↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月光の師と未完の魔術師 ― 世界はまだ、繋がっている ―  作者: 平子 天陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/84

島に残された記録

 地下書庫には埃の匂いが満ちていた。

 崩れた棚や風化した資料が、薄暗い空間の中に静かに横たわっていた。

 薄暗い空間の中で、レグルスは慎重に紙束を机へ並べていく。


 アルノもその隣へ立った。

 表紙にはこう書かれている。


 イオ島異常調査記録。


 五百年前の記録だった。


「読めますか」


 アルノが聞く。

 レグルスは頷いた。


「神代文字ではないので読めます」


 少しだけ嬉しそうだった。

 研究者の顔だった。

 慎重に一枚目を開く。


 ---

 ○月○日

 神代遺跡周辺にて魔力汚染を確認。

 調査班を派遣。

 汚染源は遺跡内部と思われる。

 ---


 地下書庫は静かだった。

 紙をめくる音だけが響く。


 ---

 ○月○日

 遺跡最下層に異常空間を確認。

 空間内より未知の魔力反応を観測。

 極微量ながら外部への流出を確認。

 経過観察を継続する。

 ---


「最初はただの調査だったんですね」


 アルノが呟く。

 レグルスも頷いた。


「ええ」


「少なくとも記録上はそうです」


「この時点では原因不明の異常現象に過ぎません」


 次のページが開かれる。


 ---

 ○月○日

 異常空間の拡大を確認。

 汚染範囲が前回観測時より増加。

 周辺植物に変異を確認。

 ---


 ---

 ○月○日

 汚染源と思われる裂け目が拡大。

 前回観測時より約十センチ拡張。

 流出量増加を確認。

 封鎖術式を検討中。

 ---


 アルノは眉をひそめた。

 十センチ。

 たったそれだけ。

 けれど記録を書いた人間は危機感を抱いている。

 それだけ危険なものだったのだろう。

 レグルスはさらに読み進める。


 ---

 ○月○日

 周辺区域への立入制限を開始。

 住民へ注意喚起。

 追加調査班を要請。

 ---


 ---

 ○月○日

 周辺住民の避難を開始。

 侵食速度は依然上昇中。

 封鎖術式の準備を進める。

 ---


 ---

 ○月○日

 裂け目の拡大が継続。

 調査班単独での対応は困難と判断。

 魔法塔へ支援を要請。

 ---


 アルノは思わず顔を上げた。

 魔法塔へ支援を要請。

 その一文だけが妙に目に残る。

 この島では、自分たちが思っていた以上の事態が起きていたのかもしれない。


 レグルスがページをめくる。

 そこで。

 初めて空気が変わった。


 ---

 ○月○日

 裂け目内部より断続的な反応を確認。

 観測装置に異常。

 詳細不明。

 再調査を実施する。

 ---


 ---

 ○月○日

 裂け目内部に移動する影を確認。

 複数名が同一報告を提出。

 現在確認中。

 ---


 アルノは顔をしかめた。


「影?」


「そう書いてあります」


 レグルスも眉をひそめる。

 ここまでは異常現象だった。

 けれど。

 少しずつ様子がおかしくなっている。

 レグルスが次のページを開いた。


 ---

 ○月○日

 裂け目内部に生命反応。

 観測者三名が同結果を報告。

 誤認ではないと思われる。

 ---


 地下書庫が静まり返る。

 リネが低く呟いた。


「生命反応って……」


「生き物ってことか?」


「その可能性が高いでしょう」


 レグルスが答える。

 だがその声にも迷いがあった。


 異常空間。

 裂け目。

 侵食。

 そこまでは理解できる。


 けれど。

 なぜその中に生命反応があるのか。

 それだけは説明がつかなかった。


 レグルスがもう一枚めくる。

 その瞬間。

 アルノは気付いた。


 筆跡が違う。

 今までの記録とは別人のようだった。

 文字が乱れている。

 震える手で書いたようにも見えた。


 ---

 ○月○日

 何かがこちらを見ている。

 ---


 誰も喋らなかった。

 それは報告ではなかった。

 観測結果でもない。

 ただの一文。

 けれど。

 今までのどの記録よりも不気味だった。


 アルノはその文字を見つめる。

 何か。

 それが何なのか分からない。


 けれど。

 この文章を書いた人間が恐怖していたことだけは伝わってきた。

 地下書庫は静まり返っていた。

 レグルスは黙ったまま最後のページを開く。

 紙は途中で破れていた。

 残っている文字は少ない。


 ---

 ○月○日

 応援を――

 ---


 そこで終わっていた。


 続きはない。

 破れた先に何が書かれていたのかも分からない。

 地下書庫に沈黙が落ちる。

 誰も言葉を発しなかった。

 アルノはもう一度記録へ目を落とした。


  裂け目。


  生命反応。


  『何かがこちらを見ている。』


 そして、最後に残された 『応援を――』 という言葉。


 この島で何が起きたのか。

 その答えはまだ見えなかった。

後まで読んでいただき、ありがとうございました!

次回もよろしくお願いいたします!

更新は19時半です( ᴗ ᴗ)⁾⁾

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。