第62話 アルフレッド回想6
過去
アルフレッド視点
実は亡命の話は水面下で進んでいた。
元々メンデル領でも北部からの寒冷化進行で、一部の土地での農作業が困難になっていたからだ。
近い将来、大多数の領地で作付けが困難になる予測もあり多くの農民が路頭に迷う事が予測されてる。
更に蛮族達の南下原因にもなっている寒冷化に伴い現れた氷結系魔獣達。
寒冷化の進行と共に蛮族達を追って南下、時折メンデル領にまで現れるようになってしまった。
氷結系魔獣は氷系魔法を使う厄介な相手。
氷の鎧を纏い長い牙を持つ凶暴な肉食魔獣フリーザータイガーサーベルが主体だ。
一魔獣で我々の兵士が三人は対処しなければならない。
蛮族達が北部から南下した原因の一つなのだ。
そして、寒冷化と氷結系魔獣の南下はまず止まらないだろう。
つまり蛮族への対処は始まりに過ぎず、メンデル領を含む北部辺境領も蛮族達と同様に寒冷化と氷結系魔獣の闊歩する不毛地帯になるのは時間の問題だといえるのだ。
だから領地を捨て領民達を他の地域に移住させる事は当初から計画されてはいたのである。
もちろん元老院への報告も怠ってはいないが、関心のない老害達は報告書も読んでないだろう。
「宰相のせいで計画が早まったという事か」
「父上、未だ中央は北部領に関心が無く我々の生き死になど始めからどうでも良いのです。ただ今回、難癖を付けたのはもっと別の理由のように感じられました」
「別の理由?」
「これは私だけの考えですが、帝都の政治的事案に巻き込まれた可能性があります」
「たかが地方領を巻き込む理由が分からんが?」
「すみません。これは予測に過ぎませんが、巻き込まれた原因は私の交友関係にあったかも知れません」
「交友関係……リングルベル侯爵家か」
「当主とは親友です。彼は治安局局長として帝都内での人身売買とアヘナ麻薬取り引きを追ってました。最後に会った時に有力な情報を掴んでいると話ていたのです」
「すると宰相に関わる何かに触れてしまった。その事が宰相側に漏れた、という事か」
「…………親友とはあれ以来会えてません。治安局は扉を硬く閉ざし人の出入りは感じられませんでした。ジョージは正義を貫く鋼の精神を持っています。恐らく様々な妨害にも怯まず黒幕まで辿り着いてしまったのかも知れません」
「リングルベルが排除されれば我ら旧皇帝派は駆逐される。どちらにせよ遅かれ早かれだったのかも知れん」
リングルベル侯爵家は先代皇帝が決めた《正義の剣》の称号を持ち、皇帝と同等の法の執行権限を持っていた。
不可侵の称号であり法の執行において宰相と同等かそれ以上の権限があったのだ。
元老院法廷に持ち込む事になれば、その権限は計り知れない。
一度法廷が始まれば宰相といえど横槍を入れる事すら叶わなくなる。
「皇帝陛下は病に伏せられ今はかなり弱られていると聞く。その間に宰相が地盤固めに動いたのだろう。その過程で行き過ぎた違法行為があったのか」
「ジョージがその違法行為の証拠を手に入れたのかも知れません」
「強硬手段に出た可能性があるな」
「っ、ジョージ………」
ある意味派閥争いの様相になっていたのだ。
地方領を抱える数十の貴族連合。
これらは古くからの旧皇帝派だ。
もちろん中央の有力貴族も連合に加わっていたが、宰相の裏工作でリングルベルを除き排除されてしまっている。
宰相は自身の娘を皇帝の側室に入れるなど、逐次力を蓄えていた。
正室だった皇妃が病で急逝すると更にその力は増し、娘が正室に入れ代わってからは圧倒的な権力の行使で元老院の主要メンバーを自身の取巻きに据え変えた。
当然それには多額の裏金が動いたはずで、その資金源を追っていたのがジョージだったのだ。
「だが亡命には下準備が足りん。亡命は南部諸国連合の一部に打診はしていたが具体的な詰めはこれからだったからだ。しかも短期間の大規模な人の移動は正に反乱罪を適用されかねん」
「亡命は現実的でない、というわけですか。ではどうしますか?宰相の命令に従いチェン族を裏切り皆殺しにしますか」
「馬鹿な事を言うな!」
まさに八方塞がり。
これではジョージの救援に駆けつけるどころか、その前にメンデル領は終わりを迎えてしまう。
どうすればいいのか。
「……今、元老院は領土拡張を推し進める話が出ている。これを推進しているのは、どういう訳か宰相だ」
「父上、突然何の話です??」
「我が帝国は東部に相互不可侵の条約を結んだホーリー聖王国、南部に敵対する南部諸国連合、そして北部に寒冷化による蛮族と魔獣の南下を抱えている。つまり何のしがらみが無い方向は西部だけだ。そして西部には広大な手つかずの帝国領がある。宰相はその開拓に力を注いでいるのだ」
「……聞いた事があります。広大な魔森が広がり氷結系魔獣に匹敵する魔獣が多く棲む人の侵入を阻んでいる場所だと。それが我々とどう関係するのですか?」
「分からんか?宰相に再度交渉し我が領の移転を具申するのだ。蛮族を含め開拓団として帝国領を広げる手助けをすると伝える。そうすれば宰相は否とは言うまい。我らは生き残るチャンスを手に入れメンデル領も再建される。まさに名案とういえるだろう」
「父上?!」
あの地域は毎度魔獣達が群れで溢れるスタンピードが頻発すると聞く。
だから小さな村が出来ても直ぐに消滅するのだ。
まさに魔境。
そんな場所に住民達を移してタダで済むはずもない。恐らく拠点を作る間もなく全滅するのがオチだろう。
父上はそこを解っているのか?!
「父上、自殺行為です。全滅は免れません!」
「他に選択肢は無い。だが一つだけ可能性があるのだ」
「可能性、ですか?」
可能性とは何だ?
父上は一体何の話をしようとしているのか。




