第25話
「と言う訳でな兄弟。今はお前の協力が必要なんだ。だから逃げんじゃねぇ!」
「あ、兄貴!?」
「ガキに魔法の的を絞らせねーように兄弟が反対側からガキに向え。そして同時にガキを押さえるんだ」
「だ、だが魔法が」
「馬鹿野郎、ビビってんじゃねぇ!魔法は詠唱が必要なんだ。だから次を放つまで時間がかかる。その間に距離を詰めちまえば俺達の勝ちだ。いいな」
「わ、分かった。ヤッてやる。ヤッてやるぜ兄貴!」
「いいぜぇ、その意気だ。行くぜ兄弟!」
スキンヘッドが立ち直った?
悪人のクセに変な兄弟愛?で連携する男達。
ろくでもないけど、魔法が狙いを定めて撃つもの限定なら分散攻撃は確かに有効だ。
だけどそれは詠唱というアイドルタイムを期待しての戦略なのだと思う。
そしてその戦略は既に瓦解している事に気付くべきだ。
「ふへ、ふへへへ、ガ、ガキが舐めやがって、魔法がなんだ?!お、俺は怖くねぇぜ」
「兄弟、ガキは焦りで詠唱出来て無ぇ。今がチャンスだ。一気に距離を詰めろ!」
「おうよ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯水よ」
「「な?!」」
ガボンッ
「「?!!!」」ゴボッゴボゴボッ
女神から異世界ヒューズ2において、彼らは地球人類となんら変わらないと聞いていた。
つまり生命維持活動の一環として酸素を呼吸し二酸化炭素を排出しなければならない。
もちろんそれは分かっていた。
アリアの身体での体験は地球となんら変わらなかったのだから。
だから簡単なのだ。
彼らを無力化するのに、特別な事は必要無い。
「|ガボゴボゴボゴボガボッ《馬鹿な!?詠唱は、して無い、のに!》」
「|ガボゴボゴボガボッ《あ、兄貴!息が、出来ね、い》」
はっきり言って自分でも呆れている。
私の頭上に水面が出来た。
アリアの背丈より少し上にかかる程度だ。
だけどその水面は大人の背丈なら肩まで水中となってしまう高さに広がっている。
水面の大きさは約300平方メートルはあるだろうか。
25メートルプールに匹敵する大きさだ。
だとすると水量も40000リットルは越えてくる。とんでもない水量だ。
つまり私が考えたのは周辺大気を水に変換する事。イメージをしただけだが現れたのが25メートルプールに匹敵する巨大な水の塊だった訳だ。
しかもこの水の塊は独自に重力を持っている。
基本的は球体で、その重力の中に囚われた二人はヒューズ2の重力よりそちらに引っ張られる事となる。
結果彼らはその中に閉じ込められた、と云う訳だ。
左右から襲い掛かる二人の男を同時に無力化するには、自身を含む回りの大気そのものを利用するしかなかった。
大気中の水蒸気を集めて水の塊を組成、いわゆる雲の原理の応用だ。
そして今だから分かる。
私の身体は水に馴染む。
理屈ではない。
感覚で水を操作してると理解した。
やはりアリアの身体は水魔法の素質があるのだと、改めて実感する事になったのだ。
(「ガボボボボガボボボボッ??!!!」)
(「ガボッゴボゴボッゴボガボッ!!」)
「⋯⋯⋯⋯⋯いい気味。お前達はあと数分で水の中で溺れ死ぬ。アリアとその家族にあの世で詫びればいい」
(「ガボッゲボッガボッガボゴボ」)
(「ゴボゴボガボボボボッ」)
歪んだ水中の顔が青ざめていく。
動きが徐々に鈍くなりもはや断末魔の様相だ。
これでアリアの復讐の一部が終わるのだろうか。
(((ママーッ、あまねママーッ)))
がくっ
何かが落ちた気がした。
突然に義弟達の顔が浮かび、私を呼ぶ声が聴こえた。
意識が急激に明瞭になり精神が安定してくる。
怒りが消えて自身の現状が理解できると、急激に頭が冷えて目の前の現実感の無さに激しく心がジャンプする。
そこで初めて自身の行いに慄き改めて自分が異世界のアリアという住人では無く、地球の日本という法治国家の人間である事を思い出す。
今の私は誰だ?
殺し殺されの世界で辛く苦しい人生しか生きられなかったアリアか。
それとは全く無縁な平和な世界で大変でも義弟達を守って生きてきた天音か。
そして私は今何をしている?
まさに人殺しになろうとしているのではないか。
でもこれはアリアとその家族の復讐。
そして殺すのは最低最悪な悪人だ。
だから殺しは許される。
だけどそれでいいのか。
本当に?
(「ガボボボボッガボゴボ!」)
(「ゴボゴボゴボガボッ」)
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ」
ザバァーーッザザッザバァザザザザザザーーーーーーーーーーッ
ドサッ「ゲボッがはぁ!!?」
ドサッ「ぐはぁ!!」
一気にダムが決壊したかと思えるほどの大量の水が破裂するように地面に落下した。
中で溺れ苦しんでいた二人は水と一緒に落ち、発生した水流に運ばれて下方に流れ落ちていく。
そう、私は魔法を解除してしまった。
だけどこれで良かったと安堵したい自分がいる。
異世界アリアの身体で行った殺人であっても、天音の魂には人を殺したという負の経験が長く重い傷跡となって残るだろう。
そんな私が義弟達を守って生きていけるのか。
前と同じように弟達に笑って、何事も無かったように楽しく過ごせていけるのか。
それはおそらく無理だ。
アリアの復讐に目がくらみ、自分自身の怒りに意識が飲み込まれていた。
殺人は如何なる理由が有ろうと免罪符にはならない。
一度行えば一生背負っていく罪深いものなのだ。
「アリア、ごめん。私にはこれ以上は無理だ」
アリアの復讐を誓い悪人達を罰したいと思った。
だけどそれは天音が殺人者になるという事ではなく、然るべき異世界の法によって裁かれるのが妥当なのだと思う。
悪人達を断罪しその罪を問う。
これこそが天音による復讐の帰結なのだろう。
ズキンッ
「!?」
ズキンッズキンッズキンッズキンッ
な、何?酷い頭痛がする。
一体何がーっ
ドゴンッ
「げぼっ!?」
「この糞ガキがぁ!」
腹に突然の激痛と男の悪態?!
し、しまった!!




