第63話 アルフレッド回想7
過去
アルフレッド視点
「チェン族は昔から氷結魔獣に対して有効な戦術を持っていた。強い精神と肉体を併せ持つチェン族達。彼らの協力が得られれば全滅する前に拠点を構築出来るかも知れない」
「チェン族の戦士ですか………」
我らの兵士に対し圧倒的に少数ながらも全く引けを取らなかったチェン族の戦士達。
一騎当千とまで言わないが少なくとも我々の兵士10人並みの力と機動力を有している。
そしてチェン族達を含む北部蛮族達は日々魔獣達と相対してきたのだ。
確かに彼らなら魔獣に対して善戦出来るだろう。
「我が領民になり農地を得て平穏な暮らしを始めたばかりの彼ら。再びの移動を納得させるのは大変かも知れん。だが真摯に対応すれば判ってくれるはずだ。それに、なによりお前の弟がいる」
「………はい」
弟サーベル。
双子が禁忌とされた帝国でオレとの双子として生まれた唯一無二の片割れ。
帝国貴族の慣習からその存在は秘匿され、赤子のうちに密かにチェン族に託された。
蛮族の殆どは遊牧民。
同じ場所に留まらない。
メンデル領に再度戻るか分からぬ蛮族相手だからこそ助かった命だった。
それが寒冷化の影響で十数年経って南下し、偶然にもメンデル領に居座った蛮族がチェン族だったという理由だった。
そして弟はチェン族の族長の息子になっていた。
族長は父上を覚えていて、奇跡の再会となったのだが。
「今更父親ダト言ワレテモナ。ソレトモ帝国人ハ捨テタ子供ヲ再ビ迎エ入レル慣習デモアルノカ?」
「帝国貴族の悪しき慣行によりお前を捨てた罪を取り繕うつもりは無い。だが済まなかった。他にお前を守る手段が無かったのだ」
「………………」
蛮族特有のアムダという家畜の毛皮を全身に纏い女のように長く伸ばした長髪。
その長髪はチェン族の黒髪と一線を画す金髪だ。
そして黄みのある肌と扁平な顔、丸みのある耳が特徴の蛮族において、オレにそっくりな顔で同じ長耳は帝国人民と同族である事を示す間違いない証である。
メンデル領に南進して勝手に領の一部を占有したチェン族。
一触触発の睨み合いの中、部族の合間にその金髪を見て戦闘を留まらせた父上。
だが18年ぶりに出会った弟は父上の話に不快感を隠さなかった。
それでも戦闘より話し合いを前面に出した父上に族長が理解を示し、ここに初めて蛮族チェン族との話し合いが成立したのである。
元々彼らも氷結系魔獣と寒冷化で疲弊しての領地占拠はやむにやまれぬ状況。
最初からお互いに歩み寄る条件は揃っていた。
そして当時弟をチェン族に預けた彼らとハーフだった蛮族語を解する乳母。
その彼女が健在で通訳を申し出てくれた事が話し合いに大きく貢献したのである。
だが再びの領地移動に弟は不信感を顕にした。
「帝国ハ我ラヲ魔獣扱イスル。誘キ出シテ襲撃スルツモリカ!」
「そんな訳があるか。移動は我らの領民と共に行なっていく。お前達だけの移動はしない」
「アルフレッド、良い。サーベルの反応は当たり前の事。疑念を抱くなという方が無理なのだ」
「父上、しかし」
「だがサーベル、これだけは信じてくれ。私は二度とお前を裏切ったりはしないと」
「…………!」
そう納得させて何とか弟を黙らせた。
なにより族長が父上達の説明に了解したからだ。
そうしてメンデル領内を何とか短期にまとめ上げたオレと父上は、その材料を持って宰相に謁見した。
「ほう。メンデル領の防衛を諦め新たな開拓地を切り開くか。中々思い切った事よの。だがそれだけでは弱いな。なによりそれでは帝国領北部が手薄になってしまう。貴領の兵士を帝国中央軍に編入した上で引続き旧メンデル領の防衛に当たらせよ。よいな?」
「お待ち下さい!?それでは西部の開拓地を防衛する戦力が足りませぬ。拠点が維持出来ません。また旧メンデルに残す兵士達の家族はどうすればよいのですか?!」
「アルフレッド、控えよ」
「そんなものは開拓地に向かわせよ。人手が足らんのであろう?開拓地防衛には女子供に武器を持たせればよかろう。それで兵士の補充は十分じゃ」
「……現地の魔獣は氷結系魔獣より強力だと聞きます。それを女子供が手に負えると言われますか?ましてそれだけの武器がありません」
「…………………」
「鍬や鋤の農具を使えば何とかなるであろう」
「女子供で、鍬や鋤で魔獣を撃退せよ、と!?」
「ならばこうしよう。見事あの地に拠点を作れたあかつきにはそこを領地とし、貴殿の息子に辺境伯爵の爵位を与えようぞ」
「わ、私に辺境伯爵の爵位を!?」
「息子に辺境伯の爵位、間違い御座いませんか」
「父上?!」
「うむ。元メンデル男爵は開拓地に向かわず旧メンデル領で国家防衛に当たるのであろう?ならば開拓地は息子が見事に務め上げるのだ。それくらいの爵位を与えて当然ではないか」
「「!!」」
辺境を開拓出来れば帝国貴族として残れるだけでなく、現爵位より高位な辺境伯爵に任じられる。
だがそれは絶望的な開拓を成せればという絵に描いたような話だ。
宰相は全滅必死の開拓団への志願を花を添えた美談にしたいだけのだ。
だが断る選択肢は我々にはない。
こうして我々は後戻り出来ない無謀な賭けに応じる事となったのである。




