第36話 おいぬ様
ランベル視点
「うーん、は?!」
「ランベル、気がついた?」
「ベス?あ、俺は何を???」
「私と同じで気を失っていたのよ」
「気を失っていた?」
気を失なっていた。
何でだ?
アリア⋯⋯そうだ、アリアだ!
アリアがベスの部屋で騒いでいたから慌てて向かったんだ。
そして部屋に飛び込んだらベスが倒れていて、アリアがベスが病気だって言って、その後に何かが俺の顔を⋯⋯⋯⋯?!
「そうだ!た、大変なんだ。目の前にビックウルフ?いやグレートウルフかな?魔獣が部屋に居て俺の顔を???何ともない?」
「はあ、アリアには毎度毎度驚かせられるわ。アナタが見たのはアレよ」
「アレ?⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯!!」
ベスが指指した先にあったのは大きく白い毛の塊???
それに弟分や妹分が寄付いて触ったり抱きついたりして遊んでいる。
いや、何だアレ!?
「あったか〜い」
「楽しい!」
「モコモコー」
「わ〜い」
「あはははは」
ぐぐっ、のそりっ
「う、動いた!?」
毛の塊だと思ったソレは、抱きついた弟分や妹分をそのままにして、ゆっくりと動き出した。
するとやがて、その全貌が明らかになる。
くるっ
『バウッ!』
「な?魔獣だ!!グレータービックウルフか?!いや、それにしては白い???あ、今はそんな事より弟分と妹分が危ないじゃないか!!」
「アリアの友達なんだそうよ」
「そうだ、俺達も避難を!ってベス?今何て?」
「アリアのアイケンで友達なんだって」
「アイケンって何だ?いやそれより、この状況は何なんだよ!何でアイツは弟分や妹分達に囲まれても何もしてこないんだ?普通なら俺達は既に奴に襲われてるだろ!?」
「あの子、グレータービックウルフじゃ無いみたいよ。何か神獣とかって言ってたわ」
「シンジュウ??」
「オオクチマガミって名前なんだって。呼びにくいときは《おいぬ様》でいいそうよ」
「魔獣でない《おいぬ様》???」
何なんだよ、これは?
悪い夢なら覚めてくれ!
「は?そうだ。それで肝心のアリアは何処なんだ?」
「アリアならほら、あの《おいぬ様》の背中に乗ってるわよ」
「ああ⋯⋯もうどうにでもしてくれ⋯⋯」
「私の今迄の気持ち、やっと判ってくれたわね」
お手上げだ。
アリアが次に何を仕出かすか想像も出来ない。
なんて常識外れな奴なんだ!
バタンッ
「おい、ガキ共!朝から何を騒いでいやがるんだ。さっさと仕事に行かな⋯⋯⋯⋯う、な!?」
「あ、グェンさん」
「な、な、な、な、なーーーーーーーっ?!!」
「だ、大丈夫ですか?」
「お、お前は、ランベル!?」
「はい。ランベルですが???」
「あ、あ、あ、れは、何だ!」
「《おいぬ様》だそうです」
「おいぬ⋯⋯⋯何だ、そりゃあ!」ダダッ
バタンッ
「あ!?グェンさんが、逃げた??」
「そりゃそうだよ。誰でも初めて《おいぬ様》を見たら、気絶か逃げたくなるもん」
「はあ、後でボスに何て説明しよう⋯⋯」
「仕方ないよ。それはランベルの仕事だもの」
「ベス、一緒に行ってくれないか?」
「情けない事を言わないの!ほら、お呼びだよ」
「え?」
ガタッ
ベスに言われて見ると、普段ボスの腰巾着なグェンが足をガクガクさせ泣きそうな顔で俺にアイサインをしている。
いや、俺はアンタとそんな親しい間柄だったか?
勘弁してくれ⋯⋯。
「グェンさん、今から今日の働くメンバーを出しますんで。洗濯屋はいつも通りでベスとアリアが」
「そんな事はどうでもいい。ボスがお呼び、だ。さっさと、行け」
「分かりました。グェンさんは?」
「お、お、おれは急用ができた、から、な。後は、任せ、る」ダダッ
「任せる?」
グェンは俺に任せるとだけ言い、直ぐに翻して逃げるように部屋を後にした。
よっぽど《おいぬ様》が怖いらしい。
普段はボスの代理を気取って俺達に高圧的なグェン。
今の奴は随分と小さく見えた。
「情けない。いつもは偉そうにしてるのに」
ベスがグェンの普段とのギャップに呆れて言い、俺もそれには同意した。
奴は案外小心者かも知れない。
「はあ、とにかくこの場を任されたんだ。ボスのところに行ってくるよ」
「頑張って。グェンの立場を取っちゃいなよ」
強気に言うベスに俺は内心引き気味だ。
彼女と一緒になったら間違いなく尻に敷かれるだろうと確信して溜息が深くなった。
もしかしたら女の子って、魔獣より怖い存在なのかも知れない。




