第42話 冒険者への道
ギャーギャーギャーギャーッ
「ワイバーンが飛んでる」
「アリア、その物欲しそうな目でA級モンスターを見るのはアナタくらいよ?少しは自制しなさいな!」
ドスッドスッドスッドスッドスッ
映えるような青空に流れ行く白い雲。
草原を澄み渡る風はやや冷たくて、秋の到来を予感させるものだ。
私達は今、タロに乗り森と荒地の間を移動している。
夜間の一仕事を終えてブロンキスに戻るところなのだ。
「だって美味しいんだもの」
「はあ、相変わらずアナタはとんでもないわね」
『バウッ』
「ほら、タロも欲しがっている」
「アンタ達、同レベルでとんでもないわ」
ベスは私を何だと思っているんだろう。
ときより彼女から出る愚痴に、私が人外のような扱いになってるように感じてちょっと反発したくなる。
これでもアリアはそれなりに器量が良く育っているはずだからね。
まあ、日増に大きくなるベスの胸と自身の胸を見比べて、かなり納得がいかないけど、こればかりは成長途中だからいずれ追いつくと信じたい。
もちろん地球での天音ボディなら⋯⋯いや、それでも敵わない気がしてならない。
ベスこそ人外じゃないのかとさえ思ってしまうのは致し方ないだろう。
「ちょっと?何で私の胸まで物欲しそうに見てるのよ」
「⋯⋯⋯ズルいから?」
「何が!?」
サーベルと話した日から5年。
私は冒険者となっていた。
あの時のサーベルの提案は《冒険者となり力をつける事》。
ブロンキスにおいては一番の稼ぎに繋がる訳だし、魔獣からの素材は全て高値で取り引きされる。
帝国も魔獣を狩る事を奨励していて、A級の魔獣はギルドに対して懸賞金を出すほどだ。
そしてここからが重要だが、アリアの復讐相手の名が知れた。
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時は遡ること5年前。
アグニス帝国歴635年
サーベルの屋敷
「記憶障害だと?」
「はい。私に誘拐された当時の記憶はありません。気づいたら森近くの小屋に居たんです」
「麻薬による副作用か?そして森近くの小屋は開拓村の外れの小屋だな。薪を取る為に一部の開拓村が作っていた小屋だ。お前を奪還したリングルベル使用人夫婦はそこにお前を匿ったのか」
「だと思います」
「だとしたら妙だな。何故使用人夫婦は命がけで奪還したお前を残し、わざわざ黒幕のところに殴り込みをかけたんだ?大事なお前を一人にするなぞ、本末転倒だろうが」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
言えない。
使用人夫婦が殴り込みをかけたのは、大切にしていたアリアが麻薬漬けにされた挙句に亡くなったからだ。
だけどサーベルにその事を伝えるには、今目の前にいるアリアの事情を話さなければならない。
だけどどう話せばいい?
アリアの身体に天音という別人が宿っていて、本当の彼女は既に亡くなっているなど、どうやって説明できよう。
本当の事を言っても混乱するだけで、私が気が触れたとでも思われて終わりだ。
ならばどうするか。
「⋯⋯記憶障害になるほどの副作用、一つ聞いた事がある。麻薬アヘナを致死量まで服用した者が一度死んで蘇ったって話だ」
「死んで蘇った!?」
「だが実際は死んだわけじゃなく、一時的な仮死状態になっていたというオチだ。この話は離れた二つの町で聞いた事があるから、アヘナに仮死状態にする副作用でもあるのかもな」
「仮死状態⋯⋯⋯」
アリアの身体はフォルトーナが朽ちてしまう運命を変えて、仮死状態になるように保管したと言っていた。
つまり元々アヘナ麻薬には副作用として、使用者を仮死状態にする可能性が何%かの割合であったと云う事なのだろう。
そうでなければ、フォルトーナが運命を変えても無理だったのかも知れない。
「それでお前が死んだと判断した夫婦は、自暴自棄になり殴り込みをかけてしまったのか。辻褄は合うが何というか、犬死のようなものだな」
「⋯⋯それ以上は、言わないで!」
「何だ、怒ったのか?だが事実だろう。二人は生きていたお前が死んだと勘違いして、ハンギ兄弟と黒幕がいるところに舞い戻った。そして返り討ちとなって死んだんだ。犬死以外に何がある?」
「言うな!!」
突然だった!
サーベルの言いように私の中で何かが切れた。
次の瞬間、得も言われぬ怒りに包まれた私は、サーベルの首元を締め上げていたのだ。
そう、大の大人を6歳児が高々と掲げて。
「ぐっ、そ、そうか、これが魔力持ちの力?!」
自分を制御出来ない。
不味い。
このままでは私はサーベルを殺してしまう。
ガチャリッ
「ボス、アリアとの話は終わりましたか?あの魔獣の事は今後どうすれ⋯⋯?アリア???お前、何をしてって、何なんだよその力は?!ボスが死んじまう!離すんだアリア!!」
私の異常に、たまたま部屋に入ってきたランベルが気づいた。
慌てて私の腕を掴むランベルだが、十字にサーベルの首元にハマった私の手は彼の力ではビクともしない。
「おいアリア、正気に戻れ!このままだと本当にボスを殺してしまうぞ?!」
「ぐっあああっ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「ボスに何を云われて怒ったのか知らない。だけどお前はそれでいいのか?お前がこのまま人殺しになって、死んだ両親に顔向け出来るのか?」
「死んだ、両親?」
「そうだ。お前が人殺しになったら、お前の両親は悲しむんじゃないのか?」
死んだ両親?
私の両親は離婚したが母親は健在だ。
父は再婚した義母の病死をきっかけに失踪したが、死んだという話は聞いてない。
いや、私の両親は冤罪で殺されたはずで、連れて逃げた使用人夫婦が私の育ての親で⋯⋯???
私は何を思っている??
私は天音、って誰?
私はアリアよ、天音じゃない!
私は、私は、私は!
❇❇❇
ランベル視点
「あ、あ、ああああーッ!?!???」
「あ、アリア?」
ぱっ
「ぐはぁっ!」ドタッ
「あ、ボス!大丈夫ですか!?」
バタンッ
「あ?アリアが倒れた?!!え、大丈夫か!?」
あのタロとかいう魔獣、あのまま部屋に置いとけないからボスとアリアの話が終わる頃合いを見計らってボスの部屋を訪れたら、アリアがボスを持ち上げていたんだ?!
自身の身体の3倍はあるボスを軽々持ち上げているアリアに、何が起きているか分からなくて混乱した俺。
だけどボスが真っ青になっていて死にそうだと判断した俺は、慌ててアリアの腕を下ろそうと引いたんだがビクともしない。
こいつ、こんなに力が強かったか?!
だけど何とかボスをアリアから引き離さなきゃならない。
だからアリアの気を引こうと、彼女の両親の事とか引き合いに出して色々と叫んだんだ。
そしたらボスを解放したはいいが、何かを叫んでアリアのヤツ倒れ込んでしまった。
本当に何が何だかサッパリだ!??
「ぐっ、なんて力だ。これが魔力持ちの力か」
「魔力持ち?」
「時々常人ではあり得ない力を持つ者がいる。それは魔法使いだったり英雄だったりする」
「魔法使いに英雄、ですか?逸話に聞いた事がありましたが、現実に存在したんですか!?」
「国家の極秘事項だ。少なくとも大陸の国々の中枢には一人や二人、強力な力を持った者が存在する。そうでなくともA級以上の冒険者は少なからずその素質があるはずだ。このアリアのように」
「アリアが魔力持ちだと?」
「コレの素質は魔法使いだな」
「魔法使い⋯⋯⋯」
ボスは本当に何でもご存じだ。
だけど魔法使いや英雄が存在するなんて初耳だ。
だったら俺にも素質はあるのだろうか?
「ふぅー。取り敢えずアリアはそこのソファに寝かせとけ。目覚めたらもう一度話をする」
「分かりました」
「ああ、それから」
「はい?」
「残念だがランベル、お前には全く魔力は無いから変な望みは持つなよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
ボスは何で俺が考えていた事が分かったんだ?
あと望みは持つなって言われて何だか胸が辛い気持ちになったんだけど。
あれ?




