第九話 新たな街と火炎放射器
「眠い、疲れた……」
あの信之焼死未遂事件から一夜、二人は少し肌寒い森の一本道を歩いていた。今日は早く町に着きたいので、かなり朝早く出発した。
昨日の一連の出来事もあるだろうが、というかそれでしかないのだが、信之にはかなりの眠気が残っている。
「わがまま言わないの。あともう少しで町に着くから」
フィリアの言葉に、ほんの少しだけ腹が立った。
(寝不足の原因あなたですけどねっ!?)
そんな信之の心の叫びが聞こえることはなく、そのまま歩き続ける。そして、寝不足のまま歩くこと三時間ちょっと、この旅で最初の村に着いた。
(おぉ〜……これよこれ! 異世界といえば!)
このような異世界での旅に、村は欠かせない。いや、それは前世でもか……。
それは一旦置いといて、このような異世界における村でのイベントと言えばそう、『実は少し前から魔物に襲われていて……』みたいなイベントが起こり、そこに主人公が『分かりました、引き受けましょう!』とか言って、この地域のヌシと戦い、ボロボロになりながらも勝ち、村の英雄となって銅像まで建てられちゃったり……。
そう、今までそんなに主人公らしいことがこの旅でできていないので、主人公っぽいことがしたいのだ……!
「信之、何ぼーっとしてるの? 空になにかあるの?」
「あ、スイマセン……」
そんな妄想をする前に、お金が前の王都での買い出しでほぼ底をついているので、まずは稼ぐ必要がある。
まずは昼のうちに安い宿を取り、荷物を置いておく。そして、どのようにしてお金を稼ぐのか。それは異世界の超定番中の定番――勇者ギルドに向かうことにした。
「現在、クエストは受け付けておりません」
信之は思考が止まった。言っている意味をすぐに理解できない。
「あの……い、今なんて……」
信之が聞き直すと、受付嬢は申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ございません。ただ今受注しているクエストは一つもございません」
信之の頭の中は真っ白になった。
一応これからの計画としては、できるだけ簡単かつ安全なクエストで小銭程度に稼ぎ、今晩の夕食代を確保する予定だったのだが、それができなくなった。
「ねぇ信之、夜ご飯抜きは嫌だよ?」
もちろんそれも嫌だが、明日からの体力が持たない。考えに考えた結果、信之は一つの結論にたどり着いた。
(材料が買えないなら、自分たちで取ってくるしかないよね……)
ということで――
「はぁ……ただでさえ疲れてるのに……」
最初の予定では簡単なクエストでちょこっとだけ夕食代を稼ぎ、あとは宿で眠る予定だったのに、自分たちで取りに行く羽目になってしまった。
「大丈夫だよ。もし魔族が襲ってきたら、この森ごと焼き払うから」
フィリアの発言に、背筋に冷たいものが走った気がした。
「マジでやめてね?」
そんな会話を続けながら食料調達をした。
何回か信之がフィリアの火で焼かれかけたが、意外と獲物はいて、カゴいっぱいぐらいの食べられそうな食料は集まった。
「よし、帰るか……」
信之はフラフラとした足取りで宿へ歩き出した。
「キャ! キャ!!」
歩いていたら後ろから動物のような鳴き声がした。そしてフィリアと信之は同時に後ろを向いた。
「あ……!」
次の瞬間、フィリアが持っていた食料の入ったカゴを猿のような魔物に取られてしまった。
「あちゃ〜……取られちゃったね。しょうがない、ここはもう一回集めて……」
そう言いながら、フィリアの周りは見るからにヤバそうなオーラに包まれている。
「あ、あの……フィ、フィリア……さん?」
そう呼びかけても、こちらに振り向いてくれない。その時の彼女の目は、今まで見たことがないほど殺気に満ちあふれていた。
「返して……私の食べ物……」
どうやらあの魔物は喧嘩を売る相手を間違えたようだ。
「ギャッギャャーーー!」
「待って……」
木の上を縦横無尽に逃げ回る魔物を、フィリアは見たことがないぐらいの速さで追いかけていた。そして彼女は魔物を捕まえるため、魔物めがけて火炎放射をお見舞いするので、周りの木という木が燃えまくるのだ。
「フィリア!! このままだと山が一個なくなる!!!」
元々身体能力のそんなに高くない信之が頑張ってフィリアの後を追いながら、彼女が火をつけた木を氷で鎮火するという作業を十分ほど続けた。
「キャ……キャ……」
その魔物は、いつの間にか黒焦げになっていた。
「よし、食料回収完了。信之、帰るよ」
そう言ってフィリアが後ろを向くと、倒れている信之がいた。
「疲労と魔力切れが重なって……動……けません……」
このままここに置いておくわけにはいかないので、フィリアはカゴと信之をおんぶして、彼女が燃やしながら走ってきて少し歩きやすくなった道――通称『フィリアロード』を歩いて帰った。
信之はおんぶされた安心感からか、いつの間にか寝てしまった。
◇ ◇ ◇
「ん……? こ、ここは?」
信之が起きると、そこは荷物を置いた宿だった。その時、彼はフィリアにここまで運ばれてきたということを理解した。
「あ、信之、起きたんだ」
信之は声がした方を向いてみると、キッチンに立っているフィリアの姿がある。
「あの、フィ、フィリア? な、何やってんの?」
トントントンとキッチンから聞こえてくるので、何をやっているかはなんとなく想像はついたが、一応聞いてみた。
「料理。信之疲れてるでしょ? たまには作る」
嫌な予感しかしない。日頃の言動や行動から見ても、嫌な予感しかしないのだ。
「えっと調味料は……なんでもいいか」
時々布団の外から怖い声が聞こえてくる気がするが、その時までは疲労感と睡眠欲が勝っていた。そう、この時までは……。
そして二十分後。
「ご飯できたよ」と言われ、中央の椅子に着いた。
目の前に料理がコトッと置かれる。
「あの〜……フィ、フィリア? こ、これは何?」
目の前に置かれたのは、見たこともない色をしたシチューだった。
こんにちは!あまないです。
なんだかほのぼの異世界生活みたいになってしまいましたね。
というか空気感がほぼ夫婦みたいじゃないですか!?




