番外編③ 言えない言葉を抱いたまま
※本編完結後の番外編です。
※もしも、の話ではありません。
これは「選ばなかった言葉」と、「選び続けた現在」の物語です。
「黄龍にならなかった蘭鈴、琉龍に出会わなかった蘭鈴は、どんな人生を歩いたんだろうな――」
竜王国の執務室。
瑰はふと、部屋の中央に置いてあるソファーで眠る藍鈴を見つめた。
蘭鈴と同じ藤色の髪に菫色の瞳を持つ――五百年前の英雄。
ただ、蘭鈴と圧倒的に違うのはその『表情』だった。一緒に王宮にいた頃の蘭鈴は自分に『怒り』の表情しか見せてくれなかった。
その唯一の表情に、どれだけ救われていたか――。
藍鈴はよく笑ってくれる。表情がコロコロ変わって見ていて飽きないし、そして何より愛おしく感じる存在だ。
瑰は蘭鈴との出会いを思い出す。
蘭鈴が初めて王宮にやって来た時、瑰は呆然として、彼女に見蕩れてしまったのだ。
両親を殺害された五歳の、ひとつ年下の少女。
きっと泣きじゃくって王宮に来るのだろうと思っていた。
「私は竜蝶の娘。蘭鈴と申します――」
凛とした声。
王への謁見の儀、少女は泣きじゃくるどころか怯むことなく王と対話をしていたのだ。
同じくらいの年齢の少女が王宮にやってくる。
瑰は興味本位で謁見の間の見物に行った。
透き通るような白い肌に力強い菫色の瞳……そして柔らかな藤色の髪。
こんなにも『目を逸らせない存在』は、初めてだった。
王宮の中で育った瑰は美しいモノに飽き飽きしていた。それは『人』も例外ではない。
だが、この少女はどうだろうか。か弱い存在のはずの少女から感じる強さ。瑰が初めて心を奪われる瞬間だった。
王子というだけで媚を売ってくる女を腐るほど見てきた瑰だからこそ、そんな蘭鈴に興味を覚え、心を引かれる存在になったのかもしれない。
(もしあの時……、ずっと蘭鈴を見張っていたら……。蘭鈴は琉龍とは出会わずに今でも俺の隣で仏頂面をしていたのだろうか……?)
ここまで考えて瑰は再び藍鈴を見つめる。
「藍鈴……」
(でも、蘭鈴と一緒に鳳凰国に行かなかったら、藍鈴はいまでも鳳凰王の生贄にされていたのかもしれない……)
(過去を想うことと、今を裏切ることは違う)
瑰は藍鈴が眠るソファーに毛布をかける。
「俺の為に、慣れない政務までやらせてごめんな、ありがとう」
藍鈴は自分の前世である『琢己』を愛し、その想いだけは手放さなかった。
そんな藍鈴が自分の傍らにいてくれる。
瑰は懐から黄龍に覚醒する前の『蘭鈴の血』が入った小瓶を出した。
「藍鈴にも、蘭鈴にも、きちんと顔向け出来るような王にならないと――」
✕✕✕
黄龍との初会合の後。
年に数回、竜王国の王である瑰は黄龍となった幼馴染――蘭鈴――と謁見の機会が与えられた。
「元気そうだな、蘭鈴」
「お前もな、瑰」
謁見が始まるほんの数分。
瑰は黄金色の瞳を持つ幼馴染との短い会話を楽しむ。
「龍国での暮らしはどうか?」
「黄龍業には慣れたか?」
どの質問にも以前の仏頂面で答える蘭鈴はいなかった。
「龍国の暮らしは悪くない」
「慣れるわけがない」
そして、以前とは違い蘭鈴が話しかけてくる。
「竜王国はどうだ?」
「珱珠様は? 藍鈴とはどうだ?」
瑰は笑顔で「バッチリだ!」と答えた。
そして、幼馴染の蘭鈴との時間は終わり、黄龍と竜王国の王という立場に戻る。
『いつでも竜王国に帰ってきてもいいんだからな――』
その一言だけは、最後まで言えなかった。
謁見が終わり、竜王国に帰還すると藍鈴が出迎えてくれる。
「瑰、おかえりなさい」
その笑顔は見た者全てをトリコにする笑顔。
かつて、玄武王が執着したという笑顔。
この笑顔を見ると、瑰は心の奥底から気力が湧き上がる。
「藍鈴、ただいま。俺が留守中なにかあったか?」
「いいえ、今日も瑰のおかげで平和だったわ」
「藍鈴、今日も可愛いな」
「もう! 瑰ったら……」
瑰と藍鈴は指を絡める。
そして、執務室へと向かうのであった。
(可愛いって言っても殴られない。まだ慣れない……。でも、できるかは分からないけど、今度こそ俺が藍鈴を幸せにしたい)
番外編③「言えない言葉を抱いたまま」をお読みいただきありがとうございます。
今回は瑰視点の少しシリアスなお話でした。
本編ではあまり描かれなかった、彼の想いや選択について触れています。
“過去を想うことと、今を裏切ることは違う”
この言葉が、瑰というキャラクターのすべてかなと思っています。
次回の番外編④は3月23日投稿予定です!
番外編はもう少し続く予定ですので、
よければブックマークしてお待ちいただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




