第33話 時間
「ひえっ?!あれだけあった洗濯物、全部終わったっていうのかい?しかもアンタ達二人だけで?」
「は、はい」
「⋯⋯⋯」
「こりゃあまあ、どういう事だい?確かにみんなちゃんと洗濯されて綺麗になってるよ!しかもあれだけの洗濯物の山が消えて、全部見事に畳んである。丁寧に仕事がされてるさね!」
店のオーナー、頭巾姿のマーサおばさんが得意先から帰ってきた。
そして帰るそうそうに驚いた。
そりゃそうだ。
本来は三日かけて洗濯する量をその日のうちに子供二人が終わらせたのだ。
普通ならあり得ない展開だろう。
結局私のせいで予定の量を短時間で終わらせてしまった私達。
でも時間が余ったのでベスには休んでもらい、私が洗濯を続けたのだ。
ちょっと楽しくなっていたのもある。
そのせいで気づいたら洗濯するべき物が無くなっていた。
ベスは信じられないものを見たと呆気にとられていたが、まあやり過ぎだったと反省はしてる。
「な、なんにしても一日で三日分の洗濯を終わらせたんだ。お給金ははずまないとね」
「ホントですか?!」
「ありがとうごさいます」
「ああ、それとアンタら二人、うちの専属になって欲しくてね」
「ええっ?!」
「!」
「駄目かい?それだとこっちが困っちまう。アンタらみたいに仕事が出来るのは見た事ないのさ。だから専属にしたかったんだが」
「ね、願ってもない事です!こちらこそお願いします」
「宜しくお願いします」
「よし、交渉成立さね。専属になれば当然給金も正規に出すよ。そうさね、今迄の倍額出そう」
「まあ!」
「良かったね、ベスおねぇちゃん」
「ああ、あたしゃあ人を見る目は確かなんだ。これからも頼むよ。その代わりに仕事をバンバン取ってくるから今日みたいにキッチリ頼んだよ!」
「ま、任せて下さい。どんな仕事もキッチリ終わらせますから。ね、アリアちゃん!」
「うん、そうだね、ベスおねぇちゃん」
❇❇❇❇
ホーホーホー
夜中に目を覚まして辺りを見回す。
フクロウみたいな鳥の声。
目の前には幾つかの小さい足。
隣にはスヤスヤ眠るベスの顔があった。
ここはサーベル一家が管理する貧民街の一角にある家屋。その六畳ほどの部屋に十数人の子供達が雑魚寝している。
一応男子と女子で分かれていて、ランベル達とは別の棟になる。
孤児は全体で20人くらいか。
その内まともに働ける年齢の子供は約半数。
働ける子供も所詮は子供だ。
それほど稼ぎのいい仕事にありつけるわけでもない。
冒険者になれるのは15歳からで、魔獣討伐の仕事が出来る年齢に達している者はいない。
最も年齢に達したからとはいえ、訓練も無く魔獣に挑んでも怪我で済めば良い方。
私も体験したが、アレは常時命の危険を伴うレベルだと思うし、安易な判断は命を失くす事になるだけだと思う。
ただ魔獣討伐による利益は洗濯手伝いの数倍以上。
町からもお金が出るし討伐した魔獣は素材としての価値がある。
魔獣によっては価値が宝飾品に匹敵するとも聞いているし、この町の主な産業に魔獣討伐が占めているのであれば、冒険者を目指す方が間違いなく正しい判断ともいえるだろう。
「やはりこの地に留まるなら冒険者しかないか」
こんな事を私が思うのは、数時間前のやり取りで聞いた話からなんだけどね。
❇❇❇❇
◆数時間前
貧民街サーベル一家拠点家屋
「ほう?お前が新入りのガキか。今日は仕事をさせたようだったな。使えそうか?」
「おいベス、答えろ!」
「は、はい。この子は洗濯スピードがものすごく早くて、お陰でオーナーから専属との約束を交わせました。それで今後はお給金も倍額出してくれるそうで」
「ほお、凄いじゃないか。なら使えるんだな」
「は、はい」
仕事が終わるとベスに連れられて、サーベル一家が管理する貧民街奥の家屋に向かった。
入り口にはグェンが待っていて、直ぐにボスに会わせると告げられる。
そして今、グェンとベスと三人でボスの部屋に向かったという状況だ。
そして初めてサーベル一家のボスに相対する事になったのである。
ベスの話で、ボスは大変に厳しく嘘をつけない人物なのだとか。
嘘を見抜くのが得意で、まず聞かれた事には正直に答えるのがいいと念押しされた。
だから顔とかは無骨でさぞかし怖いのだろうと思っていたのだが、タバコに火を点けながらソファにふんぞり返るボスは、優男風の金髪ロン毛なアーティスト系。
肌はこの世界の一般的?な浅黒肌だが、比較的整った顔と口髭が印象的だ。
見かけからすると三十代後半から四十代前半か。
この世界の人々は基本的にアリアも含めて異世界もの小説に出てくるエルフみたいに耳がデカくてヨーロピアンだ。
だからモンゴリアンルーツの日本人を見慣れた私からすると、顔の彫りが深く見えるヨーロピアン男性は誰でもイケメンかイケオジに見えてしまう。
そして目の前のボスは極めつけだ。
彼はなんと、私が昔好きだった芸能人推しにそっくりなイケオジだったのだ。
だから聞いていた話のギャップに、半ば唖然としてボスに見入ってしまった。
「何だ?俺の顔になんか付いているのか」
「あ、いえ、すみません。ちょっとカッコよかったんで見入ってしまいました」
「なんだと?もう一度言ってみろ」
「ごめんなさい。想像よりカッコよかったんで、見入ってしまいました!!」
シーン
私の言葉に場が静まり返った。
うわっ、私ったら何言ってんだろ?!
思わず恥ずかしさの余りに顔が熱くなる。
ホントに穴があったら入りたい!
「ぶはっ!お前、面白いガキだな?気に入ったぞ。そうか俺はカッコいいか。くははははっ」
「はあ?何だ、このガキ。この歳でおべっか使うのかよ。とんでもねーな」
「アリアちゃん、おませ過ぎる⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごめん」
うん、ベスが何とも言えない複雑な顔してる。
私もこんなマセた6歳児が居たら引くわ。
サーベルは今だ堪え笑いで肩揺らしてるし、グェンからは軽蔑に似た雰囲気が伝わってくる。
アリアの名誉を傷つける行為だったよね、アリアほんとゴメン。
「いいだろう。今日からお前はサーベル一家だ。今後は誠心誠意、一家の為に尽くせ。ベス」
「は、はい」
「今後はお前がアリアの監督役だ。きっちりと面倒を見てやれ。以上だ、解散!」
「あの!」
「ふむ、何だ?」
「アリアちゃん??」
「一つ聞いてもいいですか?」
「さっそくの質問か。いいだろう、答えられる事なら答えてやる」
「有難う御座います。その、現在の正確な帝国歴を知ってますか?」
「帝国歴⋯⋯それを知りたいと?」
「はい。回りの方に聞いても月と日付しか分かりません。帝国歴をご存じの方は上流階級の方だけだと聞いていて、ボスならご存じかと思ったんです」
「ほう」
私の言葉にボスの目に懐疑的な光が宿る。
ちょっと言い方が不味かったかも知れない。
グェンもボスの機微に気づいて私を睨む。
どうするか。
「おいガキ!ボスを侮っているのか?今のはボスを試していたように聞こえたぞ!」
「そんなつもりはありません。私はただ知りたいだけなんです」
「アリアちゃん、何でそんな事が知りたいの?」
「それは⋯⋯⋯⋯」
アリアの話に言葉に詰まる。
女神の使命に関わる事を伝えても信じられる話じゃない。
それにヘタな情報は邪神に私を感知される恐れが出てくる。
それだけは避けなければならない。
「いいだろう。教えてやる」
「え?」
「ボス、ガキがつけ上がります。答える必要は無いんじゃないですか」
「グェン、俺に意見するのか?」
「い、いえ」
「だったら黙ってろ。コイツは俺の答えを知りたいだけだ」
「はい⋯⋯⋯」
ボスがグェンを黙らせた?
こんな怪しい話に答えてくれるの??
「今は帝国歴635年だ」
「635年⋯⋯⋯え?」
「どうした?聞きたかったんだろう?」
「あ、あり、が、とう、御座いま、した」
「?」
「アリアちゃん大丈夫?顔が真っ青だよ?!」
「⋯⋯⋯⋯⋯大、丈夫⋯⋯」
「ふん?ベス、アリアを部屋に案内してやれ。解散だ!」
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『先ずは最初の救助すべき英雄ですが、名前はジークソラン・アグニス。アグニス帝国第三王子にて、ブロンキスの英雄となる男です。彼は勇者で、唯一邪神を討伐できる聖剣エクストキャリバーの主となる最も重要な人物になります』
「成る程。それで私がどう助ければいいの、フォルトーナ?」
『彼は帝国内の陰謀によりブロンキス町近くの渓谷で最初の試練に遭遇します。本来なら乗り越えて英雄となる道を歩むわけですが、邪神の因果律改変により渓谷で命を落とす事になってしまいました。これを何としても阻止しなければなりません。そこで天音さんはその渓谷に先回りして、ジークソランを救い出して下さい』
「救い出す?だけど時間を会わせる必要があるでしょう。一応聞くけど、その時の現地時間を教えておいてくれる?」
『分かりました。試練が発生するのは帝国歴655年3の月の夜間です。それ以上は分かりません。ですが天音さんをその数日前に送る予定でおりますので、心に止め置いて下さい』
「655年3の月ね。分かった。その日は出来るだけ渓谷に居るようにするよ」




