表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然牢獄  作者: niya
PR
4/7

一日目。十四時二十二分。 二日目。六時四十五分。

一日目。十四時二十二分。

マウリはつい先程まで目の前で起きていた事象を観察記録表に記入を終えていた。あの

様子は、尋常ではなかったとしか言葉を当てはめるしかできなかった。

先程の出来事は、あの黄金鳥に向けられたものだったが、それが自分に向けらるとなっ

た時を想像すると恐怖でしかない。

近くに置いていたペットボトルの飲料水を喉に流し込む。喉の神経が水を感じ、体内へ

と流れていくことがわかる。

突然状況が動いた。何か勢いのあるものが激しく衝突する音が室内に響いた。外の集音

マイクが何かの音を拾ったのだ。

その音はまるで噴水が床にタイルに打ち付けるようだつた。

「何だ!?」

 マウリは、勢いをつけて周りを見渡した。すると、マウリの背後にある透明壁に大量の

水が激突し続けていた。

「水!?」

 数秒間続いた水は、徐々に勢いを無くし視界も視認できる状況までに戻りつつある。

「何が起きているんだ」

 マイクが外の激しい水音を徐々に小さくなり、最後には拾わなくなっていく。

 マウリはのそっと立ち上がり、大量の水と接触していた壁へとゆっくり近づいてく。集

中し壁の様子をみると、壁が激しく濡れており、多くの雫が表面についている。

じっと見つめいていると、強力で激しい水流が目前を通過し、まるでクッキーを砕くよ

うに巨木を叩き折った。その時に細かい木のくずが無数に宙を舞った。

「折れた」

 まるで嘘のような現象にマウリは、現状を容易に頭へ入力することが困難だった。深呼

吸をするマウリ。極僅かだけではあるが、脳に事態を受け入れいるスペースを作った。

「あの水流、地面から急に噴出した訳じゃない。必ずどこかに水流の発生源があるはず」

 マウリは、左右に首を振り周囲を見渡した。

 けたたましく感情が高ぶっているような雄たけびのような音がマイクを通して室内に響

き渡る。

「あそこか?」

 マウリは、黄金鳥が引き摺りこまれた水辺へと目を向けた。すると、まるでタイミング

を合わせたかのように巨大で勢いのある水柱が、まるで荒神の森に聳え立つ木々のように

な姿を眼前に現れた。

「水柱!?」

 水柱が生んだ数多くの水粒が雨のように水面を叩く。

 徐々に水柱が治まり始めるが、何か大きな影が見えた。

急いで振り返りこの室内に持ち込まれた暗視双眼鏡をマウリは手に持ち、即座に通常状

態であることを確認し両目へと当てた。双眼鏡に映し出された影は、一つの影と思ってい

たがマウリの予想を裏切り、そこには二つの影が存在していた。

 一つの影は、タコやイカなどの軟体動物から進化した怪物。その表面はヌメヌメとして

おり何かの分泌物に覆われているのは視認できる。また、タコやイカと同様に太い触手が

ウネウネとさせる。複数本存在している内、数本水面下に差込み直立していた。少し前に

黄金鳥を襲ったのもこの軟体動物の怪物だろう。言わば海の怪物、クラーケンと言っても

いい。ここは海ではないが。

もう一つの影は、ワニのような爬虫類ではあるが、頬に相当する部分はカエルのように

膨らみ水を貯めているのが分かる。両生類と爬虫類を掛け合わせたような怪物だ。体表は

クラーケンとはまるで反対でゴツゴツしていている。まさに巨大ワニと言ってもよい。

二体の怪物は非常に大きく、水面下に隠れている部分を含めても、見立てでは二十メー

トル程は達していると考えてもいい。

巨大ワニはクラーケンの触手に噛み付き、クラーケンは身体に巻きつけ締め上げる。

激しく動き激突する二体の獣に水面は水しぶきを激しく撒き散らし、幾つもの波紋を作

っていた。

「ここはどうなっているんだ!」

 マウリはこの場所で起きていることが整理できていなかった。少し前にも信じられない

事態が起きたが、自分の処理範疇を超えると計算が追いつかない。

ぶつかり合う二体。大きな異音が響く。

クラーケンは、触手で巨大ワニを振り払った。巨大ワニは噛み付いていた口を放し、宙

に舞い水面に叩きつけられた。またも大きな波紋が広がり、幾つもの飛沫が舞った。

巨大ワニは上半身を起こし、直立しクラーケンと向かいあった。

ワニの口を大きく広げる。体内に蓄えていた口からまるで消防車からの放水の様にもの

凄い勢いで水が発射される。この独房を襲った水流は巨大ワニによるものだったのだ。

相対するクラーケンは、身体を幾度も捻り巨大ワニの強水流攻撃を何度も避ける。それ

でも、水流が続く間、巨大ワニは強水流攻撃を続けた。その状況が数十秒続く。

段々と水流攻撃の勢いが落ちていく。そして、水流が尽きてしまい、巨大ワニが口を開

いても何も出てこなかった。

巨大ワニは身体を水面下に沈め、目を部位だけを水面に出した状態になった。

「水を補給してる?」

 マウリは双眼鏡を覗き込みながら呟いた。

クラーケンはうねうねとしつつ、水中に触手を浸している。

 マウリはこの硬直した状況下を観察し、水分を補給し終えた巨大ワニが、再びクラーケ

ンに攻撃をしかけるものと推測した。だが、マウリの推測に反し急にワニが暴れ始めた。

「何が起きてる?」

身体を左右に振る巨大ワニだが、水面上に出ているのは水の部分のみで視認できない。

数秒後に波を起こすが、それは巨大ワニが発生させたものではなかった。

「嘘だ」

 マウリは唖然とした。それは当然だった。

マウリの目の前に繰り広げられた光景は、常軌を逸するものだ。

巨大ワニは水面上に姿を現したのだが、その姿は正常な状態ではなく、クラーケンの触

手に絡められたものだった。巨大ワニは身体だけではなく、尾や腕、更には口も触手が絡

まり開口も難しい状態であった。更に高くクラーケンに持ち上げられる巨大ワニ。じたば

たと手、尻尾をくねらせもがき苦しむ巨大ワニの必死さがマウリの目に映っていた。しか

し、その必死さもクラーケンには届いていない。

更に更に高さは上がり、とうとうクラーケンの真上まで持ち上げられた。

クラーケンは、使っていない触手も動かし、今以上に巨大ワニの身体を縛り上げた。巨

大ワニは一切の行動を封じられる。

マウリの目から見ても、更に力を加えられているのは容易に理解できた。触手の部分に

ある筋肉の動きが異様だった。

「あっ、やばいなぁ」

 マウリは双眼鏡を除きながら、この先の展開を予想できた。

数秒後、マイクは強烈な破裂音が響く。その音と同時に巨大ワニが、曲がってはいけな

い方向に曲がっていく。巨大ワニはピクピクと身体を震わせ、抗う力ももう持ち合わせて

はいない。 クラーケンはそれでも力を加え続け、巨大ワニを曲げ続け頭と尻尾の皮膚が

触れた。クラーケンは吼えた。

「ここはヤバイ。ここはヤバイ」

 マウリはうろたえることしかできない。危険だと認知できても、ここから移動や攻撃が

できる訳ではない。こちらに興味を持たないことを祈るしかない。

水辺では、クラーケンが触手の力を緩めた。すると、巨大ワニの身体が落ち、水面に叩

きつけられた。何度目かの水飛沫が飛ぶ。着水した巨大ワニは、身体の一部を水面上に突

出させるが、全くとして動くことがなかった。

そんな巨大ワニをクラーケンが、上から覆い被さる。解いた触手をまたも巨大ワニの身

体に巻きつける。ある程度、身体に巻きつき終えると徐々に水中へと没していく。空気が

水中から逃れようと幾つもの気泡を作り、お湯が沸騰するように音がする。時間が徐々に

経過すると、二体の姿は消えていった。更に時間が経過すると、波紋も落ち着き平静を取

り戻していった。

マウリは言葉を失った。


一日目。二十二時十五分。

独房の外は夕闇に周囲は夜の闇に染まっていた。独房の内部も小さな明かりがあるくら

いで、夜と同化しているといっても差し支えないほどに染まっている。囚人に対する安全

性を考慮した設計上、このレイアウトになっている。

マウリは、少し前に支給されていた食料の幾つかを食べた。マウリが食べ終えた空き缶

が、周囲に転がっている。また、近くにあった観察記録表には”イカの化物とワニの化物

が戦ってイカの化物が勝った”とだけ書かれていた。

やることが何もないマウリは、ただただ横になるしかなかった。

いまこの環境で許された照明は、月光の光のみと言っても誤りではない。

「暇だ」

 マウリは今の心境を呟いた。とは言え、暇という感情も全てを指しておらず、もう半分

の心境は恐怖だった。マイナスな感情しか持ち合わせていない。

今の状況も決して平穏な時間ではなく、次なる恐怖への助走時間としか思えなかった。

時折、何かが揺れる音をマイクが拾う。しかし、マウリは無視をした。恐怖は認識しな

ければ、恐怖にならないと自分に言い聞かせながら。実際、マイクが拾った音は、その場

限りですぐに静寂を取りもしていく。

しかし、それもそのあるタイミングが来るまでだった。

またも外の木々が揺れる音をマイクが拾う。その音に対し、マウリは気のせいと判断し

寝続けた。しかし、木々を揺らす音は、少しずつマウリのところに近づいていく。

マウリ自身、その音が近づきつつあるのは把握していた。ただ、自分に向けてのもので

はないと思っていた。というよりもそう思い込むしかなかった。もし、自分にその刃が向

くのであれば、何ともやり過ごす手段がないからである。ただただ、嵐が過ぎ去るのを待

つしかない。しかし、目の前で起きている嵐は、一つ一つが瞬間的な暴風で、ひとたび巻

き込まれると跡形もないことが容易に想像できる出来事ばかりだった。ただ、彼らの興味

がこちらに向かないだけだ。

しかし、今回の嵐はどうも違うようだ。

ビンを手で叩くような音が室内に響くと同時に、軽く振動が起き、目を瞑っているマウ

リの視界が更に暗くなった。

マウリは、目を開くことはしなかったが、感覚的に何かがこの独房に興味を持ったこと

は察知できた。

「なんか来てるなあ」

そう呟くマウリだが、恐怖で目を開けて視認することができない。

瞼を閉じた瞳が、闇の濃さが何度も薄くなったり濃くなったりを繰り返していた。独房

の外にいる嵐が、何度も激しく動いているのだとマウリは感じた。

”クスクス”

 マイクが今までとは違う音を拾う。どちらかと言うと音ではなく、人間の声のように思

えた。

「人? こんな場所に? 馬鹿な」

 一瞬、マウリ脳裏に目を開けようかという考えが過ぎった。しかし、その考えをしてい

る時に、また、先程と同じくビンを叩くような音が響いた。

「え?」

 そう思った瞬間だった。次々とビンを手の平で叩くような音が何度も幾度も響き渡って

いた。この場でその音を聞かされる状況となったマウリにとっては非常に不快な音だ。

「マジかぁ。これ絶対に目を開けないやつやん」

 防音が施されており相手が耳にすること無いのだが、小声で呟くマウリの背筋に一筋の

冷や汗が伝う。

”クスクス””クスクス””クスクス”

 謎の笑い声は、徐々に徐々に増えいていく。

「マジかぁ。マジかぁ」

 目を閉じているマウリは何度も小声で呟く。その間にも増え続けた謎の声は、四方八方

から響き渡る。

マウリを覗き込み、マウリを笑い続けているその主は、巨大なコウモリの化物で、目は

赤くて鋭い牙を持ち、そして、その表情はまるで笑っているように口を開いている。その

口からあの笑い声は発せられている。

軽い振動がこの建物を襲っている。それでもマウリは寝たフリをするしか、やり過ごす

方法はなかった。

この緊張した空気が、マウリの身体は大量に発汗させる。

巨大コウモリ達は、マウリを何として認識しているのだろうか。

 夜は更けてゆく。


二日目。六時四十五分。

東の空が白み始める。

マウリは横になり寝ている。いや、寝ているというよりも寝たふりをいまだに続けてい

た。その原因は、巨大コウモリ群である。未知の物体が手の届かない場所に居る事実が、

彼らにとっては興味を掻き立てられる要因らしい。

マウリと巨大コウモリ群との静かな戦いが一晩中行われていた。

仮にマウリが動き始めると彼らが何をするのかが一切予想することが難しい。体中がび

っしりと汗で濡れている。身体から大量の水分が抜け出ているのにも関わらず、身体から

抜けた水分を補給できずにいる。彼らの興味が先に尽きるのか、それともマウリのこの状

況に耐え切れず動いてしまうのか、お互いガマン比べの勝負だ。

時折、足で壁を蹴ったり、笑ったよう声を響かる行動からマウリに興味を引き出そうと

動きをみせる。しかし、マウリはそれに応える素振りを見せない。

この応酬が白み始めてからかれこれ十分近くは続いてる。前日からも合わせてれば、余

裕で六時間以上は経過している。これだけ寝たふりをしていると同じポーズを長時間続け

たことによる疲労が溜まっており、それが起因した睡魔に襲われる。これが今この場に流

れるを崩す。

マウリの意識が朦朧とし始める。これがいつもの温かいベッドの上であればどれだけ望

ましい状況にあるかと思う。しかし、マウリの置かれた極限的状況がそれを許さない。

睡魔と緊張の波がマウリの中で、交互に何度も押し寄せる。何とか睡魔を凌いだマウリ

だったが、睡魔に更に襲う。マウリの意識が遠のき、今までは単に目を閉じて意図的に暗

闇を作っていたのだが、いつの間にか意識も闇に解けかける。その数秒後だった。身体に

妙な感覚が神経を通過していく。それはまるでどこからか落ちるような感覚だった。その

感覚にマウリの身体が驚きを感じ、一回だけではあるが、非常に大きな痙攣を示した。当

然、奴らもその反応を目にしてた。

「ヤッベー。寝てた」

 睡魔から目覚めたマウリが小声で言葉を口にした次の瞬間だった。

”キェーッ!””キェーッ!””キェーッ!”

 非常に激しくけたたましい幾つもの叫びが響き渡る。その叫びは、まるで若い女性の悲

鳴に似たものだった。

 これまで我慢をしていたマウリではあるが、あまりの音に驚き、身体をくねらせて目を

見開いた。そこには大口を開けた巨大コウモリ達が、強烈な叫びを上げつつ身体を荒々し

く透明な壁に衝突させた。明らかに壊しにきている。

異様な光景にマウリの表情が、目を見開き眉間に皺をつくり固まった。

「あっ、駄目かも」

自分の終わりを覚悟した時、激しい炸裂音が響き、巨大コウモリ群の背後で非常に明る

い閃光が見えた。

思わずマウリは自分の目を瞑り、眩い閃光から保護する。

”グギャーッ””グギャーッ””グギャーッ”

それまで女性の声に似た叫びでマウリを威嚇していたのだが、今度はは一転して男性の

野太い声で雄叫びをあげた。

マウリの表情は、事態の急変に思考回路が追いつけず動くことができなかった。

次々と壁に張り付いていたコウモリ達が壁から離れていく。ある獣は閃光が直撃したま

ま地面へと落下し、ある獣は何かに恐れ逃げ出すように飛び立った。

 透明な壁に張り付いていた数多くのコウモリ達がその場から離れ、外界の様子が視認で

きる状況になっていく。マウリの視界に広がったのは、いつもの閃光と火花だった。次々

とその閃光を浴びたコウモリが地面に落下する。

「あの閃光はどこから…」

 マウリは閃光の発生源を探した。瞳が上下左右に激しく動き、一点で止まる。

マウリの視線の延長線上には、朝焼けを背後にしている巨大な爬虫類の怪物が居た。朝

焼けの陽が強烈で、シルエットが濃くまるで一種のアートのようだった。

「あっ、あっ」

 マウリはまたも衝撃に晒される。先程までは目を閉じ現実を受け入れることを逃げてい

たマウリではあったが、目を見開きマウリの前で繰り広げられる光景が驚愕すぎて瞼を下

ろすことができなかった。ただ、許されていることはこの状況を受け入れることだけだ。

シルエットは前に前にへと進み、徐々にシルエットが後ろ向かいシルエットの主が姿を

見せ始めた。その姿は恐竜またはドラゴンと言っても違いない姿をしていた。ドラゴンは

口を大きく広げ、発光させ黄色な稲妻が空中に駆け抜けていく。その先に待つのは空中に

舞う巨大コウモリの一匹に直撃する。

”グゲゲゲッ!”

 直撃した巨大コウモリは、ひらひらと枯葉のように下へ下へと落ちていく。ドラゴンは

猛然と走り、野球の外野手がポテンヒットを飛び込んでキャッチするかのように巨大コウ

モリを大きな口でキャッチした。

「食った!」

 これまで命のやりとりが目の前で繰り広げられていたが、直で勝利者が敗者を食すシー

ンを見ることはなかった。想像していたがこうしてそのシーンを突きつけらるとやはり恐

怖心を掻き立てられる。

ドラゴンは口から稲妻を放ち直撃させ、落下してくるコウモリを大口で喰らう。この光

景を繰り返し、幾つもマウリは見せ付けられる。先程まであんなに時間をかけて執念深く

マウリを狙い続けていた巨大コウモリは、勢いを無くしただただドラゴンに襲われ逃げ惑

うしかしなかった。コウモリ自身、本来であれば防御能力を持ち合わせていたかもしれな

い。しかし、マウリというこの環境に現れた異物に集中しすぎた為、突如姿をみせたドラ

ゴンに対応することができず混乱の中で散り散りになることしか出来なかった。

巨大コウモリ達は空高く飛び上がり、マウリの居るエリアから更に奥へと逃げていく。

ドラゴンは口を広げ、自分の存在をアピールするかの如く咆哮する。その後、周囲にゴ

ミくずのように転がっていた閃光を浴びて倒れた巨大コウモリの亡骸を噛み始める。巨大

コウモリの一部を噛むと宙へ放り投げた。宙を舞う巨大コウモリの亡骸は、そのまま頂点

まで達すると重力が巨大コウモリを拘束し始め、地上に引き戻し始める。その落下線上に

はドラゴンが大口を開きながら待ち変えいる。亡骸はスムーズに大口へと落下を続けてい

る。数秒間、自由落下を続ける。そして、ドラゴンに口に到達した。大口でしっかりと捉

えたドラゴンはそのまま二回口を動かし、巨大コウモリを呑み込んでいく。

その数十秒間は、ドラゴンの掃除作業が続いた。周辺にあった亡骸を一掃する。その為

に牢獄の近くまで近寄ってきた。時折、ドラゴンの視線とマウリの視線が交錯した気がし

た。マウリは唾を呑み込む。一通りドラゴンは周囲のコウモリを掃除し終えると首を動か

した。その様子はまるで忘れ物が無いかを確認する小学生のようではあった。確認を終え

たドラゴンは、マウリに背を向けた。止めていた両足を一歩ずつ進む。そして、徐々にそ

の姿を荒神の森へと消していく。その後、完全に消えていった。時折、木々に触れる音も

どんどん聞こえなくなっていく。

「助かった…のか」

身体を横にしていたマウリだったが、静かに立ち上がり透明な壁の近くに歩み寄る。両

手をパーの字に広げ、壁にそっと触れた。壁の温度が手の肌を通じ、マウリにへと伝わっ

ていく。ぼんやりとした温かさだった。ドラゴンの閃光がこの壁を温めたようだ。この温

度が数秒前のことが夢ではないことを実感させる。

マウリは現実感のない次々起こる実状をただただ無力さを感じながら現実を見つめるし

か選択肢がなかった。


 続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございました。 他の作品もよろしければご覧ください。 作品一覧
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ