第54話 ギルド長8
「はぁ、だったら私がそのあたりを手伝います。取り敢えず書類仕事からですかね?やりますから、そんなにご自身に当たらないで下さい。あと監察官の情報とブルガ商会の情報、それらの提示を求めます」
ガバッ
「お前が読み書き出来るだと?」
私の言葉に即座に反応するアルフレッド。
ソファから飛び起きるや否や目を見開き、真剣な顔で私の顔に詰め寄った。
え、何でそんなに驚く事なの?
あと顔が近いよオッサン!!
「この国の識字率は二割だ。そこの分野は商人と文官、貴族達が独占している。平民とを分ける既得権益にもなっているんだ。お前の育て親カーチスとライリーは腕は立ったが地方のド田舎出身冒険者で、冒険者ギルドによれば自分達の名前を署名出来る程度だったと聞く。その二人に育てられたお前が書類仕事を手伝うだと?冗談は休み休み言え」
「書類を見せて下さい」
「何?」
「いいから書類を見せて下さい!」
「…………………いいだろう。分かるもんなら見るがいい」
ドサドサドサッ
バサッ
アルフレッドは、納得いかないという顔をしながらも直ぐに執事に書類を持ってこさせた。
私が読み書き出来ると言った事に随分と疑って見ているようだ。
が、目の前の無造作に置かれた書類の山を見て、私は正直頭を抱えた。
そしてアルフレッドの書類に目を通す前に、私がこの世界の文字や書類関連にある程度の自信を持っている理由を云わねばなるまい。
元々この世界の文字は最初のあばら家で目にした時、ミミズが這いつくばった様な文字を難なく理解した事が最初だった。
しかもそれがアリアの墓の墓碑銘とか、あまりに衝撃的だったのを覚えている。
そしてその後、ベスと洗濯屋を手伝っていた時に各書類関連に目を通す機会があったのだ。
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数日前
◆リネン専門の洗濯屋
「困ったよう、どうしたもんかね……」
ガタンッ
「マーサさん、今日の分終わりましたよ」
「終わりました」
ガサガサッ
「あらアンタ達、もう終わったのかい?相変わらず仕事が早いねぇ。本当に大助かりだよ」
「書類ですか?」
「ああ、ちょっと厄介事でね」
私達が仕事を終わらせて帰る前に洗濯屋主人のマーサさんに挨拶に伺うと、彼女は机の書類の前で何やら悩み事の様子。
ベスと顔を見合わせた私。
彼女の悩み事が気になり声をかける。
「何か困り事でも?」
「アリアちゃん?あらいやだ、弱音を吐いちまったよ。実は新しい税金の申告書が届いたのさ。なんでも売り上げに対して一定の税が課せられるとかで、たった今商人ギルドから届いたんだよ。今迄は人頭税だけで良かったんだけどアタシのところは自分一人だろ?儲かってるなら、それ相応の負担をって言われてね。ウチの売り上げがいつの間にか商人並みに上がってるってんで売り上げの一割を納めろとさ。儲かるようになったと思ったら税金が上がるとか何だかやってらんないよ!」
「所得税ってやつですね」
「ショトク、何だい?」
「マーサさん、アリアの言葉は気にしないで下さい。時々変な言葉を言ったりするんで」
「ベスおねぇちゃん、酷い」
「事実だわ」
「うっ」
「まあ、とにかく困っちまったんだ。あたしゃあ計算が出来なくてね。売り上げの一割ってのが分かんないんだよ。まいったね」
「あの、私なら計算出来ますけど」
「は?アリアちゃん、本当かい?!」
「アリア、税の計算なんて出来ないよね?私達が使ってる指算とかじゃ足らないわよ」
「10より上の数字も判る」
「そんな数字使えないでしょ!?どんだけ手が必要だと思うの?足の指を入れる気??」
「ベス、指を数えなくとも計算すればいい」
「計算ってアリア、出来るの?」
「うん。それでマーサおばさん、そこの金額が今月の総売り上げなら一割は10000メルティという事になりますね」
「もう出来たのかい?本当に?」
「………あり得ない。アリア、いくらなんでも早すぎだよ。口からでまかせを言ってない?」
「十割が全部の売り上げを指すから、その一割なら十分の一。だから総売り上げ100000メルティの一割は10000メルティなの。ベスおねぇちゃん」
「じゅうぶんのいちって何???」
私の言葉に目を白黒させてビックリするマーサおばさんと頭を抱えるベス。
よっぽど私が計算出来る事が信じられない事だったようだ。
まあ仕方ないよね。
日常でベス達が使えているのは足し算引き算の初歩の初歩。
それも指を使っての数え方だ。
つまり彼女らの常識はそこ迄なのだ。
そして分数はもちろん、掛け算割り算も一般には使われていない。
会計を生業にしている一部の官僚などは使っているのかも知れないけど、少なくとも平民の間では皆無だ。
だから私の計算にマーサさんとベスが舌を巻くのは無理からぬ事であろう。
因みにこの国の貨幣単位はメルティ。
1メルティが日本円で1円に相当するようだ。




