第34話 未だ始まりに遠く
「フォルトーナ、ジークの現れる20年前とか、何かの間違いだよね?私は何年アリアとして生きればいいのよ⋯⋯⋯⋯」
今年は帝国歴635年。
そしてホルトゥーナが示したのは655年だ。
そう、つまり私が救うべき英雄の登場は、今から20年後の世界でしか出会えないという事実。
「はぁ⋯⋯⋯」
窓から見える三つの月は新月のように青くて、天空の星空は何処までも澄み渡って見えた。
これ程の天体パノラマは日本で見る事は叶わないだろう。
それくらい美しくて現実感のない夜空だ。
「あと20年、この世界で過ごさないと英雄に会えない。私はそんな長い年月を生きた後で弟達を、そして地球の事を忘れずに正気を保っていられるの?」
最近はすっかりヒューズ2の世界に慣れてきている気がする。
どっぷりハマった感は否めない。
アリアの身体に留まって20年を生きる。
それはを純粋に全く別の人生を生きるのと同義だ。
果たして私は、もう一度あの日本に戻り義弟達に出会う事が出来るのだろうか。
この問いに答えられるのはフォルトーナしかいないが、今だに彼女からの接触は途切れたまま。
「と、にかく今は、アリアとしてどう生き抜いていくか、だわね⋯⋯⋯」
20年先なんて考えられない。
その前にフォルトーナが私を拾ってくれる事を切に願おう。
「一応神様だから、お祈りした方が通じるか?」
お祈り⋯⋯⋯⋯どんなお祈りをすればいい?
分からない。
「ええい、ままよ!なんみょうほーれんげーきょーなむあみだぶつにホーホケキョ。こんなんだっけ?いや、これは念仏だから違うか?」
『バウッ!』
「あ!?」
私がにわか念仏を唱えていたら、屋根上からタロの声がする。
ああ、ウッカリ忘れてたわ!
慌てて窓から身を乗り出し、窓枠伝いに家屋の壁面を登った。
屋根上では星空をバックにシッポを勢いよく振って出迎えてくれた愛犬が約一頭。
愛犬だよ?
「ごめん、タロ。色々あり過ぎでタロの存在を忘れかけてた。本当に悪かったわ」
『バウッ』
「構わないって?優しいのね。あーちょっと抱きつかせてくれる?」
『バウッバウッ』
「いいの?じゃ、遠慮なく!」
ぽふっ
「フワフワで暖かい。天然の湯たんぽだわ!」
『クゥ〜ンッ』ペロッ
「ふふふ、くすぐったいよぉ」
どちらにせよ、タロをずっと屋根上住まいにするわけにもいかないよね。
どうしようか。
『バウッ』
「ああ、そうだよね。あれこれ考えるより、当たって砕けろだわよね!」
『バ、バウッ?!』
そうして夜は更けていったのだった。
❇❇❇❇
サーベル視点
ザワザワザワザワッ
「おい、グェン、一体何の騒ぎだ?!」
「あ、ボス!俺にも何が何だか分からなくて。朝方からガキ共が騒いでたんで慌ててガキ共の部屋に行ったんです。そ、そしたらとんでもないもんがいて、訳が分からなくて」
「とんでもないもん?何だそりゃ?分からなくて何を騒いでんだ?」
「すいません。俺は怖くて近寄れないんです。ボス自身の目で見た方が間違いないかと⋯⋯」
「怖くて近寄れない?ガキ共しかいない部屋に何で怖くて近寄れないんだ。お前、頭大丈夫か?」
「すいません。俺は、もう無理なんです。勘弁して下さい!」ダダッ
「ああ?」
グェンの奴、職場放棄して外に出て行っちまいやがった。
どういう事だ?
グェンが尋常じゃないくらい怯えていやがる。
部屋からはガキ共の声が聞こえるし、いつもより元気がいいくらいじゃねーか?
それなのに、いつもの様にガキ共を仕事に送り出そうとグェンが宿舎に出向いたら、真っ青な顔で駆け込んできやがった。
しかも奴の説明は怯えるだけでサッパリ要領を得ねぇ。
はあ、一体何が起きていやがる?!
「ランベル、ランベルはいるか!」
「あ、はい?!ボス、呼びましたか?」
「おお、ランベル!お前、ガキ共が騒いでいる理由を説明出来るか?」
「皆が騒いでいる⋯⋯それってアリアの⋯⋯⋯」
「アリアだと?あの新入りのガキが何だ??」
「ちょ、ちょっと待って下さい。俺も混乱していて説明が難しいんですが⋯⋯」
「⋯⋯お前もか」
「はい?」
ランベルまで悩ましい顔で説明し難いだと?
だが、この状況があの新入りのガキによるものだという事が今の話で判った。
ならば魔法でも使ったか?
あのガキの髪色は間違いなく、何らかの魔法の才がある証拠だ。
上手く手元に置けばブルガ商会に対する大きな駒になると踏んでいたんだが、ついに魔法の才に目覚めたのかも知れない。
いずれにせよここは俺が出向くしかないようだ。
「分かった、俺が直々に見てやろう。ランベル!案内しろ」
「は、ははい!」




