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番外編⑤ 刻龍のお料理教室 ②

「まずはエプロンと三角巾をつけて」


 刻龍から配られたエプロンは玄武国の女官が付けているようなフリフリの白いメイド服のエプロンだった。


「…………」

「…………」


 そのエプロンを見て、琉龍と清龍が固まる。


「これを……、私が着るのか……?」

「おい! 刻龍! ふざけてないで――」


 琉龍の刻龍への抗議が止まった。


 なぜなら、四人全員にこのフリフリエプロンが配られていたからだ――。

 四人、と言えば蘭鈴も例外ではない。


 蘭鈴は一生懸命エプロンをつけようとするが、着慣れないエプロンをどう付けていいか分からなかった。

 紐を持つ指が空回りし、結び目が裏返る。


「蘭鈴、このエプロンはここを結ぶんだ――」


 琉龍は慣れた手つきで、蘭鈴にエプロンを着付ける。


「ありがとう、琉龍」


 蘭鈴の黄金色の瞳が恥ずかしそうに伏せられた。


「さすが着慣れてる男は違うなー」


 刻龍がボソっと呟く。


「き、着慣れてない!」


「だが、実際このエプロンを着けて玄武国では女官をしていたのだろ? さすがの手際だ。私たちではそこまで手際よく着付けられない」


 清龍が感心したように頷いた。


「玄武国の事はもう蒸し返すな!」


「オレ、実は玻璃に憧れてたんだ……」


 しみじみ語る蘭鈴に、琉龍は喜んでいいのか悲しんでいいのか分からなかった。


 

「と、まあ皆エプロンと三角巾は着けたね」


 刻龍がパン!と手を叩く。


「着たことないって言ってたけど、清龍も刻龍も完璧に着れてるな! 似合ってる!」


 蘭鈴がキラキラした眼差しを二人に向ける。


「にあっ――」


 まさか「似合ってる」と言われると思わずたじたじの清龍と刻龍。


「みんなお揃いだな」


 蘭鈴が嬉しそうに笑うものだから「まあ、当然かな?」と刻龍、清龍は不敵に微笑むのであった。


「じゃー、次は材料を説明するよ!          

 材料はカカオ豆、砂糖、カカオバター。

 魔人の国じゃあお目にかかれない材料だよ!」


「なるほど、意外とシンプルなんだな……」


 蘭鈴がふむふむと頷く。



「まずはカカオを砕く。

炒って、皮を取って――すり潰す」 


「砕く……?」


 刻龍がお手本に豆を炒って、中身をすり潰していく。


「砕くだけなら簡単そうだが――」


「豆を炒るんだな!」


 それぞれが思い思いに作業を開始する。

 石臼の音と、ほのかに甘く焦げた匂いが広がった。


 高火力でカカオを炒り、雑に潰していく蘭鈴。

 煙が立ち、豆の表面が一瞬で濃く色づいた。

 

 刻龍の教え通りに丁寧に下処理をする琉龍。

 刻龍の説明を無視して自分なりのアレンジを加える清龍。



「このペーストにする工程が終わったら次は砂糖を加えていくんだ」


「この砂糖を入れすぎると甘くなるんだな!」


「そうそう、だから少しずつ加えていくのがポイントね」


 刻龍は手際よく分量を測りペースト状になったカカオに加えていく。


「なるほど、計量か――」

 清龍が紙に何かを書き始めた。

 それを見て、全員が一歩引く。


「料理で数式は聞いてないんだけど?」

 刻龍は呆れ気味に呟いた。



「次はカカオバターでなめらかにする」


「これで口どけが決まるのか――、蘭鈴はどんな口どけが好きなんだ?」


「え? そうだな……、この前食べた藍鈴のちょこれーとの口どけもよかったけど、すぐ溶けるやつも食べてみたいな!」


「なるほど……」

 琉龍は蘭鈴の言葉に、温度を下げすぎないように、と器を手で包んだ。



「温めて、冷やして、また温める。

 焦ると全部台無し――それだけ覚えておいて」


「なるほど、温度は一度下げてから戻す。

 感情と同じだ」

 

「なんだか、難しそうだ……」


 全員が全員、それぞれのチョコレートを作り上げる。


「最後に型にながして冷たい場所でやすませるよ!」

 

コトン、コトン――。


 チョコレートを型に流し入れる音が響き渡る。


 

「混ぜるのは簡単。でも“待つ”のが一番難しい」


 刻龍が笑顔で呟いた。


「菓子って、こんなに手間がかかるんだな」


 あとは冷えるのを待つだけになった蘭鈴はしみじみ呟く。

 

「今度、藍鈴に会ったらちゃんと感謝しないとな――」


「藍鈴も、蘭鈴に食べてもらいたくて作ったんだと思う。俺達と同じだな」


「琉龍……」    


「さあ、チョコレートが冷えるまでまだまだ時間がかかる! 少しだけお茶にしようか――」



✕✕✕


 チョコレートが固まった。

 いよいよ、黄龍による審査が開始される。


「まずは自分で作ったちょこれーとを食べてみる!」


(藍鈴のよりは不格好だが、悪くないはずだ)  


 そう思い口に入れたチョコレートに蘭鈴は衝撃が走った。



「…………に、苦い……」


 

「苦い……?」

「あの菓子で苦くなる事があるのか……?」


 琉龍と清龍は不思議そうに呟く。


「……よかったらお前らも食べてみるか?」


 蘭鈴の提案に琉龍がチョコを一粒手に取る。


(まさか蘭鈴の手作りのお菓子を食べられる日が来るとは……)


 琉龍は噛み締めるようにチョコを口に入れた。


「……!!」


 刹那、瑠璃色の瞳が大きく見開かれる。


「清龍も食べてみるといい……」


 自信をなくした蘭鈴がションボリ言った。


「…………。今回は『あーん』はしないのか?」


「え? して欲しいのか?」


 清龍に言われるがまま、蘭鈴はチョコを一粒掴む。


「……美味しくないけど、はい『あーん』」


 その時、琉龍が蘭鈴の指を自分に向けた。


 パク――。


「!?」


 蘭鈴の指からチョコを食べ、もう片方の手で清龍の口に蘭鈴の作ったチョコを入れたのだ。


「………………」

「………………」


 一瞬の沈黙。


「え? 何? 今、何が起きたの!?」


 刻龍でさえ混乱する事態に琉龍は勝ち誇った顔を清龍に向ける。


「…………確かに、苦いな……」


 清龍は苦虫を噛み潰したよう顔で呟いた。


「琉龍……。お前、苦くないのか――?」


 率直な疑問が蘭鈴を襲う。

 琉龍は蘭鈴の指をペロッと舐めた。

 蘭鈴の顔が一瞬赤くなる。


「……苦いが、後味はどこか真っ直ぐで、不器用だけど嘘がない。お前みたいな味がする」


 瑠璃色の瞳が黄金色の瞳を優しく包みこんだ。


「………………そうか」


 蘭鈴は視線をうろうろさせる。


「そ、そんなに気に入ったのならこれは全部お前にやる」


 蘭鈴は作ったチョコレートを全て琉龍に渡した。

 

 そして――


「次は誰のちょこれーとだ?」


 ここからが、本当の審査(戦い)が始まるのだった。


「ふふん♪ 口直しに俺のチョコレートでもいかが?」


 刻龍が自信ありげにチョコレートを差し出した。


 見た目も可愛い動物型のチョコレート。

 しかも、白い色のチョコレートだった。


「刻龍、これは何だ?」


 蘭鈴が白いチョコレートを持ち上げる。


「ホワイトチョコだよ。苦味がないぶん、作り手の技がモロに出る」 


「おい、俺たちそんな『ちょこ』があるなんて聞いてないぞ……」


 琉龍が刻龍を睨む。


「言ってないからね、優勝は俺のモノだよ……!」


「きたないぞ……刻龍!!」


「そもそもこの勝負! この刻龍様が圧倒的に有利なんだよ!」


 悪役顔負けの刻龍に、さすがの清龍も睨みを利かせていた。


「まあ、いいや。取り敢えず食べてみる」


 蘭鈴がホワイトチョコレートを口に入れた。

 

 さすが刻龍の作ったチョコレート。

 藍鈴のチョコレートより、洗練された味がした。

家庭的な甘さとは違う、完成された味。


 蘭鈴は目を閉じる。


「……この白いのも嫌いじゃないけど、オレは普通のチョコの方が好きかな」


 刻龍に裁定が下った。

 

 刻龍は床に手をつき、絶望のポーズをしていた。

 清龍と琉龍は刻龍の肩をポンポンと叩く。


「奇をてらおうとするからこうなる。大人しく私のチョコレートを食べてみるんだな――」


 次に差し出されたのは清龍のチョコレート。

 綺麗に切り揃えられているチョコレートは、清龍の性格を現しているようであった。


「では、いただきます――」


 蘭鈴の黄金色が見開かれる。


「……普通にうまい」


 清龍が静かにガッツポーズを決めた。

 

「これは、蘭鈴一日券は私のモノかな」


 清龍が琉龍をチラっと見る。


「まだだ! まだ俺のちょこれーとがある! 形は少し悪いけど、愛情だけは込めたつもりだぞ!」


 蘭鈴の前に琉龍が作ったチョコレートが差し出された。

 刻龍や清龍のように形は整っていなかったが、そこに琉龍らしさも感じられた。


「…………それじゃあ、遠慮なく――」


 蘭鈴の口に琉龍が作ったチョコレートが放り込まれる。


 蘭鈴は目を瞑った。


「……これ、口に入れた瞬間とろける」


「お前がすぐとろけるちょこれーとが食べたいって言っていたからな、俺なりに工夫してみたんだ――」


「……うん、食べたかった味だ」


 蘭鈴は微笑んだ。

 


「さあ、じゃれ合っているところ申し訳ないが、これは勝負だ――。結果を聞かせてくれ、蘭鈴」


「「じゃれあってない!」」


 二人が同時に清龍に突っかかる。


「――――分かった。黄龍の名のもとに、このちょこれーと勝負の行方を発表する――」


 琉龍、清龍、刻龍が息を呑む。


「――優勝は――――」


 

 蘭鈴が『勝者』を発表する、その瞬間だった――。

 

 ――バン!


 急にドアが開いた。


「みんな! ここにいたーー!!」


「……稜!?」


「なになに? みんなでお料理してたのー?

 もー、せっかくなら僕を呼んでくれればよかったのに! こー見えても僕、お料理には自信あるよ!」


 稜は空気を読まずに話し始める。

 

「えー! 今すごく流行ってるやつじゃん、これ」


「稜、今ちょっと取り込み中で――」


 稜はテーブルに並んだチョコを一通り見て、首を傾げた。

 

「……ねえ、これ全部売り物にする気? せっかくだから味見してもいい?」


 稜は了承を得るより先にテーブルに並んでいるチョコレートを食べ始める。


「このホワイトチョコレートと切り揃えられてるチョコレートは普通に売れるね」

 

「この形は少し悪いけど、口どけがいいチョコも味はかなりいい線いってる」 


「でも、問題なのはこれ――」


 そう言うと稜は蘭鈴が作ったチョコレートを指さす。

 

「これは絶対に売れない。この“苦いやつ”作ったの誰?」


「…………」

「…………」

「…………」


 誰も口を開かない。


 ――言えるわけがなかった。

 それが“蘭鈴(黄龍)”の作ったものだとは。



「この勝負、次回にお預けだな」


 刻龍はチョコの残りを布で覆った。

 

「……まあ、チョコも気持ちも、完全に固まるには時間が必要ってことだね」


 ――勝負の行方は、まだ誰にも分からない。

チョコレートって難しいですよね(真顔)


そしてまさかの決着つかず!笑

これはもう全員分やるしかない、ということで次回から順番にデート(?)編に入ります。


まずは清龍編。

たぶん一番“方向性が違う”楽しませ方をしてきます。


更新は明日、3月26日を予定しております。

お楽しみに!

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