第一話 このままでも
空依頼事件から半年が過ぎた。
二人はアエニグマ魔導国を旅していた。
この国のある大陸は比較的小さいが、その分、大陸丸ごとアエニグマなのである。
そんな大陸を旅している二人は、とっても平和な旅を……
「どう? 信之。前の大陸よりも刺激強いでしょ?」
「強すぎるわ! 王族娘!!!」
送れてはいなかった。
なぜなら、ここ最近ほぼ毎日のように魔獣か魔族に襲撃されているからである。
「はぁ……はぁ……魔力切れ……」
街や村にいる時は結界が守ってくれているらしいので良いのだが、それ以外の街道や森だと魔獣が出まくりである。
「やっぱ指輪の強い魔力に惹かれて集まって来てる」
「本気で指を切り落とそうか悩む……」
それもそのはず。
この国は魔獣を捕らえて、その魔獣の魔力を利用して魔道具が作られている。
ここで作られる魔道具はどれも比較的安価なのに一級品であり、アエニグマ製というだけでプレミアム価値が付くほどである。
「だからお父さんは国中に魔獣を放し飼いにしてる」
「本当に大丈夫? この国……」
ちなみに国民はというと、自国の魔道具で結界を張って守ったり、襲われたら追い払っているらしい。
これぞ地産地消である。
今、二人は最初のシーデビルの報酬が受け取れなかった町から移動し、国の奥の奥にある宮廷、つまりフィリアの実家を目指して歩いている。
「今日の魔物、強かったね……」
「強いどころじゃないよ……あの粘液に触れたら体が溶けるんでしょ? 生きた心地がしなかった……」
今は夜。
森の開けたところでの野宿だ。
夜は結界を張っているので、魔獣の心配は無い。
昼間も常に張っておきたいが、それをしてしまうと、いざというときの魔力が不足してしまうのだ。
キャンプファイヤーを前に、今日戦った蜘蛛型の魔物、スピンダーの話をしている。
「昨日はスーネクに出くわして丸呑みされそうになったし、一昨日は久しぶりにスコルピウスに襲われたし……」
「刺激的だったね」
刺激的にも程がある。
信之は平和で穏やかな旅を望んでいるのだが、ここはなろう系小説として、そのようには出来ないのだ。
「そう思うと、パウルス公国ってめっちゃ平和だったんだな……」
「そういや、信之の国の話、そんなに聞いてない」
信之がパウルス公国と口にすると、興味を持ったのか、火を隔てて対面で座っていたフィリアが隣に座ってきた。
そして、信之は自分の故郷の話をすることにした。
「へぇ、雑用執事としてね……」
「そこから毎朝メイド長に叩き起こされるようになったり、勝手に学校に行かされたり、迷宮に飛ばされたり……」
そう続けて言うと、フィリアは下を向いた。
なにか悲しそうな顔をしている。
「ねぇ信之、別に、無理に帰る必要なんて無いんじゃない?」
「え?」
『今更だけど』と前置きして、その続きを言葉を選びながら慎重に話しているように見えた。
「私がお父さんを説得して、信之を受け入れてもらえるようにすれば、安全な宮殿にずっと住めるよ?」
その言葉に、信之は考える。
確かに自分に与えられた役割は、ただの雑用執事だ。
自分一人いなくなったところで何も変わらないし、ここから先の旅路が安全だとは到底思えない。
しかし、このままフィリアの話に乗れば、一生豪華な宮殿で食っちゃ寝の生活が送れるのだ。
でも……
「それは……出来ないかな……」
「なんで……?」
耳には燃えている木のパチパチという音が聞こえてくる。
そんな中、悲しそうな顔をするフィリアの目をしっかりと見ながら答える。
「多分だけど、待ってくれているから。あと、手紙で約束しちゃったし……」
「そう。誰が待ってくれてるの?」
更に深掘りしてくる。
そういえば、アイラの話を彼女にはしていなかった。
話してはいけない存在とかでもないし、信之はなんの迷いもなくアイラのことを話した。
「ってことがあったり……って、どうした? フィリア……?」
「な、なんでもない。それより、今日一緒に寝よ」
「え!? 急に!?」
本人に理由を尋ねると、気分らしい。
その時の彼女の目は、明らかに光のない冷たい目であった。
こんにちは、あまないです!!!
遂に始まりました!三章!!!
こんな嫉妬しているフィリアも可愛いですよね…
皆さんはこのダブルヒロイン?ならどっちが好きですか?
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