第48話 ギルド長2(町の中心へ)
◆帝国歴635年
ガラガラガラッ
私が今乗っているのは貧民街に似つかわしくない、随分と小綺麗な馬車だ。
馬車は貧民街の通りを抜けて町中央、人通りの多い大通りに入っていく。
タロと二人、最初に町で見かけた市場に繋がる通りだと思う。
通りを進むと先に壁が現れ、更に4、5メートルはある高い門に突き当たる。
ここは町を囲った城壁並みではないが、明らかに貧民街を遮るもう一つの城壁門のようだ。
門には兵士が立っており、馬車は止まって御者が兵士と話始めた。
よく見たら御者役はグェンだった。
小綺麗な燕尾服みたいなものを着ていたので別人に思えたようだ。
私が馬車の窓から眺めていたら彼に睨まれた。
やはりグェンとは馬が合わないようだ。
また、目の前のサーベルも背広のような正装をしている。
革靴にシルクハットと白手袋、更ににスティックまで持っていて、まるで何処かのお貴族様の装いで風格まで漂っている。
馬子にも衣装といったところだろうか。
あと、ロン毛はツヤツヤ感が増していて口髭が剃られて清潔感が増していた。
いつもその姿でいればいいのにと思う。
「失礼な事を考えているな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「まあいい。今日はお前も借りてきた猫を装え。無駄に喋って馬脚を現したくないだろう」
「心外です」
「しかし何だな。馬子にも衣装とはよく言ったもんだ。その姿で大人しく座っていれば商家のお嬢様くらいには見えるぞ」
「⋯⋯⋯⋯⋯??」
私がサーベルに対して思っていた事を本人から返された。
まさかコチラにそのことわざがあるとは、フォルトーナが流行らせたのか。
いや、たまたまそういった解釈でアリアの記憶から理解されたのだろう。
そして私も今、貫頭衣ではなく小綺麗なワンピースだったりする。
事前に風呂にまで入れられ、染めた髪も水色に戻された。
今回謁見する人物にはその方が信用度が上がるという配慮らしい。
つまりサーベルの伝手がある人物は、この町ではかなりの有力者だという事になる。
「これから誰に会われるのですか」
「町の中心に住む方だ」
「町の中心⋯⋯⋯」
ベスに聞いた事がある。
町の中心にはお城があってそこには領主様とその家族、そして仕える召使いや騎士達の宿舎があると。
まあサーベルぐらいが会える人物なら、その召使いか騎士の関係者か。
領主様の身近に仕える側近とかの可能性もある。
だとしたらサーベルの狙いは、私をだしにして領主に自身の影響力を覚えて頂く算段だろう。
まさか私を売るつもりか。
「何を身構えているのか分かるが、いい加減に俺への警戒は解け。ここの領主はそんな人物じゃない」
「領主?!」
「お前まさか俺が領主の側近レベルに頭を下げにいくのだと思っていたのか?」
「⋯⋯すみません」
「ふん。お前はもっと人を見る目を養う必要があるな」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
6歳児のアリアにそれを求めるのは酷な話だが、中の天音なら反省が必要か??
頭がこんがらがって整理できない。
しかし意外だ。
サーベルが領主に直接の伝手があったとは思わなかった。
これで着いて領主じゃなく、領主の遠縁とかに面識があるとかだったら笑えるところだ。
ギロッ
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
また私の考えが分かったのか、サーベルに睨まれた。
しかし思うのだが、私ってそんなに顔や機微に考えている事が出るのだろうか?
サーベルの読心術はハッキリ言ってエスパー並みだ。
精神感応とかサイエンス・フィクションの領域だが、魔法がある世界だから人の心を覗ける魔法があっても何ら不思議ではないとも思う。
と?
ふと気になったのだが、サーベルの人差し指にビー玉大の円筒形な指輪がある。
金色の純金製?
丸い部分にライオンみたいな獣が彫られていて、ちょっと装飾品だけに使うにしては重厚な気がする。
そういえば正装に気を取られて気付けなかったが、下町のボスが付ける指輪にしては随分と品がいい。
もしかしたら封蝋印とかの実用性のあるものなのかも知れない。
私がそんな事を思っていると、馬車はいつの間にか走り出して二つ目の門をくぐり抜けて開けた感じのある別の町中に入っていく。
貧民街では家と家の間隔は無く、無秩序に建てられた家屋で占められていたが、ここは綺麗に街並みが整い考えられた配置で家屋が並ぶ。
恐らくは一般市民の街並みといったところか。
更に進むと低いが再び城壁と門が現れ、その向こうは更に広い石畳の道路と道に広がるブティックさながらの華やかな店舗街が軒を連ねる。
久しく見た事のない日本の地方都市並みに整然とした店舗街。
何だかちょっと懐かしい。
ガラガラガラガラガラガラッ
また門番の許可を取り進む馬車は、レンガを敷き詰めた道を更に町の中心に向かい進んでいく。
そして再び現れた壁と城門。
その向こうにはシンデレラ城を無骨にしたような高いお城がそびえ立つ。
どちらかといえば、カレンダーとかに掲載されるお城シリーズ。
その中でもドイツの城が近いかも知れない。
私がそんな事を考えてる間も、馬車は城に向かって走り続けるのだった。




