第五話 料理系主人公に転生した件
黒焦げになった制服を土に埋めて埋葬した後、二人は門へとたどり着いた。
しかし、物事はそんなにうまくはいかないものだ。
「入場許可証がないと、ここから先へは入れない」
入ろうとしたところを、衛兵の一人に止められた。
(まぁ、そうですよねぇ〜)
この流れも異世界ものでは結構王道だ。
恐らくライトノベルの主人公なら、こんな時は『許可証をください!』とか言って厳しい試練に挑み、ボロボロになりながら街へ入り、その宿でヒロインが……
(なんてことがあるわけないか)
厳しい試練なんてやりたくない。
しょうがないので信之は、壁の外の森で野宿することに決めた。
「フィリア、そんなわけだから諦めて……」
そう言いながらフィリアの方を見ると、そこにはフィリアを見つめて青ざめている衛兵二人の姿があった。
よく見ると、フィリアは衛兵たちに何かを差し出しているように見える。
「し、失礼しました!!」
急にどうしたのだろう。
ついさっきまで強気な態度だった衛兵が、急におどおどし始め、そのまま持ち場へ戻っていった。
信之は精神魔法か何かで洗脳したのかと思った。
だって、さっきチンピラを問答無用で黒焦げにした人だから。
「フィリア……な、何したの?」
フィリアはこちらを向いて答えた。
「お父さんが『困った時はこれを見せなさい』と言っていたものを見せただけ」
そう言ってフィリアが差し出してきたのは、一枚の紙だった。
そこに書かれている内容を読むと、あれほど強そうだった衛兵が青ざめた理由にも納得できた。
「えーっと……『この娘は私の娘である。もし娘の意思に逆らうようなことをした場合、アエニグマ製の魔道具をその国への輸出停止とする』か……」
端的に言えば脅し文だ。
アエニグマについては、ここへ来るまでの二日間でフィリアから聞いていた。
彼女の国は、総帥である父が土属性のディアリングの力を使い、アエニグマでしか作ることのできない魔道具を生産する国で、巷では『魔道具国家』とも呼ばれている。
(そりゃ衛兵もあぁなるわな)
もし、この衛兵のせいでアエニグマからの魔道具の輸入が止まれば、二人はクビどころの話では済まないだろう。
要するに……
「親のコネってやつか……」
少しの沈黙が流れた後、フィリアが首を傾げた。
「コネって何?」
「知らないほうがいいよ」
信之はそう返した。
◇ ◇ ◇
「うわぁ〜……すっご」
門をくぐると、そこには今まで二次元でしか見たことのないような世界が広がっていた。
街並みはお決まりの中世ヨーロッパ風。
だが、やはり一番気になったのは――
「魔法を使っている人は、本当に少ないな」
大通りを歩きながら信之はそう思った。
この世界では、魔法という存在はかなりの少数派らしい。
今まで魔法を使っているところを見たのは、パウルスや魔法学校で過ごした時間を除けば、さっきの冒険者のヒーラーくらいだった。
「ねぇ、信之」
そんなことを考えていると、フィリアが話しかけてきた。
「なんか、すごく見られてる気がする」
そう言われて辺りを見回すと、確かに視線が集まっている気がする。
(なんだろ……フィリアかな?)
確かに彼女はかなりの美少女だ。
だが向けられている視線は、美少女を見る目というより、何かを恐れているような目だった。
(服装かな? でも僕は上着を脱いで……いや、焼かれただけだし、フィリアも白いコートに黒いマントだし……)
服装自体におかしな点はなかった。
――服装自体には。
(そういや、手に違和感があるような……)
そう思って自分の手を見る。
(あれ? いつもの手袋は?)
いつも付けていた手袋がない。
それはつまり――
「お前たち! そこで何をしている!!」
突然、後ろから衛兵の怒号が飛んできた。
「ヤバイヤバイ!! 逃げろーーーー!」
信之はフィリアの手を掴み、全力で走り出した。
幸運にも衛兵を振り切ることができ、二人は路地裏へ飛び込んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
信之は激しく息を切らしていた。
捕まれば最悪、処刑される可能性すらある。
「ねぇ、なんで逃げたの?」
フィリアは真顔で尋ねる。
「えっとね……それは……」
信之は、ディアリングが世間でどう思われているのかを説明した。
「へぇ……そうなんだ。そんなふうに思われてるんだ」
すんなり理解してくれて助かった。
「外れないなら、指を切り落としちゃえばいいじゃん」
「そんな怖いこと言わないで」
真顔でそんなことを言うものだから、信之は本気で恐怖を覚えた。
◇ ◇ ◇
「疲れた……」
何とか夜までには、フィリアの父の力で豪華ではないものの、普通の宿を取ることができた。
僕たちはこれからの旅に使うサバイバル用品を買いそろえ、翌朝一番でここを出るため、食料も王都の中心部から少し外れた場所で購入した。
(次の街に行ったら、お金を稼がないとな……ギルドとかあるのかな?)
信之とフィリアの所持金はあまり多くない。
今回の買い物で、その八割ほどを使い切ってしまった。
宿代を節約するため、部屋は一つしか借りられず、二人は同じ部屋で寝ることになった。
そして、疲れたのかフィリアはベッドへ寝転がると――
「信之、お腹すいた」
お腹が空いたと駄々をこね始めた。
「フィリアって料理はできないの?」
少し考えた後、フィリアは答えた。
「ヘビの丸焼きとかなら……」
「却下」
本当にお姫様とは思えない。
というか、お姫様を一人で修行へ行かせる親の気持ちも分からない。
「僕が作るか……」
フィリアは不思議そうに首を傾げた。
「信之って料理作れるの?」
「まぁ一応、貴族の雑用執事だから、基礎的なものなら……」
そう言って信之は料理を始めようとした。
しかし――
(何を作ればいいんだ……)
野菜についてはルーラに教えてもらっていたので、大体は分かる。
だが、疲れすぎていて料理のアイデアがまったく浮かばない。
(今使えるのが、豚バラとキャベツ、ピーマンか。調味料は備え付けのやつと……あと、何だコレ?)
味噌のような、カレーのような見た目をした調味料だった。
(これは確か、『お試しで!』って言われて棒手振りのおじさんにもらったやつ……)
信之は恐る恐る瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ。
(これ、どこかで……)
そして小指で少しすくい、口へ運んだ。
(これ豆板醤じゃん!!!)
なんと、日本でもよく食べていた豆板醤とほとんど同じ味だった。
(だったら、これ以外の料理はないでしょ!)
そうして信之は料理を始めた。
しかし、一つ困ったことがあった。
「それ何?」
「えぇ……!? え、えっとね……」
フィリアが後ろからぴったりとくっついているので、いろいろと集中できないのだ。
料理の匂い。
フィリアから漂う甘い香り。
そして、何か柔らかいものが当たっているような気がする……。
(負けるな信之!! ここは集中しろ!!)
二十分後。
いろいろな誘惑に耐えながらも、なんとか料理は完成した。
「これは?」
初めて見る料理なのだろう。
フィリアは興味津々といった様子で皿を見つめている。
「これは回鍋肉って言うんだよ」
信之は、魔道具国家アエニグマのお姫様に、ゴリゴリの中華料理を提供して差し上げた。
こんにちは!あまないです!
久々にやってきました。信之の料理シーン!
こんなシーンもこれから触れつのかなと思います。
さて、今頃アイラはどうしているのでしょうか…




