第六話 二人の火と金の変態
「・・・」
フィリアはもぐもぐと「いただきます」以来、何も言葉を発さず食べ進めていた。
信之はもしかして彼女の口に合わなかったのではないかと思ってすこし、いやかなり不安だった。
「…信之」
「っ…! な、なに?」
フィリアは手を止めて対面に座っている信之の方を向いて話した。
(もしかして『食べたくない』とか言われたり…)
ドキドキしながら彼女の言葉に耳を傾けた。
「金属のスプーン冷たいからやだ。木に変えて」
色んな意味で予想外のことを言われて少しの間、思考が停止する信之であった。
◇ ◇ ◇
「ど、どう? フィリア」
木のスプーンに変えてあげた後、そう聞いてみた。
フィリアは食べ進める手を止めて信之の方を向いた。
「今までこんな料理食べたこと無いからわかんない」
美味しいとすぐに言ってくれると思っていた信之の期待は砕かれた。
しかし……
「でも美味しい」
その瞬間、本当に嬉しくなった。
自分で作ったもので他の人が喜んでくれたのを見ると、こんなにも嬉しくなるのだ。
この感情はシュヴェルト家でアイラにお粥を作ってあげた時以来だ。
「え? ホント…!?」
「うん」
とりあえず本当に良かった。
これで今日はよく眠れる。
昨日まで魔族の国の最寄りの森で野宿していたせいなのか、屋根と部屋があるというだけで心の底から安心できる。
「そういやフィリアの実家ってどんな感じなの?」
信之が話しかけると、フィリアは回鍋肉を食べる手を止めた。
「普通かな。家にドラゴン三体飼ってるだけだし」
(世界はそれを非常識と呼ぶ……!)
ドラゴンを飼うというのは異世界ファンタジーの世界だとよく聞く設定だ。
しかし、あのドラゴンを三体も飼うとはどんな家なんだ……
そんな話をしていると、いつの間にかどっちも食べ終わっていた。
フィリアは相変わらず無表情だが、けっこう満足してくれているようだった。
◇ ◇ ◇
「眠い…」
「早く行こ、信之」
久々のフカフカのベッドに慣れなかったのか少し寝不足の状態で宿の部屋を出る。
今の時間は朝五時。
まだ太陽も昇りきっていない。
きっと前世なら百パーセント二度寝をしていた。
(少し寒いな…)
昼は普通に過ごしやすい気温になるのだが、この時間の王都はかなりひんやりとしていた。
(けっこう人いるなぁ〜)
市場の準備で、まだこんな時間だというのに通りにはかなりの人がいた。
「もうすぐ王都を出るよ。あれが外に出る門」
フィリアが指さした先には周りを豪華に装飾された門があった。
「ちょっとそこの君たち〜! 止まってくれるかなぁ〜?」
もうすぐで門のすぐ側というときに後ろから声をかけられた。
後ろを振り返ると、全身金ピカの装備に身を包んだ衛兵がいた。
「こんな朝からどこへ行こうというのかねぇ〜?」
これまたクセの強いキャラが出てきた。
しかし、なんだろう。
なんか独特な雰囲気を感じる。
何かが自分と近いような……
「あなた、ディアリング持ってる?」
その衛兵はピタッと動きを止めた。
「お嬢ちゃん……なかなかおもしろいねぇ〜」
その次の瞬間、太陽がその衛兵に降り注ぎ、金ピカの装備が光った。
「そうさ! 私は神に選ばれ……神に愛された男!!! イグニスの適合者……そう!!! アルレウスその人だ!!」
そう言いながら、衛兵は自身の左腕の人差し指にはまっているディアリングを太陽の光に照らし合わせた。
周りの衛兵と市民も空気を読んで拍手をしている。
(まさかとは思ったけどこの人も……)
「私はこの王都の騎士団の団長をやっているものでねぇ〜」
こんな衛兵でも団長になれるのかと思ったが、ディアリングの力を考えれば順当である。
「火属性のディアリングだよね? それ……」
フィリアが食い気味に聞くと、アルレウスはポーズを変えた。
「よくぞ見抜いた!!! そう……私こそが……火の支配者である!!!」
信之は心底早くこの空間から抜け出したい。
今までの経験上、いや、誰でも分かる。
この近寄っちゃいけないオーラを感じていた。
しかし、フィリアの目はアルレウスに固定されていた。
「わ、私も火属性!!! 好きな火属性魔法は……」
(え? マジ?)
◇ ◇ ◇
「それでは冒険者よ! また会える日を楽しみにしているぞ!」
門を出て日が出たばかりの道を歩きながら、フィリアが振り返って小さく手を振る。
あの後、フィリアとアルレウスの火属性魔法談義は一時間に及んだ。
信之は最初、彼女はこの人を嫌がるだろうと思っていたが、なぜか上手く噛み合ってしまったらしい。
「またここに来たい」
少し考えてから答えた。
「どこかでね……」
そう言って、フィリアと信之はどこまでも続くような、何もないようで何かありそうな道を歩いていくのだった。
◇ ◇ ◇
「団長、行かせてよかったのですか……? 今からでも拘束することは……」
信之たちを見送りながら、アルレウスの後ろにいた部下の一人は聞いた。
そう、すべて分かっていたのだ。
フィリアがアエニグマ総帥の娘であること。
信之がグラキエスの所有者であること。
「君は、彼らが世界を力で支配すると感じたかなぁ〜?」
少し考えてから部下の一人は答えた。
「いえ。ですが、あの男からは非常に膨大な魔力を感じました。監視も何も付けないのは危険では……」
部下の言う通り、グラキエスはやろうと思えば世界を征服することだってできるかもしれないもの。
監視しておきたいというのは当然の考えだ。
「私にはねぇ〜、むしろ彼は戦いを嫌っているように見えたけどねぇ〜」
部下は何も喋らなかった。
それは団長と部下という上下関係からくるものではなく、団長が正しいことを言っていると本能的に感じたからだ。
「まぁ、もしそんな事があっても私の力で焼き尽くすまでだがな!!!」
先ほどとは別のポーズを決めた。
それにまた拍手する部下。
しかし、その拍手は先程の空気を読んだ拍手ではなく、単純な尊敬からくるものだ。
「頑張りたまえ、若き氷の支配者よ……」
小さくなっていく信之の影を見つめながらそう呟いた。
街の方は、さっきよりも人が増えて活気が出てきているようだった。
こんにちは!あまないです!
久々の…というか多分初めてのほのぼの回でした。
いかがでしたか?一文とかでも泣くぐらい嬉しいのでご感想をいただけたら
幸いです!!!




