一日目。十二時五十分。
一日目。十二時五十分。
マウリは透明な壁の傍に立っていた。両手を壁に触れつつまじまじと眺めていた。この
場所から見えるマウリの視界は、六割がジャングルで残りが高い木々に囲まれた湖だ。
マウリ自身にとってこの風景は、故郷の原風景となんらかわりない風景と言っても良か
った。幼い頃に駆け巡った山と似ている。ただ、何か空気というか気というか、抽象的な
何かが違う風に思えた。
”ピー! ピー!”
突如、電子音が室内に響いた。それに気づいた音のする方角へと視線を向けた。
『機能チェック完了。現状問題なし。外環境の音声データを収集・出力します』
その音声が知らせた後、外の音が室内へと流れ始める。それは、先程までジャングルの
中を歩いてきた音であった。マウリはこの機能がなぜこの独房に備え付けられいるかは気
にならなかった。いや、どちらかというと気にしないようにしたというのが正解だ。
この外マイクは実に優秀で、僅かに聞こえた鳥の羽音まで拾っていた。その僅かに聞こ
えた羽音が、徐々に大きく鮮明化していく。
「上っ?」
マウリはすっと顔を上げた。するとそこには円を描くよう生えたにジャングルの木々と
それに囲まれた太陽。そして、その中央に両翼を大きく広げた鳥の影だった。
その影は徐々に大きくなっていく。らせん状に旋回しながら降下しているのだろう。マ
ウリはその影を視線で追った。
影はらせん状に降下を続け、円柱形の独房をまるでなぞる様に旋回をしていた。その間
もマウリは視線で追い続ける。その影は、そのまま独房の近くに立っていた樹木の枝に止
まった。
「綺麗だ」
マウリは、思わず呟いた。
そこには全身を黄金の羽を纏い、微かに虹色のオーラを放つ様にに見える大きな鳥だっ
た。体長は、頭から下に垂れ下がる赤みがかった尾羽まで含めると約二メートルはあるよ
うに思えた。そして、その姿はフェニックスのモデルと言われてもおかしくない程に神々
しかった。
「凄い。なんて美しさなんだ」
鳥はすまし顔で枝を上で静止し、時折、毛繕いを行い羽の輝きを維持している。
マウリの脳裏には、徐々に鳥が放つ美の迫力に圧倒されいた感情が、自身の欲へと変移
していった。
「こいつ、ここで捕まえて剥製にすれば高額の金にはなるのに。この距離に居るのに掴ま
えられないとは」
マウリは、とぼとぼと黄金鳥の居る方角に足を前に出し、またも透明な壁に張り付く。
じっと透明な壁越しに黄金鳥を見つめる。
黄金鳥はマウリの視線に一切動じず静止し続けている。
「なんか、ここまで動かないと驚かしたいな」
妙な独り言を呟いたマウリは、まるで悪戯し好きな女の子を振り向かせようとする男の
子みたいな行動を始める。
まず、右手で拳をつくり、左手は大きく広げて透明な壁を押し体を支えつつ、何度も殴
りつける。しかし、全く黄金鳥は動じない。
マウリは、両手で更に激しく何度も殴りつける。しかし、黄金鳥は一切の動揺を見せる
ことはなかった。そして、その状況は数分続いた。
「畜生!」
マウリは、疲れその場にへたれ込み独房の床に胡坐を組みその場に座りこんだ。
黄金鳥はあざ笑うかのように一度甲高い声で咆哮を響かせ、再度飛び始めしたマウリは
それを見つめることしかできなかった。
その時だ。
マウリが居る独房の右後方からまるで太い縄のような影が黄金鳥を目掛け飛び掛った。
その影は黄金長の胴体を右上から左下に向かい、また、右上に戻るように一周し、動きを
封じようとした。
黄金鳥はその影に抗うように激しくもがく。しかし、どんなにもがこうが全く緩みはし
なかった。激しくもがくほどに黄金鳥の羽が激しく舞う。そして、地面へと散っていく。
「なんだよ。あの太いの?」
マウリは太い影に驚きを隠せなかった。そして、現在の状況を注視していた。
太陽の輝きの中、黄金鳥の羽が無数に宙を舞った。
ジャングルには黄金鳥の奇声が響く。それはとてつもなく高音で、何度もジャングルに
響き渡る。その間も黄金鳥は地面を引き摺られていく。時には木の無数に生えた木の根に
体を衝突し、時にはバイクのタイヤサイズの岩にも衝突する。
事態を解消しようともがくも、その影はそのもがく力を遥かに凌駕するほどの力で締め
付けていた。
黄金鳥は何もできない。
マウリも波もすることもできず、ただただ黄金鳥が地面を引き摺られて行く状況を眺め
ることしかできない。
黄金鳥は、そのまま引き摺られ水辺へと近づいていく。泥を飛ばし、水飛沫を上げてそ
のまま水中へと引き摺りこんでいく。最初は、大きな波紋が徐々に小さくなっていく。そ
して、黄金鳥の姿は水中に消えていった。
残っていた波紋も徐々に治まり、いままでの波間に戻る。
マウリは、そのまま崩れ落ち両膝を床に打ち付けた。
今、目の前で繰り広げられている状況を受け入れるのに即座に呑み込むことができず脳
内を整理するのに時間がかかった。
「なんだ。今の」
マウリは、ふとあの黄金鳥が地面を引き摺られた痕跡へと視線が向けられる。そこには
泥を両側に撒き散らし、U字型に地面が抉られた痕跡だった。その地面の泥には黄金鳥の
羽と思われるものが、幾つも散っていた。
ここは文字通り弱肉強食が繰り広げられている場所だ。油断を見せた結果がどうなるか
ということをマウリの心に刻まれていた。
続く




