第23話 「天使の愛の鞭」
オシャレなことに小鳥のさえずりで目を覚ました。
「あ……朝か……」
リアナ迷宮への出発日当日、信之パーティーの朝は早かった。
しかし、また腕に違和感がある。
あの女神のところから帰ってきた朝と同じ感覚だ。
(またかよ……)
腕にいたのはアイラだった。
おかしい。
昨夜は気まずくてアイラから一番遠く離れたところで寝たはずなのに、なぜか信之の腕の中で寝ているのだ。
恐らく寝相のせいだろう。
「ん……」
「あ、クラウスおはよう」
寝ぼけているのかクラウスは信之の事をジーッと見つめた。
「お前とうとう女に手を出したか……」
「違うわ!」
アイラを起こさないようにそーっと立ち、テントを出た。
外を見るとステラが起きていた。
彼女は一番最初に起きていたらしく、出発の準備をしてくれていた。
「あ、信之くん。おはようございます」
「おはよ。ありがとね朝早くから」
「いえいえ」
ほんとにこの子はいい子だなと思った。
アイラもこのいい子さを見習ってほしいなと思った。
(アイラも根は優しいし可愛いんだけどな……)
僕達はこれから馬車乗り場に行き、ほぼ丸一日かけてリアナ迷宮へと向かう。
しばらくしてクラウス、アイラも起きてきた。
そしてみんなで乗り場に行く準備をしていた。
「あ、アイラ。おはよう……」
「おはよう……」
(とてつもなく気まずい)
すごく気まずかった。
信之は昨夜アイラの肩を抱き寄せてしまい、その後のアイラの反応が怒っているように見えたからだ。
(どうしよう……顔が見れないっ! ……ただの信之なのに!!)
こちらもこちらで朝から心中穏やかではなかった。
それから四人は出発のために準備をした。
しかし何かを忘れている気がする。
「そういや出発時間って何時?」
ステラが確認してくれた。
「えっと……九時ですね」
現在時刻八時五十分。
この現状を瞬時に理解した四人。
大急ぎで準備を終え、そのまま全力疾走で馬車乗り場に向かった。
「はぁ……はぁ……な、なんとか……」
本来なら歩いて三十分ほどかかる馬車乗り場に、火事場の馬鹿力でなんとか九分で到着した。
「お客さん遅いですよ! もうコイツしか残ってませんよ」
受付のおじさんに案内されたのは、いかにもやる気のなさそうな馬が引く馬車だった。
四人は仕方なくその馬車に乗ることにした。
しかしまぁ遅かった。
人が少し速歩きしたら抜かせそうなぐらい遅かった。
しかも周りにはアルム生もちょくちょくいるので余計に視線が辛かった。
「このままでは到着が遅れるわね……」
そんな、そこそこ辛い時間を過ごしていた四人にある救世主が現れた。
「みなさん、大丈夫です! 私に任せてください」
そういってステラ(天使様)が立ち上がり、御者の所に行った。
「ちょ……ちょっとお嬢ちゃん。ここは危ないよ」
「クレアーレ」
そうステラが唱えると、土でできた鞭のようなものを自身の土属性魔法で生成した。
「ステラ……それって……?」
「まぁ見ててください」
その次の瞬間。
ステラが鞭で馬の尻を思いっきり叩いた。
馬もびっくりしたのか急に全速力で走り出し、あっという間に街を出た。
「ス……ステラ……何やってんの?」
「愛の鞭です!」
満面の、まるで天使のような笑みを浮かべて答えた。
「信之、ステラ様は絶対に怒らせないようにしないとな」
「それな」
ステラが五分ごとに馬の尻を思いっきり愛の鞭で叩いてくれたおかげで、やる気を取り戻したのか恐怖に慄いたのか普通に走るようになった。
「しかし綺麗だな〜」
窓の外を見ると横に流れていく広大な草原が広がっていた。
改めて自分は異世界にいて冒険していると思わせられる時間だった。
「本当に何も起こらないでくれるといいな」
「あ、それフラグ……」
クラウスが死亡フラグを放った一秒後。
馬車の横に轟音が響いて砂煙が立った。
(またこの展開……?)
「ケッケッケ……呑気にピクニックか?」
「随分とお気楽ではないか……」
この前同様、二匹の魔族が襲来した。
(マジか……今回は魔力温存しないとなんだよな……)
前回はプルウィア戦で魔力を使いすぎ、体調が悪かったので戦えなかったが、今回は実に健康である。
しかし、この前女神に『迷宮実習まで魔力を温存しておくように』と助言を受けている。
あのいい加減な女神の助言だが無視するわけにはいかない。
「アンタたちの要求は何?」
先陣をきってアイラが馬車から飛び出し魔族の要求を聞いた。
「グラキエスの適合者を渡せ。そうすればお前らの命だけは見逃してやる……」
「こ……ここには悪魔の契約者なんていないわよ!!」
やらかしてしまった。
ルッツにアイラ以外には絶対に自分が悪魔の契約者であることは秘密にしておくように言われているのに、このままだとバレてしまう。
と思ったのだが――
「え? マジ? そなの?」
あれ?
おかしい。
こういう時普通は『では皆殺しだ……』とか言ってくるのがファンタジーの定石なのに……
「ごめん間違えた! サラダ! ……間違えた、さらば!」
二匹の魔族はどこかへ消えてしまった。
(マジで何だったんだ……)
魔族襲来?から半日後。
僕達四人は相変わらず馬車に揺られていた。
「君たち、今日はこのへんでいいかい? さすがに馬も疲れてきていてな……」
一時間ほど前からステラによる愛の鞭作戦が再開していて、徐々に遅くなっていっていたスピードは回復していったが、流石に馬も疲れたらしい。
朝イチでここを出ればリアナ迷宮にも十分間に合う距離だったため、今日はこの河原に馬車を止めてここでキャンプすることになった。
メンバーが馬車を降りると、ステラが馬の所に駆け寄った。
「お馬さん。明日もよろしくお願いしますね♡」
馬の耳元で天使の囁きを聞かされた馬は、気絶するかのように膝から崩れ落ちて眠った。
しかし本当にこのへんはきれいなところだ。
澄んだ空気。
目の前にそびえ立つ断崖絶壁。
その下を流れる清流。
その清流に流れてくるクラウス……
「ってクラウスーーー!」
信之は必死に、得意ではない渾身のクロールで川で溺れているクラウスを助けた。
川辺に引き上げたが、一瞬生死をさまよった。
しかしステラの回復魔法でなんとか生き返った。
「なにがあった?」
「川に興奮していたら足をすべらせた……」
ほんとうにアホすぎる。
しかし、そういう所がクラウスの憎めないところだ。
「本当ですよ! ……魔族に襲われたのかと……」
次の瞬間。
聞き馴染みのある轟音が川辺に響いた。
「お……お……お前らぁ!!! 嘘吐きやがって!!!」
出てきたのはさっき帰っていった魔族二人組だった。
「マレリス様に確認したら間違いなくお前だということが分かった……マレリス様にお手を煩わせた罪……その命をもって償え!!!」
さっき『ごめん! 間違えた!』とか言って帰っていった魔族が、見るからに殺気に満ち溢れて戻ってきた。
(しかし参ったな……魔力は温存しないとだし……)
「なぁ……本当にお前なのか……悪魔の契約者って……?」
クラウスが信之に聞いた。
このまま『違います』と言い続けても魔族が何をしてくるかわからない。
信之は腹をくくった。
そして、ゆっくりと手につけていた手袋を外した。
「マジかよ……」
「本物なのですか……? 信之くん……」
クラウスとステラは言葉を失っていた。
無理もない。
今までずっと一緒にいた仲間が世間で恐れられている悪魔の契約者だったのだから。
「信之は渡さねぇよ!!!」
先陣をきってクラウスが前に出た。
「クラウス! 危ないから下がってて」
「お前は魔力を溜めとかなきゃなんだろ? ここは俺に任せろ!」
前に出たクラウスを魔族は鼻で笑った。
「ケッケッケ……子供ごときが俺達を相手しようなんていい度胸じゃねぇか……」
「時間の無駄だ。さっさと片付けろ……」
片方が魔法を放つ準備を始めた。
「それはどうかな……」
そう言って、クラウスも魔法を放つ準備をした。
ここで信之は初めてクラウスが戦うと言った理由がわかった。
(そっか……クラウスは水属性魔法使いか!)
そう。
クラウスは水を操る水属性魔法使い。
そして魔族の真後ろには大きな川がある。
「まてギル……周りの様子がおかしい……」
「あぁん? なんだドロ。さっさと片付けるぞ……って!?」
魔族二人組が気がつく頃にはもう遅かった。
「今度は嘘に惑わされるなよ! アクア・アークス!」
クラウスの水の刃が無数に魔族へ突き刺さり、あっさりと倒してしまった。
その日の夜。
信之パーティーは前日のキャンプのように雑談をしていた。
そして疲れているのか、みんなすぐに寝てしまった。
「眠っ……明日リアナ迷宮だし……早く寝よ……」
トイレから帰ってきてテントに入ろうとした時、後ろから声をかけられた。
「信之……ちょっと来なさい……」
昨日のこともあったので今日は会話が少なかったが、昨晩同様、アイラに話に付き合った。
「どうかした? まだ怖い?」
「……」
「アイラ?」
アイラは少し黙って口を開いた。
「その……昨日はごめんなさい……急に……」
驚くことに昨日のことを謝ってきたのだ。
「あ……えっと……大丈夫だよ! 何も気にしてないから」
「ほんと?」
顔を上げて信之の顔を見つめた。
そして急に――
「うわっ! って急にどうした?」
なんと急に抱きついてきた。
抱きつかれた瞬間、甘い匂いがふわっと香り、上半身全体に柔らかい感覚が伝わった。
「ッッ! ……こ、これは謝罪の意よ! と、特別な意味とか無いから! 勘違いしないでよね……」
信之も恥ずかしかったが、腰に手を回した。
そのまま夜は更けていった。
こんにちは!あまないです!
終わり方が被ってしまいスイマセン!
それでも見てくれている方々には本当に
感謝しかないです。さてさて…
信之とアイラはこのままどうなっていくのか…




