
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地下書庫は静かだった。
紙をめくる音だけが響く。
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○月○日
遺跡最下層に異常空間を確認。
空間内より未知の魔力反応を観測。
極微量ながら外部への流出を確認。
経過観察を継続する。
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「最初はただの調査だったんですね」
アルノが呟く。
レグルスも頷いた。
「ええ」
「少なくとも記録上はそうです」
「この時点では原因不明の異常現象に過ぎません」
次のページが開かれる。
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○月○日
異常空間の拡大を確認。
汚染範囲が前回観測時より増加。
周辺植物に変異を確認。
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○月○日
汚染源と思われる裂け目が拡大。
前回観測時より約十センチ拡張。
流出量増加を確認。
封鎖術式を検討中。
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アルノは眉をひそめた。
十センチ。
たったそれだけ。
けれど記録を書いた人間は危機感を抱いている。
それだけ危険なものだったのだろう。
レグルスはさらに読み進める。
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○月○日
周辺区域への立入制限を開始。
住民へ注意喚起。
追加調査班を要請。
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○月○日
周辺住民の避難を開始。
侵食速度は依然上昇中。
封鎖術式の準備を進める。
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○月○日
裂け目の拡大が継続。
調査班単独での対応は困難と判断。
魔法塔へ支援を要請。
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アルノは思わず顔を上げた。
魔法塔へ支援を要請。
その一文だけが妙に目に残る。
この島では、自分たちが思っていた以上の事態が起きていたのかもしれない。
レグルスがページをめくる。
そこで。
初めて空気が変わった。
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○月○日
裂け目内部より断続的な反応を確認。
観測装置に異常。
詳細不明。
再調査を実施する。
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○月○日
裂け目内部に移動する影を確認。
複数名が同一報告を提出。
現在確認中。
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アルノは顔をしかめた。
「影?」
「そう書いてあります」
レグルスも眉をひそめる。
ここまでは異常現象だった。
けれど。
少しずつ様子がおかしくなっている。
レグルスが次のページを開いた。
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○月○日
裂け目内部に生命反応。
観測者三名が同結果を報告。
誤認ではないと思われる。
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地下書庫が静まり返る。
リネが低く呟いた。
「生命反応って……」
「生き物ってことか?」
「その可能性が高いでしょう」
レグルスが答える。
だがその声にも迷いがあった。
異常空間。
裂け目。
侵食。
そこまでは理解できる。
けれど。
なぜその中に生命反応があるのか。
それだけは説明がつかなかった。
レグルスがもう一枚めくる。
その瞬間。
アルノは気付いた。
筆跡が違う。
今までの記録とは別人のようだった。
文字が乱れている。
震える手で書いたようにも見えた。
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○月○日
何かがこちらを見ている。
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誰も喋らなかった。
それは報告ではなかった。
観測結果でもない。
ただの一文。
けれど。
今までのどの記録よりも不気味だった。
アルノはその文字を見つめる。
何か。
それが何なのか分からない。
けれど。
この文章を書いた人間が恐怖していたことだけは伝わってきた。
地下書庫は静まり返っていた。
レグルスは黙ったまま最後のページを開く。
紙は途中で破れていた。
残っている文字は少ない。
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○月○日
応援を――
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そこで終わっていた。
続きはない。
破れた先に何が書かれていたのかも分からない。
地下書庫に沈黙が落ちる。
誰も言葉を発しなかった。
アルノはもう一度記録へ目を落とした。
裂け目。
生命反応。
『何かがこちらを見ている。』
そして、最後に残された 『応援を――』 という言葉。
この島で何が起きたのか。
その答えはまだ見えなかった。
後まで読んでいただき、ありがとうございました!
次回もよろしくお願いいたします!
更新は19時半です( ᴗ ᴗ)⁾⁾




