第50話 ギルド長4
「どうした、何があった?」
そして第一声がこれだ。
もちろんこれは私を見ての言葉なのだが、何故か疑惑の目がサーベルに向けられている。
それはそうだろう。
部屋に入ってみたら泣きじゃくる幼女に慌てる中年イケオジ。
どう見ても普通じゃない。
「おい」
「俺のせいじゃねぇ。コイツの養父母の情報を伝えたらこうなったんだ!」
「⋯⋯そういう事か。お前は昔からデリカシーが無いからな」
「ほっとけ!」
私は何を見せられているんだろう。
おかしい。
目の前に同じ顔が二つある。
未だ涙が尽きずに視界がおかしくなんったんだろうか?
だけどこの不思議な状況は間違いなく現実で、その答えは彼らの口髭と顎髭、服装の違いで自ずと理解出来るのだと思う。
そう、サーベルが二人になっているのだ。
健康的な浅黒肌に金髪ロン毛で髭の位置が違うだけの二人の男。
厳密には兄弟以上に顔がそっくりな二人が私の目の前で口論していた。
紛らわしくこの上ないが、この不思議現象は次の事で説明できた。
「⋯⋯⋯双子⋯⋯」
「ほう」
「な、面白い奴だろう?コイツは歳に似合わず様々な知識を持ってやがる。明らかに異質なんだ。だから面白い」
「養父母の影響か?だが有り得んな。アレらは地方出身の冒険者。その言葉を、ましてその意味を知っている訳がないからな」
うーん。
口髭サーベルと顎髭サーベルが並んで顎に手を当て私の事を見下ろしている。
涙が枯れたので目を擦ったが、未だダブッて見えている様で目が疲れる。
並んで立つのは止めて欲しい。
「お前、その言葉の意味を理解しているのか?」
「双子の意味、ですか?」
「そうだ」
赤軍服顎髭サーベルが質問してきた。
双子の意味を聞きたいとの事。
双子に特別の意味があるのだろうか?
あれ?何と答えるのが正解なの?!
この世界の常識が分からない。
「あー?一卵性双生児、とか⋯⋯」
「何だソレは??」
「えー、一個の受精卵が二つになって」
「ジュセイラン???」
ああ、失敗した。
顎髭サーベルの目が私に懐疑的になっていく。
一卵性双生児とか受精卵とか、明らかに地球でしか通用しない単語だったじゃない。
私は馬鹿みたいだわ。
「な、本当に面白いだろう?コイツは常識を知らない癖に分けのわからん情報を持っているんだ」
「コイツは何なのだ、サーベル」
「髪色の通りだ兄貴。リングルベル唯一の生き残り。アリア・リングルベルだ」
兄貴⋯⋯今ので確信した!
この口髭サーベルと顎髭サーベル。
二人は双子の兄弟なのだ。
つまり顎髭サーベルが兄で領主であり、口髭サーベルが弟で下町の元締め⋯⋯。
だけどおかしくないか?
顎髭サーベルが領主だとすると、口髭サーベルとの身分が余りに違い過ぎだ。
これは一体どういう事なのだろう??
「サーベル、兄貴じゃなく兄上と呼べと言ったろう?それともう少し上品に振る舞え」
「今更直せる分けも無いだろうが。諦めろ兄貴」
「はあ、お前なぁ」
「そんな事より本題に入ろう。コイツも落ち着いたようだしな。アリア、済まなかったな。養父母の情報を突然出したのはあのリングルベル使用人夫婦がどこまでお前に真実を明かしていたか、その事を知りたかったんだ。だが今のお前の反応で分かった。二人は冒険者の素性も本当の名前も明かして無かった。まあ賢いお前の事だ。その前にアヘナによる記憶障害も疑ってはいたんだが、少なくとも二人の名前は知らなかった。そういう事だろう」
やはりサーベルは、私が『麻薬の副作用による記憶障害で過去の記憶が飛んだ』と言った発言を疑問視していたのだ。
思った以上に彼は侮れない。
恐らく私のしっかりした受け答えに《記憶の曖昧さ》という事について疑問符があったのだろう。
そして私の反応が養父母の本当の名前すら知らなかったという事の証明になり、養父母達がリングルベルにまつわる全ての情報を封印していた事実を導き出した。
今、そう判断を下したのだ。
なんて疑り深い人間なんだろう。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ふっ、そう警戒しなさんな。もう疑ったりはしてはいない。今のお前の涙にその疑いは全て晴れたという事だ」
サーベルから私が少し身を引くと、その必要は無いと言わんばかりにニヤケ顔で私にウインクしやがった。
そんな簡単な話じゃないんだ。
私のアンタへの信頼を返せ!
「サーベル、お前は相変わらずとんでもないな。一旦懐に入れておいてなおも疑り続けるとか、友人が居ないのに納得だ」
「兄貴、それは酷いぜ。俺は疑り深いんじゃあない。何に対しても用心深いだけだ。どんな些細な事でも疑問を忘れない。これが今の時代を生き抜く商人には必須の条件なんだよ。それから!友人は居るからな」
私は何を見せられている?
兄弟漫才か何かの双子イベントか。
とにかく同じ顔、同じ声質、同じイントネーションな受け答えを、私の頭越しで喋るのは止めて欲しい。
ハウリングとかエコーみたいでウザ過ぎだ。
耳と頭が痛くなる。
私がそう思い耳を塞いでいると、領主である顎髭サーベルが私に目線を向けた。
ようやく本題に入るようだ。




