第52話 ギルド長6
そして、多胎児を禁忌とする悪しき習慣を是正する神託を下した彼女に、私は今心から感動してる。
少し抜けてるけど、やっぱりフォルトーナは女神様だと思う。
「だが、この女神教の神託に皇帝と貴族達は真っ向から否定した。国教である創造神ラストラディーゼ神殿の教義を否定するわけにはいかなかったからだ」
「そんな!?フォルトーナの神託を無視するなんて!」
「女神様のお名前を呼び捨てだと??」
「あ、いえ、女神フォルトーナ様の神託を無視して酷いです」
「⋯⋯うむ、オレもそう思う。それと女神様のお名前を呼び捨てはいかんぞ」
「は、はい。すみません」
私とフォルトーナは友人みたいなもの。
ウッカリ彼女の名前を呼び捨てにしていた。
だけどこの世界の人々からは信仰の対象だ。
今後は気をつけて発言しよう。
「分かればいい。神はいつも我らと共にある。けっしてその御心に背いてはならないのだ。そして創造神の教義に異を唱える神託を無視するのも駄目だ。何故なら教義より神託の方がその重みが違うからだ」
「教義より神託の方が重みがある?」
「その通り。教義とは最初に神の意向を受けた者が神託として伝え、それを元に後の弟子達が民草達が分かりやすいようにと伝書として後世に残したものだ。庶民が分かりやすいように体系化され明文化されている。つまり神託は神からの直接啓示であり、教義とは神の意向を忖度した人間が創作して作り上げたものになる。自ずとどちらに重みがあるかは判るだろう?なのに皇帝と貴族達はその教義を是とし女神様の神託を排除した。何故か判るか?」
「分かりません」ふるふるっ
「創造神ラストラディーゼ様の方が女神フォルトーナ様より上位神だからだ。そしてその信仰は今の帝国の国教となっている。もちろんそれだけではないが、以上の理由で女神様の神託は無かったものとされた。情けない話だがな」
「⋯⋯すると創造神神殿は上位神と国教を理由に今も双子や三つ子の存在を認めず従来の愚行を踏襲しているというのですか?」
「残念ながらな。そして女神様のお言葉にあった《双子》《三つ子》などの言葉は厳重に封印され箝口令を強いた。当然その圧力は女神フォルトーナ様を信奉する女神教全体に対して行われ、女神教は後に帝都から追放されてしまったのだ。帝都の孤児院の運営を担っていたにも関わらずにだ」
「孤児院の運営を?では現在の孤児院は⋯⋯?」
「当初は創造神神殿が肩代わりしたが孤児院が貧民街にあった為に彼らは運営を放棄してしまった。元々創造神神殿は貴族の子女の受け皿が主体。貴族達の寄付によって成り立っている。そこに平民や貧民街の孤児を入れる選択肢は始めから無かった。平民達に対する体裁を取り繕う為の一時的なゼスチャーに過ぎるなかったという事だ」
「そんな!自分達で立ち行かないようにしておいて、最後は放り出すなんてあんまりです!!」
創造神神殿はフォルトーナの神託を無かった事にしただけじゃなく、彼女の信仰団体である女神教の孤児院運営まで取り上げたのか。
酷すぎる。
許しがたい行為だ。
全ては貴族論理に基づいた強引な幕引き。
いつもその煽りを受けるのは最も立場の弱い平民や孤児達になってしまう。
「だが事はもっと複雑だ」
「どういう事ですか?」
「創造神神殿は孤児院をただ放り出した訳ではなく、その新たな受け皿にと、とある商会に運営を依頼したんだ」
「商会というと裕福な平民に運営を渡したというところでしょうか?そこに至る経緯は良くありませんが、受け皿があったなら良かったです」
「その商会は人身売買の疑いがあるんだ」
「は?人身売買?!」
「水面下だが、悪徳な一部の貴族達との繋がりを噂されているところで、その貴族達は商会が闇で行なっているアヘナ麻薬の販売と人身売買の利益で不当に私腹を肥やしていると云われている。商会はその貴族達を使い帝国の司法当局の捜査を免れつつ莫大な利益を上げているんだ」
「ま、さか」
「ああ、あの悪名高いブルガ商会だ」
なんてこと!
ならば帝都の孤児院の子供達は奴らの金儲けの原資にされてしまうという事。
これが異世界ヒューズ2における現実か。
もちろん地球においても絶対に無いとは言い切れない事柄だが、少なくとも日本においては既に撲滅された筈の所業だ。
だけどこの事実を知って、このままにしておくわけにはいかない!
きっと私がここにいるのは、この為だったに違い無い。
「助けに行きます」
「お前がか?帝都の場所も知らないのに?」
「⋯⋯⋯あなたが知っています!」
「オレがむざむざお前を奴らに引き渡すような事をやると思っているのか。それにどうやって立証する?ブルガ商会が大々的に人身売買をしているとでも思うのか?言っただろう。ブルガ商会は悪徳な貴族を使い司法当局の目を逃れている。証拠がなければ奴らを追い詰める事が出来ないのだ」
「⋯⋯⋯⋯⋯!」
「お前は他人の心配をする前に自身が無力な子供だという事を理解しろ。サーベルに言われた筈だ。今は力をつける時だと。お前にはこれから覚えるべき事が沢山ある。分かったか!」




