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【最終話】第五十三話 新しい風(エピローグ)

 鳳凰王が消滅してから、数ヶ月が経った。


 (あるじ)を失った鳳凰国は一時混乱に陥ったが、その再建のために立ち上がった者たちがいた。白虎王、そして亡き玄武王の遺志を継ぐ側近・墨蘭。そして、人間側の代表として、竜王国の若き新王となった瑰である。

 その肩にかかる重さを、彼は今でも時折、夢の中で思い知らされる。


 母である先代女王・珱珠は、息子が鳳凰国から連れ帰った藍鈴の処遇や、彼が戦いの中で見せた王としての覚悟を認め、その座を瑰に譲ったのだ。

 現在は後見人として、慣れない王務に奔走する息子を厳しくも温かく支えている。


 かつて玄武王が崩御した際、瑰は商人ギルドの翠玉から『翡翠の鷹』という伝令用の鳥を借り、白虎国と竜王国へいち早くその急報を届けていた。玄武国の救済のために両国が動き出そうとしていた矢先、今度は鳳凰王消滅という、世界を揺るがす知らせが舞い込んだのである。


 だが、この迅速な伝令が功を奏した。


 龍脈門を使って玄武国へ駆けつけた瑰。

 そこへ急報を受けた白虎王も到着し、もともと玄武国にいた墨蘭を含め、三者が偶然にも一堂に会することになった。

 この三者が一堂に会していたことで、鳳凰国の戦後処理と再建に向けた話し合いは驚くほど速やかに成立したのである。


「瑰くん、次の会談の資料だよ。……少しは休めてる? 君に倒れられたら墨蘭くんに小言を言われるんだよねー」


 白虎王の軽口に、瑰は手元にあった小さな小瓶をそっと懐へしまい、苦笑しながら書類を受け取った。


 それは、鳳凰国での決戦前、蘭鈴から託された彼女の血だ。

 琉龍たちが死闘を生き抜くためにその「力」を飲み干す中、瑰だけは最後までこれを使わなかった。いや、使えなかったのだ。 


(これを使う時は、本当に君を失う時だと思っていたから……。……それに、これは俺にとっての『お守り』なんだ)


 今や蘭鈴は強大な黄龍となったが、瑰にとってはこの一滴こそが、自分を信じて命を預けてくれた「幼馴染の蘭鈴」との、かけがえのない絆だった。


「大丈夫だ。……俺には、支えてくれる人がいるし、珱珠母上にも『新王が情けない顔をするな』と喝を入れられたばかりだからね」


 懐の小瓶の微かな温度を感じながら、瑰は紺色の瞳を優しく細めて隣で微笑む藍鈴へと視線を向けた。

 かつての絶大な力はない。けれど、一人の人間として瑰の隣で微笑む彼女は、何よりも美しい復興の象徴となっていた。


「でも、本当に幸せそうだねぇ。僕の知ってる『龍蝶藍鈴』は、いつも何かに追われてるみたいだったけど」


 白虎王の言葉に、二人は顔を見合わせた。


「俺たちが今、こうして笑っていられるのは……全部、蘭鈴のおかげだよ」


✕✕✕


 一方、戦乱の火種が消えたことで、世界には再び交易の活気が戻りつつあった。


「僕的には黄龍様(蘭鈴ちゃん)がいる龍国の時代が来ると思うんですよね~」

「なるほど、でも龍国の住人は四人なのよね?――それじゃあ、あまり商売(素敵な関係)になれないと思うのだけど……」

「いやいや! 翠玉様! ()()んじゃないんですよ! ()()()るんですよ!! 鳳凰の王が消滅した事で、黄龍様の復活を薄々感づいている人多いんじゃないですか?」

「確かに、そうだけれども……。一般の方は蘭鈴様が黄龍様だと知らないはずよね?」

「ちっちっちっ。蘭鈴ちゃんが黄龍様だなんて知られなくてイイんですよ! むしろ知られない方がいい!」


 稜は栗色の瞳をキラキラさせながら翠玉に迫る。

 

「僕と蘭鈴ちゃんのコネクションを使って『黄龍様公認』の特産品を仕入れるんです! 血液なんかもたまに譲ってもらえたら……もう、大繁盛間違いなしですよ!」

「稜! あなたという魔人は……なんて素晴らしいのでしょう!」


 商人ギルドで稜は鼻息を荒くして翠玉と固い握手を交わしていた。

 

「そして龍脈門を使わせてもらえれば移動も楽だし、僕もいつでも琉龍に会える!」

「……稜、本音はそっちですね……?」

「てへ、バレちゃった?」

「しかし、龍国との独占契約は魅力的です。早速向かいますよ!」

「翠玉、様……! 一生付いていきます!!」



 数日後、龍国直送の魔石を手に、世界を繋ぐ「商人」として声を張り上げる稜の姿があった。

 彼は今、裏社会の刃を置き、自由な風の中で人生を謳歌している。


✕✕✕


 そして、全ての始まりの地である龍国。


 玉座の間には、もはや誰も座っていない。王は民と共に歩むものだと、新しき王――蘭鈴が決めたからだ。


「……全く。私たちの主様は、また琉龍と出歩いているのか」


 清龍が呆れたように溜息をつくと、隣で刻龍がニヤリと笑った。


「え? 清龍さん、琉龍に嫉妬してるの?」

「……黙れ。そう言うお前こそ、お茶会と称して蘭鈴を質問攻めにして煙たがられているそうじゃないか」

「なっ、何故それを……! しかも俺に直接じゃなくて清龍(お前)に言うんだ――?」

「蘭鈴なりの気遣いだろう――。それに、私とあの娘は師弟関係にある。あの娘を黄龍様として覚醒させたのは他でもない()の功績が大きいからな――」

 勝ち誇った清龍の顔は、いつにも増して得意げだった。


「お、俺だって……! 蘭鈴ちゃんの為に掃除や食事、服の仕入れまで……まるで母親みたいに尽くしてるんだぞ!」

「……自覚はあるんだな。おい刻龍。今度服を仕入れる時は私にも声をかけろ。……私も、私好みの服を着せてみたくなった」

「清龍……お前も相当だな」


 二人の瞳には、かつての冷徹な笑みではなく、一人の少女への心からの敬愛が宿っていた。


✕✕✕


 龍国と竜王国の境界にある、清らかな湖畔。


 水面には太陽が煌めき、心地よい風が二人の沈黙を包んでいた。


「今更だが、竜王瑰と一緒に竜王国に行かなくて良かったのか?」


 琉龍の問いに、蘭鈴は前を歩きながら首を振った。


「ああ。あそこにいい思い出はあんまりないし……それに、瑰には今、藍鈴がいるから」


 蘭鈴は不意に立ち止まり、くるりと振り返った。


「そうだ、琉龍。ちょっと目を瞑ってくれないか?」


「あ? ああ、いいけど……どうかしたか?」


 琉龍が素直に瞼を閉じた、その瞬間だった。


 柔らかな、そして確かな熱が、琉龍の唇に重なった。


 「っ……!?」


 驚いて目を見開くと、そこには至近距離でこちらを見つめる、黄金色の瞳。蘭鈴は恥ずかしそうに目を逸らし、そして瞼を閉じる。

 琉龍もそれに合わせて瞼を閉じた……。


 それは一瞬の出来事だった。

 だが琉龍には、永遠の時間のように感じられた。


 唇を離すと蘭鈴は目を合わせずにこう告げた。


「これでお前の契約は、すべて破棄された」


「……何のことだ?」


「主従契約だよ。……自分の顔、見てみなよ」


 蘭鈴の瞳に映る琉龍の顔。漆黒に染まっていたはずの左目は、今や右目と同じ、透き通った瑠璃色に戻り、輝いていた。


「ら、蘭鈴……!」


「キミに決闘を申し込むよ――琉龍」 

 

 そして少し恥ずかしそうに言う。



「今のは、黄龍(オレ)の力で主従契約を解除する為の処置だ。勘違いするなよ。……これから決闘しようと言うのに()()()()()と黄龍のオレじゃあ力の差がありすぎるからな」


(決闘……? それは本当に、戦いの意味なのか――?)

 

 琉龍は混乱した。そして続けざまに蘭鈴が宣言する。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。オレは黄龍の力を受け継ぐ者。特別に()()って呼んでいいんだぞ」


 琉龍の顔が見る見る赤くなっていき、胸の奥が、理由もなく熱を帯びる。

 もしそれが冗談でなかったら――そんな考えが、ほんの一瞬だけ脳裏をよぎる。


「なんちゃって……」



 

 その声は、冗談にしては、少しだけ震えていた。 

 琉龍の様子に蘭鈴はいたずらっぽく、べーと舌を出した。


 それは黄龍としてではなく、一人の少女――「蘭鈴」としての、光り輝く未来への第一歩。


 

 新しい風が、二人の間を吹き抜けていく。

 物語は今、五百年の呪縛を越え、自由な空へと解き放たれた。

 その先にどんな未来が待つのか――それは、まだ誰も知らない。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。


「黄龍の継承者である私は、偶像として祀られる運命を拒み、瑠璃色の龍に拾われました」は、これにて本編完結となります。


もしよろしければ、ブックマークや評価、感想などいただけるととても励みになります。一言でもとても嬉しいです。


なお、このあと番外編を数話投稿予定です。

本編では描ききれなかった小話になりますので、もしよろしければもう少しだけお付き合いいただけたら嬉しいです。

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