第31話 「千里の道も魔物から」
人通りの少し少ない通りに差し掛かった時、ステラの助言を受けて小走りで信之のもとに走った。
(いけます!アイラさん!)
これはステラの乙女な心の声である。
「あの…信之?」
信之はクラウスと話していたが、後ろに振り返ってアイラの方を向いた。
「ん?どうしたの?」
「あ、あの…その…」
今気づいたのだが、アイラは言うことを考えていなかったので何を言うか必死に考えた。
「き、今日さ…」
「ヤバイぞ!アーペルの群れが来た!」
通りの向こうからおじさんが叫んでいるのが聞こえた。声がした5秒、地面が揺れていることに気がついた。そして、土煙を立てながら何かが迫ってきていることが分かった。
「あ、あれは…」
アーペルとは、この世界に来た初日に襲われたイノシシ型の魔物だった。ものすごい勢いで土煙を上げながらこちらに走って来ている。
「の、信之…どうする?」
クラウスは信之に聞いた。彼も怖いのか固まっていた。
(どうする!?ここで指輪の力を使って氷漬けにすることはできる。だけど……)
昨日、指輪の力が暴走してとんでもないことになったのを信之は鮮明に覚えている。そして今回は周りには大勢の人もいるので安易に使用することはできない。
「クレアーレ・ウォール!」
ステラが壁を築いても、急いで作ったので脆いのか豆腐のように容易く突破されてしまった。
「どどどうしましょう!!」
信之は必死に考えた。このままでは自分たちに激突する。もう正直逃げることしか頭になかったのに…そうやって周りをキョロキョロしているとアイラが剣を抜いているのが分かった。そうだ。このパーティーにはこの人がいた。アイラは光属性魔法使いだが、魔法自体を使うのは苦手であり、代わりに剣技を特訓しているのだ。
(ここで信之にカッコいいところを!!)
「ルーセント・セカーレ!」
アイラが斬りかかろうとした瞬間、信之の視界の端に見慣れた茶髪が見えた気がした。そして、その茶髪の女は手を振りかざし…
「ウェント・セル」
その瞬間、アイラが到着する直前、アーペルの群れは一匹残らずバラバラになった。
「え?」
アイラはつい声が漏れた。それほどまで早く、そして正確な攻撃だった。
「皆様!大丈夫ですか?!」
アーペルのせいで怪我した周りの人たちを治癒魔法で治療していたのは、アルム魔法学校の世界一可愛い校長イリス校長だ。
「イリス校長!」
ステラはイリスを見つけた瞬間、彼女の元に走っていった。
「おや?ステラさん?では…」
イリスはこちらの存在に気がついたようだ。しかし、向けられた目はいいものではない…そんな気がした。
「みなさんが無事で良かったです。では、仕事があるので先に私は転移魔法陣に行っています」
そう言うと、そそくさとその場を去ってしまった。なにか信之は、彼女の気に障るようなことをしただろうか。
「じゃあ帰りましょっか」
ステラがそう言うと、メンバーは安心しきったように歩き始めた。ただ一人を除いて。
(何もいいところを見せられなかった…)
そんな心の声が誰かに聞こえることはなかった。アイラは、ステラに声をかけられ、前を行く信之とクラウスの後をつけた。
「なんか、お久しぶりですね。アイラ様、信之」
転移魔法陣を通り、そしてアルム魔法学校のパウルス公国へと繋がる転移魔法陣を通り、ルーラの待つ馬車に来た。たかが四日ぶりなのだが一年以上たびに出ていたような…そんな気がした。
「ただいま、ルーラ」
「ただいま、ルーラさん」
信之とアイラは馬車に乗り込み馬車に揺られた。まだここに来て半年ちょいしか経っていないのに実家のような安心感があるのはなぜだろう。まるで本物の…
「ところでアイラ様、この男になにか変なことはされませんでしたか?」
ルーラが開口一番、どことなく失礼な質問をアイラに投げた。
(あなたの中で僕はどんな人間なんですかっ!)
アイラはそう聞かれると、少し照れながら答えた。
「まぁ、変なことはしてたけど、役に立ってはくれたわ」
そっぽを向きながらの回答だった。ルーラは意外ですねと言ったが、少し気まずくなってしまい、そのまま何も話すこと無く見慣れたシュヴェルト家の屋敷についた。家に着くと、アイラは疲れたのかすぐに部屋に行ってしまったが、信之にはこの屋敷で雑用執事とシテの仕事がたっぷりあるので夕食が終わるまで自分の部屋には返してくれなかった。なんとも鬼畜…
「はぁ…1年分の体力を使った気がする…」
夕食の片付けを終え、やっとのことで自室のベットに倒れ込んだ。元々迷宮実習で疲れ切っていたのに、そこから執事としての仕事もキッチリこなしたので信之のHPはゼロになっていた。
「もうお風呂入ってすぐ寝よっと」
しかし、一回ベットに寝っ転がってしまったので中々ベットが信之を離してくれない。しょうがないことだと自分に言い訳をしていたらまぶたが重くなってきた。
「マズイ…風呂キャンは貴族として…」
しかし、人間の三大欲求には叶わないと諦めそのまま寝ようとしたその時、部屋の扉をコンコンと叩く音がした。
「ヤバッ!」
信之はルーラが来たと思い、慌ててベットから飛び起き、部屋の扉を開けた。しかし見えたのはメイド服ではなく、初めて見る可愛らしい寝間着を来た金髪美少女だ。
「ってなんだ、アイラか…ビックリした…」
「誰だと思ったの?」
風呂キャンをして寝ようとしてルーラに起こられると思ったなんて言えない。言えるわけ無い。
「あ、いや、ホントにビックリしただけ。どうしたの?こんな夜分に」
そう問うとアイラはまたそっぽを向いてしまった。昨日今日の所ずっとこれだ。
「その…迷宮実習のお礼。ちゃんとしてなかったから」
「いやでも膝枕で結構もらっちゃったというか…」
信之はリアナ迷宮からの帰り道、膝枕をしてもらった。彼にとってはそれだけでめちゃくちゃ嬉しかったのだが…
「いいの!いいから私を中に入れなさい!」
「あ、はい」
信之は部屋の扉を全部開けてアイラが入ってこれるようにしてベットに座った。
「なんでそこに座るのよ」
「体中痛いし、お嬢様に硬いソファは似合わないと思って」
そう言うと、アイラは信之の隣りに座った。今回は以前の河原ほど近くはなかった。
「その、ありがとうね。ホントに色々…」
照れながらもアイラはしっかりと信之に感謝の言葉を伝えることができた。
「珍しいね、そんなまっすぐと言葉を話すって」
「なんか言った?」
明らかにアイラの顔が怖くなったので前言撤回した。
「その、助けてもらった相手にお礼を言うのは当然でしょ」
目を合わせれくれない。信之はこのアイラの態度に味をしめ、すこしいじめてみた。
「そんな可愛いこと言ってたら襲っちゃいますよ」
信之がそういった瞬間、アイラは固まり顔は真っ赤に染まった。
「な、ななな何を言ってるの!?」
「冗談だよ、僕に君を襲う度胸なんてあると思う?」
アイラはこの信之の発現を聞くと急に我に返った。そしてアイラはその場を立った。正直このまま怒って帰ってしまうのだと思った。この時までは…
「…信之」
アイラは信之に声を掛けると同時に靴を脱いだ。
「ん?どうした、って…ッッ!」
信之は本の少しの間、言葉を発せなくなった。なぜなら口をアイラの口によって塞がれているのだから。そして押し倒されてアイラには腕を掴まれて身動きが取れない。
「〜〜〜っぱぁ!…はぁ…はぁ…はぁ…」
長いキスが終わった。アイラの額は汗が見えた。
「ア、アイラ…?」
名前を呼ぶと、アイラは口を開いた。
「そ、そうね!アンタに私を襲う度胸なんてものは無いわ!でも…私には……」
もう一度キスをした。しかも、さっきとは違い、深く、濃いディープキスだ。
「わ、私にはアンタを襲う度胸があるわ!!ど、どう!?私のこと少しはっ!!」
そうやって、迷宮実習の夜は少しずつ更けていった。廊下を歩く足音に気付かずに…
こんにちは!あまないでーす
ようやく来ましたね…いや〜長かった。
文字数もめちゃくちゃ長くなってしまったので今回はこの辺で…
あと次で第一章完結です。お楽しみに!!!




