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番外編② 黄龍様はサボりたい

※本編完結後の番外編です。

黄龍としての役目と、蘭鈴個人の立場。

 その間で揺れる「仕事」のお話です。

「蘭鈴ちゃん、“また”仕事サボってるでしょ」


 毎朝の日課である琉龍との手合せをしていると、刻龍が修練場に顔を出した。


「瑰くんから書状だよ」 


「瑰から……?」


 蘭鈴は汗だくになった顔をタオルで拭きながら刻龍から書状を受け取った。


「この書状、わざわざ国璽が押されているな」


 蘭鈴が書状をひっくり返すと、琉龍が瑠璃色の瞳で覗き込む。


「イヤな予感がする――!」

 

(大抵こういう時、ロクなことが起きない)



✕✕✕

  

 黄龍の執務室は、静まり返っていた。

 

 鳳凰王が消滅してからというもの、

 世界はやたらと『王』を欲しがるようになった。


「朱雀と麒麟は鳳凰国に吸収されたまま、王はもういない」

 清龍は淡々と言った。


「白虎王と墨蘭、それに竜王国の『新王』が中心になって話を進めているようだが……

連中が欲しいのは結論じゃない」 


「――『黄龍様』のお墨付き、だろ?」

 刻龍が苦笑する。 


「新しい『王』は必要ない! 瑰には散々言った!」


 黄金の玉座に座る黄龍――蘭鈴は、膝を抱え、全力で渋い顔をしていた。


「ちゃんと書状は読んだのか? 開けずに積まれた書状を誰が処理していると思っている」


 清龍が詰め寄る。


「……オレ、政治に興味ないし……」

「興味ない、じゃない。お前には黄龍になった責任がある」

「す、好きで黄龍になったわけじゃない! 言うなれば成り行きだ!」

「成り行きで黄龍になられるこっちの身にもなれ!」


 清龍の怖い顔がどんどん怖くなる。


「お、オレは……!」


 ――逃げたい。その一言が、喉の奥で消えた。


「まあまあ、清龍。蘭鈴ちゃんをそんなにイジメないであげてよ」


「刻龍――!」


 刻龍の助け舟に蘭鈴は黄金色の目をキラキラさせる。


「刻龍……、お前いいヤツだな……」


 蘭鈴の縋るような上目遣いに刻龍は墨色の目を細めた。


「刻龍! お前がそうやっていつも蘭鈴を甘やかすからコイツはどんどんダメになっていく!」

「ダメとか言うな! オレはオレなりに頑張ってるんだぞ! 世界からの重圧に耐えたり、清龍のお小言を聞き流したり、刻龍とお茶したり、琉龍と修行したり……」

「……それは全然頑張っていない。そして最後のは完全にお前の趣味だろう」


「うぐっ」


 世界が平和になりつつある今、蘭鈴は全力で王の力をぶつけられる相手を欲しているのだ。


「そんなに戦いたかったら武道大会でも開けばどうだ?」


「挨拶とか面倒だろ、却下だ」


 以前、清龍が提案した武道大会は、『面倒』という理由で即否定されたのだ。


 なので、折衷案として龍王の系譜である琉龍と毎朝手合せをしている。


「そういえば琉龍はどこに行ったんだ?」


 話題を変えようと蘭鈴は瑠璃色の瞳の元従者の姿を探す。


「琉龍なら使いに行かせた。この場に琉龍がいたらお前の黄龍としての政務が勤まらん」

「なっ……!」


 いつも蘭鈴を甘やかす刻龍に加えて、主従契約を破棄されたにも関わらず従者の様に振る舞う琉龍。


 蘭鈴に黄龍の仕事をさせるためには清龍にとっていない方が都合がいいのだ。


「蘭鈴が『黄龍の責務を果たす為に新しい髪飾りを欲していた』と言えばあいつは喜んで買いに行くだろう」


「清龍……! お前サイテーだな!」

「なんとでも言え。お前は琉龍が選んだモノなら何が何でも着けざるを得まい。

 それが、わざわざ買いに行かせている理由だ」


「うわぁ、外堀から埋める作戦か……。清龍ってやっぱり性格悪いわ……」


 ボソっと、刻龍が呟くも、清龍の浅葱色の瞳に一瞥された。


「前置きが長くなったな。いいからその書状を開けてみろ――」


 清龍の圧に蘭鈴も渋々書状を開封するのであった。



✕✕✕



「で、何が書いてあったんだ?」


 お使いから返ってきた琉龍は、蘭鈴に尋ねた。


「各国王との会合だそうだ……」


 虚ろな目をした蘭鈴に代わり、清龍が答える。


「各国王……。だったら白虎や墨蘭、それに竜王瑰が集まる場だな。知り合いしかいないんだし、少し顔を出してやればいいんじゃないか?」


 琉龍の申し出に蘭鈴は「……いやだ」と小さい声で答えた。


「蘭鈴、黄龍の責務を果たすんじゃなかったのか?」


 せっかく自分の為に琉龍が髪飾りを買いに行っていた。それが清龍の策略であっても、琉龍の『真心』を否定するのは忍びない。


「堅苦しいし……、長いし……。

 第一、オレが行く必要性を感じない……」


「奴らは公の場で『黄龍様』のお墨付きが欲しいんだろ……?」


「……傍迷惑な話だ」


 蘭鈴は琉龍に愚痴る。


「傍迷惑だろうが何だろうが、お前は黄龍の『血』の継承者だ。それだけで責務は免れん」


 清龍の言葉に蘭鈴はハッとした。

 そして、思いもよらぬ事を口走る。


「いい事思いついた……!

『藍鈴』に行ってもらえばいいんだ!!」


 その瞬間、空気が凍りついた。


「なぜ今で思いつかなかったんだ……!

 藍鈴とオレは同じ顔だし! 藍鈴の方がこういう場に慣れてる気がする……!」


「……待て」

「それは違うんじゃないかな」

「藍鈴とお前は全然違うぞ!」


 三方向から同時に制止の声が飛ぶ。


「善は急げだ! 今からオレは【黄龍の裁定・秩序規定ルール・オブ・オーブ】を発動する」


 蘭鈴の黄金色の瞳が魔力を帯び始めた。

 蘭鈴の周りには黄金色の凄まじい魔力が溢れ出す。

 


「【黄龍の裁定ルール・オブ――――あ、痛てッ!」


 蘭鈴の頭に手刀を食らわしたのは清龍だった。


「……いいから話を聞け!」


 蘭鈴は頭を押さえて、少し涙目になった。


「清龍! いくらなんでも蘭鈴の頭を殴るのは良くないぞ!」


 琉龍はすかさず蘭鈴の頭を撫でる。


「いやいや、今のは清龍が正しいと思う――」


 刻龍はしみじみ思うのであった。


「確かに、せっかく藍鈴を『人間』にしたのに、また『黄龍』にするのはダメだったな――」


 シュン。と反省する蘭鈴に琉龍は笑顔を見せる。


「蘭鈴、会合なんて『よきにはからえ』ってふんぞり返っていればいいんだ、大丈夫! お前ならやれる」


「琉龍――」


 蘭鈴の黄金色の瞳と、琉龍の瑠璃色の瞳が交わる。


「あ! またいい事思いついたぞ!

 琉龍が女装してオレの変わりに会合に出るって言うのはどうだ!」 


「なんで『女装』なんだよ! 清龍も刻龍も何とか言ってくれよ!」


「…………俺は別に琉龍が女装するのに反対はしないよ」

「…………私も、藍鈴よりはお前の女装の方が理に適っていると考える」



「…………ッッ!! 二人とも裏切るのか!?」


「始めからそんな協定は結んでいない」


「なっ!!」


 琉龍はわなわなと怒りを顕にし、瑠璃色の瞳から蒼色の光が溢れる。


「蘭鈴! 決闘だ! 俺とお前、どっちが上かはっきりさせてやる!!」


「望むところだ!」


 琉龍の提案に蘭鈴は黄金色の瞳がいつも以上に煌めく。



「……おい、清龍。どっちが勝つか賭けないか」

「愚問だな」



 こうして、黄龍の執務室は本来の役割を完全に忘れられた。


 黄龍の執務室は蒼色と黄金色の光に包まれ、しばらく機能を停止したと言う。


 なお、勝敗については記録に残っていない。 


 

✕✕✕ 


 

「蘭鈴、久しぶりだな」


 会合の日。

 蘭鈴は琉龍が買いに行かされた金色の髪飾りを付けていた。

 紫色のチャイナドレスには黄金色の龍が描かれている。


 一瞬、言葉を探すように視線を泳がせてから、蘭鈴は口を開いた。


「……瑰。元気だったか?」


 蘭鈴は黄金色の瞳を細めて、以前より背が高くなった幼馴染を見上げた。


「おう! お陰様で元気だぜ」


 瑰は屈託ない笑顔を蘭鈴に見せる。


「それにしても蘭鈴、お前は変わらないな」

「……お前は変わったな、背が伸びた……」


 蘭鈴は瑰の傍らに立つ藍鈴を見つめる。

 藍鈴は蘭鈴に会釈すると、武麗が褒めていた笑顔で蘭鈴を見つめた。


「蘭鈴、そろそろ始まるぞ」

 

 蘭鈴の隣に琉龍が並び立つ。


「げ、お前も来てたのかよ」

「そんな嬉しそうな声を出すな。俺まで同じ声を出しそうだ」


 瑰と琉龍はお互いに吹き出す。

 そして琉龍は蘭鈴の腰に手を回し、黄龍の玉座に導く。


 瑰は藍鈴と共に跪く。


 

「これより、我らが黄龍様との謁見を執り行う」


――各国の王たちの視線が、一斉に蘭鈴へと集まった。


――場の全員が、次の言葉を待っている。


わずかな沈黙。


「よきにはからえ……(全部任せた)」


✕✕✕   

            

 黄龍は、世界の均衡を司る存在である。

 

 ――ただし。

 その“本人”が、その責務をこれほど嫌がることは、誰にも止められなかった。

次回の番外編③は3月20日投稿予定です!


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ここまで読んでいただきありがとうございました。

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