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第60話 アルフレッド回想4

過去

アルフレッド視点


こうしてオレはメンデル領における北部問題に一定の解決をつけ急ぎ帝都に戻る事が出来た。

直ぐに親友のジョージを訪ねるつもりだったが、帝都で待ち受けていたのは宰相からの呼び出しと突き付けられた意外な要求だった。



「アルフレッド・メンデル、登城しました」

「おおアルフレッド・メンデル、よくぞ来た。見事蛮族を打ち破り自領を守り抜いたと聞く。皇帝陛下もいたく機嫌が良く褒美を取らせよと仰せだ。快く賜るがよい」

「褒美、ですか?」



宰相ハーレイ。

普段から衣服全体を黒いローブに包み込み、床にも届きそうな長い顎髭を有する元老院を取りまとめる帝国の重鎮である。

昨今は病気がちな皇帝陛下に代わり好き勝手に政権を牛耳る一癖も二癖もある人物だともっぱらの渦中の人物である。


その宰相が珍しく北部問題に関心を示し、今回蛮族との抗争に区切りを付けられたメンデル領の噂を聞き付けたらしい。

だが地方領の趨勢など普段から気にもとめないはずの宰相が今回に限り、どういう訳か皇帝の名を出してまでオレを呼び出した。

皇帝からの褒美というが実質的なところ、その判断も宰相の独断によるもの。

一抹の不安がよぎったが断われる事でもなく、呼ばれるままに登城するしかなかった。


本当は登城前に親友であるジョージに話をしたかったが生憎ジョージとは会えずじまい。

それどころか、ジョージの居る筈の治安局は何故か閉鎖されていて、彼の近況を伺い知る事は叶わなかったのだ。



「打ち破りとのご評価ですが、それは話しに尾ひれが付いただけの事。実際には話し合いによる和解により早期に緊張を解く事が出来ました」

「話し合いだと?」



ズウゥンッ

「っ!?」



それは突然だった。

オレが事の真実を伝えた時、謁見の間全体に得も知れぬ重たい空気が充満したのだ。

現在この謁見の間にいるのはオレと宰相だけのはず。

つまりこの殺気にも似た重たい気を発しているのは目の前の宰相という事になる。

オレは何か宰相の琴線に触れる様な事を言ってしまったのだろうか?!



「すると何か?メンデル領は元老院の指示を仰がず勝手に蛮族と言葉を交わしたという事か」

「初段の報告は義務として行なっております。その際の元老院からは自領の防衛は個々の判断で行えと云われました。我らはその指示に従い最善の判断で話し合いに応じたまでです」

「ふむ、初段に責任は果たしている、そう申したいという訳だな」

「?!」



宰相はオレから目線を逸らすと、自身の顎髭を触りながら何やら思案している様子だった。

何を考えているかは分からないが、オレの全身から冷や汗が止まらない。

不味い。

宰相は話し合いという行為に何らかの負のイメージがあるようだ。

嫌な予感が止まらない。



「アルフレッド、君とメンデル領は我々元老院と考え方に大きな違いがあるようだ。蛮族と話が出来る事も問題だが、どうしてその様な事をしたのか私は理解に苦しむよ」

「それはどういう………?」

「蛮族の言葉は分からない。それは彼らの先祖が魔獣だったからだ。獣や魔獣は我ら人間とは相容れない。何故なら魔獣は我々人間の天敵なのだからね」

「ま、待って下さい!?蛮族は間違いなく人間です。彼らも普通に平和を求め暮らしたいだけの」

「ほう、蛮族の側に立つのかね?」

「!」

「蛮族は話の分からぬ魔獣。昔からそう決まっている。まさかその魔獣達と言葉をかわし話し合いまでしたとは、メンデル領民は魔獣の血が流れているのかも知れんな。これは大変な事ぞ」

「な、何を言って……」

「するとそのメンデル領を統治するメンデル男爵とその一族も同じ魔獣というわけだ。魔獣は帝国の、そして人間の脅威である。だから討伐しなければならない」



宰相はメンデル領が下した蛮族との和解を明らかに問題視している。

彼らにとって蛮族を人間と認めるのは不都合な何かがあるのか?



「して、話し合いの結果はどうしたのかね」

「メンデル領の未使用な土地を貸し与え、彼らを領民として受け入れるとしました。彼らの目的は凍える北部からの避難です。生活の場が与えられれば従順に従うとの事でしたので」

「ほう、魔獣を上手く騙して手なづけたか。メンデル領は魔獣を武器化して帝国に反逆を企てているとみえる」

「は?」



これは言いがかりではないのか。

だが相手は宰相。

単なる言いがかりでもそれはメンデル領全体の生き死にに関わる裁量を持っている。

対応を誤れば言いがかりは現実になってしまう。



「有りえません。メンデル領は弱小な辺境貴族で帝国に絶対の忠誠を誓っています。反逆などとその様な」

「無いと言い切れる、お主はそう言い張るか。だがその弱小貴族に似合わない戦力を密かに内包するのは反逆と疑われてもおかしくはない。そうは思わぬのかの」

「似合わない戦力とは?」

「分からぬか。魔獣を戦力として持つ事の意味が」

「あくまで蛮族達を魔獣と?!」

「そうではないか」



確かに魔獣を操る魔法がある事は知っている。

そうした者は魔法使いであり各国で秘匿されているものだ。

まして住民として受け入れた蛮族は殆どが非戦闘員にあたる。

それを名指しして戦力だと宰相は言っているのだ。

これはもう蛮族を魔獣と決めつけた情報のすり替えではないか。



「ふむ、そうでないと言い張るなら、それを証明する事だ」

「証明、ですか?」

「そうだ、反逆の意志が無い事を証明せよ」



証明………?

何を持って証明すると言うのか。

宰相の話は見えない。



「メンデル領に巣食う悪しき魔獣を全て討伐せよ。それがメンデル領潔白の証(あかし)となるであろう」


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