第47話 ギルド長
「ああ、ベスは起こさなくていい。よっぽど疲れる事があったんだろう」
「⋯⋯何気に失礼な気がする」
「気にするな。気にした方が負けだ」
「それはそっくり返したい」
相変わらずトボケたイケオジだ。
正直これが辺境伯でブロンキス町の領主でギルド長なんだそうだ。
あり得ないだろう。
しかも誰かと兄弟だったりする。
話方までそっくりで何だか腹が立つ。
「まあ聞け。新しい依頼だ」
「ベスは薬草採取以外は受けないよ」
「結果は違ってないか」
「向こうから襲ってくるから成り行きの結果」
「成り行きでB級やA級、そしてS級まで狩ってるな」
「大抵はタロがやってる」
「従魔の成果は主に帰属するが?」
「信じて貰わなくても構わないけど、タロは従魔じゃなく友達」
「⋯⋯分かった。じゃあ、その友達への依頼だ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
タロへの依頼と言われて黙るしかない。
結局タロに話が出来るのは私だけだ。
そして彼がここ迄言っているという事は、この依頼に拒否権がないという事。
「性懲りも無くだが、帝都のお偉いさん達はまた無実の人々を魔獣の餌にする為に放り出した」
「また?!」
「ああ、しかも今度は人数が多くて、その数は300人規模だ」
「300人?冗談でしょ!?」
「冗談でオレが依頼を頼んだ事はあるか?」
「⋯⋯⋯それはもう開拓団クラスだよ。いつまで300人を守ればいいの?私やタロにも限界があるよ」
「オレのほうからも村の建設資材や人足は出す。規定以上にな。ようは300人を守れる防護柵が出来るまでだ。お前には近隣の開拓村からの人足手配と、300人を他の冒険者と防護柵が出来るまで守って欲しいだけだ」
「私は他の冒険者に魔法使いだと明かしてない」
「隠蔽があるだろう」
「⋯⋯それで防護柵はどのくらいで出来るの?」
「10日から15日くらいか。そのくらいなら何とかなる。監察官の目を盗んで手配出来るギリギリの日数だ。それ以上は町も手をかせない」
「10日から15日で出来る防護柵はどの程度のものなの?」
「C級以下なら守れるくらいには強固なものを考えている。だが時間との勝負だ。国の監察官が現状確認にくる。国は相変わらず町が表立って開拓民に手を貸すのを禁じている。理由は犯罪者に対する懲罰的な意味合いが薄れるからだとかほざいてるが、屑の論理だな」
「私の目の前のお偉いさんは貴族だよね?その辺をどうにか出来ないの?」
「知ってて言ってるのか?どうにかしようとして辺境に飛ばされた。辺境伯なんてのは左遷された成れの果て。オレは何の力も無いイケオジだ」
「自分でイケオジって言うのもトンデモだけど後は毎回同じ言い訳だね。それを墓碑銘にするといいよ」
「うるせぇ。それでどうなんだ。水のお姫様は三百人を守るのか見捨てるのか、どっちだ?」
「はあ、断われないと知っていて聞いてるよね」
「すまんな。ギルドとしても出来るだけの増員を出す。お前らだけに負担を強いるつもりは無い」
「⋯⋯⋯最善をつくすわ」
あれから5年が経ったが、中央の連中は何も変わらない。
以前として旧態依然の体制を維持している。
未だこの開拓村の制度が破綻している事に気付けないでいるのだ。
余程この事業で私腹を肥やしている寄生虫が増えているのかも知れない。
「思えばこの領土拡張事業として開拓村制度が中央で審議された時、人道的観点からはっきりとノーを突きつけていたのはリングルベル侯爵家だけだった。やはりリングルベル侯爵家を陥れた連中はこの領土拡張事業の裏方に居るのだろう」
「リングルベル⋯⋯⋯」
「恐らくは監察官、つまりアロウス教会の陰謀だ。女神教に代わり最近は国家政策にまで口を出すようになった。このままいけばアロウス教が国教に格上げされるのも時間の問題かも知れない」
「アロウス」
「そうだ。お前には因縁深いか」
アロウスと聞いて身体が一瞬震えた。
そう、アロウス教団と私は5年前の因縁に遡る。
それはこのイケオジとの腐れ縁に繋がる最初に起きた事件。
敵の正体と新たな味方、その両方に出会った初めての事だったのである。
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再びの5年前
帝国歴645年
ブロンキス町サーベル御殿
「冒険者?私に冒険者を目指せと」
「お前は自身が未だ幼いガキだという認識が足りてない。ガキは社会的に未熟で制約が多い。それだけ大人とはハンデがある。ましてお前はブルガ商会から狙われている。復讐どころか再び捕まって奴らの金儲けの道具として使い潰されるだろう。そうならない為にも、今は自分自身に力を付ける時期だと言っているんだ」
サーベルの話は確かに正論だ。
今の私では多勢に無勢。
しかも当のブルガ自身は遠く離れた帝都にいる。
例えブロンキスの商会支店を潰せたとしても、直ぐに帝都から新たな商会の人間が現れるだろう。
それでは何の意味も無い。
「この町の産業は狩猟産業。魔森の貴重な動植物の素材が町の経済を回している。つまり最も稼ぎがいいのは魔獣討伐を専門にしている冒険者達というわけだ。冒険者ギルドでは個別の魔獣に対する傾向と対策、その様々な資料が揃う資料室がある。さらに有料だが体術などが学べる講義が受けられるんだ。お前にはうってつけだ」
「つまり冒険者になって恩を返せと」
「分かってるじゃないか。もちろんそれもあるが、お前にとってもメリットしかない。他に選択肢は無いだろう」
「はあ、分かりました。ボスの言う通りにします。ですが私の年齢で冒険者にはなれないと聞いてます。違いましたか」
そう、冒険者になれる年齢が決まっているのだ。
本来ならこの世界の成人年齢15歳。
だが薬草採取などの低クエストは10歳前後から受けられる。
だけど私の場合、年齢詐称するには小さ過ぎる。
恐らく受け付けては貰えないだろう。
「そんなものは意外と何とでもなるものだ。まあ、後でお前に紹介しよう」
「紹介?」
「ああ、今日はこれからとある重要人物に会う。お前に紹介するのはその人だ」




