第49話 ギルド長3
「サーベル様ですか。どうぞお通り下さい」
馬車は騎士風な門番達が多く警備する城の門前迄来た。
確認に結構時間が掛かるかと思われたが、御者席のグェンが降りる間も無く素通りだった。
まさかの顔パスにサーベルの顔をもう一度二度見してしまった。
「お前、俺をどんな人間だと思っているんだ?」
「貧民街の孤児を不法雇用して日銭を稼いでいる情けない元締め」
「お前なぁ」
間違いではないと思う。
ただサーベルの顔の広さや考え方が分から無かっただけだ。
どうせ読心術で読まれているなら声に出しても同じだと思う。
しかしどうしても解せないのは、貧民街で孤児を集めて日銭を稼いでいる程度の人物が領主に謁見出来るというギャップだ。
いくら金を積んだとしても一領主がその様な人物に会う理由が分からない。
まさかその理由が読心術にあるとも思えないのだ。
「執事のアルトリンケです。こちらで暫くお待ち下さい」
重厚な大理石の壁面に囲まれた十二畳はある暖炉と絵画がある部屋に案内される。
絵画は人物画で濃茶髪の女性がモナリザみたいな笑みを浮かべていた。
執事は丁寧なお辞儀をして部屋を後にした。
そのお辞儀に軽い会釈をしていた私。
だけどサーベルには変な顔をされてしまった。
召使いなどのお辞儀に客や目上の者がお辞儀で返す事はあり得ないらしい。
「お前、やっぱり変な奴だな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
私からすれば丁寧なお辞儀に対して何も返さない事の方が難しいが、サーベルに変な奴認定を受けてしまった。
日本人として培ってきた習慣はコチラの世界で異端だったようだ。
「開拓村に暮らしていた割に変な社交術を知っている。それはあのリングルベル使用人夫婦から習ったものか?」
「知りません。勝手に身に付いてました」
「記憶が曖昧か。アヘナの副作用は厄介だな」
アヘナによる記憶障害を伝えたのは案外正解だったかも。
間違いで地球の知識を持ち込んでも、それで何でも説明が出来てしまう。
ただ疑り深いサーベルの事だ。
失言等には気をつけないといけない。
「リングルベル使用人夫婦は侯爵家で厨房の住み込みだったんだが、元は名のしれた中堅冒険者だった。二人ともな。それなりに腕にも自信があったんだ。知らなかっただろう?」
「突然何、を?!」
今、サーベルは唐突に何を言った?
アリアを匿い育てた使用人夫婦が冒険者だった?
それも腕に自信がある中堅クラスの冒険者!
ならばC級かB級のレベルでB級のハンギ兄弟とは拮抗していたという事になる。
もしかしたらお互いに相手の情報を得ていたのかも知れない?
「ああ、そうだ。だからこその殴り込み。二人にはそれなりに勝算があった。ブルガ商会がハンギ兄弟以上の冒険者を雇っていなければな」
「兄弟以上?」
「ああ、あの後色々調べたんだが、お前を保護していた二人はカーチスとライリーという、元冒険者夫婦だった可能性がある」
「カーチスとライリー⋯⋯⋯⋯⋯!」
カーチスとライリー?!
初めて聞いたアリアの育て親の名前。
殴り込みをかけたのは無謀でも何でもなく、自分達の腕を信じての事だった。
何という事だろう。
私は全く知らない二人に対して熱い思いが伝わってくる。
カーチスとライリー。
二人にとってアリアは赤の他人の子供などではなく、間違いなく心から愛し愛された存在だったに違い無い。
「その事を調べてくれたのはこれから会う領主だ。だから⋯⋯⋯⋯お前、泣いているのか?」
「?!」
ポロポロポロポロッ
何でだろう。
目から涙が溢れてくる。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯ああ、そうか。
アリアの身体が反応しているんだ。
愛してくれたのは間違いなく二人だったから。
「お前⋯⋯⋯」コンコンッ「!」
「サーベル様、御領主様がお出でになりました。ドアを開かせて頂きます」
その時だった。
ノック音がして先ほどの執事の声が部屋に響く。無駄にデカいドアが開かれ、黒燕尾服の執事と共に一人の貴人が入ってくる。
古風なイギリス軍服を連想する赤軍服上着に白タイツの金刺繍がある服装で、整った顔に整った顎髭で髪は金髪だが短髪。
肌は浅黒く日焼けがやたらに健康そうだ。
年齢は50代くらいのイケオジに見えるが、あくまで私の主観になる。
そしてサーベルの外観もそうだが日本人基準の私の感性で此方は誰でもイケメン、イケオジに見えてしまう様なので、自身の美意識は当てにできない。
この人物がこのブロンキス町を含む、周辺地域を支配している領主なのだろうか。
しかし、はて?
髪はロン毛と短髪で違う様だが、サーベルと領主の顔がダブって見える。
うん、顔の輪郭や目元に体型まで。
ダブってるというか、そっくりなのだ。
これはどういう事なのだろ???




