22、一時休戦
「俺は、埋め立てを進めてる奴らの情報を集めてくる。先に行っててくれ」
吉田さんは、説得で済めばその方がいいからと、情報を集めに行った。
僕と純野さん、登雄流さんは、池がその間に埋め立てられないように、池に向かう。
涙ヶ池に着いたのは、夕方だった。空の赤さが、池の水に映り、草を鳴らす風が水面に小波をおこしていた。
まだ、池を埋め立てに人は来ていない。風乱党の人も、今は周りにいないようだった。
「登雄流さん、景色いいですね」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
「三輪、酒飲みたい」
「ああ、確かに。景色を肴に、飲みたいなあ」
登雄流さんを、チラチラと見る。
「おい、なんだその目は?」
「飲みたいなあ、登雄流さん」
「……ちょっと、待っとれ」
……どぼん
登雄流さんは、酒を取りに池に潜って行った。
「酒だー」
「酒だー」
純野さんと、そんなことを言いながら新聞紙を敷く。
「ほれ、酒じゃ。つまみも、あれば食うじゃろ?作ってくるから、先に飲んどれ」
「わーい。流石、神さんだ」
「蛙、ありがとう」
しばらく純野さんと飲んでいると、池に近づいてくる人がいた。
純野さんは、身長が百六十五センチメートル位だが、それより少し高い位の女性だった。おかっぱ頭というのだろうか、そんなような髪形をした、ややつり目の人だ。世間的にいえば、スタイルのいい……つまりヒロインではないタイプの美人さんである。
「おや?なにかがいる。ん?それは……酒かな?美味しそうですね」
話しかけられた。
「うん、酒。飲みたいの?」
純野さんが答えた。
……ごくり
「……飲みたいですね」
「三輪、あげよう」
「あ、うん。……はい、どうぞ」
紙コップに酒を注いで渡した。
「や、かたじけない」
「いえいえ」
「おお、これは……美味しいですね」
女性は登雄流さんの酒を気に入ったようだ。
「おーい、つまみを持ってきた……ぞ?!」
「……!貴様は、蛙の魔物!」
「失礼な!蛙の神じゃ!……三輪、そいつは池を埋め立てに来た奴じゃ!」
なんだか緊迫した空気になった。
「これでもくらえ!」
登雄流さんは、池の水を操り、水流を女性に向けて放った。
「ふん。そんなものをくらうか」
女性が手を振ると、地面から尖った岩が飛び出し、水流を切り裂いた。
「むむ、やるな」
「そちらに勝ち目はない。おとなしく立ち退くがいい」
ゴオオオッ!
突風が吹いた。立っているのが難しい程の、強い風だった。
「わたしの、酒が……!おとなしく、飲みなさい!」
純野さんが、怒っていた。純野さんの持つ紙コップは、戦いの余波で池の水を被っていた。
「あ、はい。ごめんなさい」
「む、すまなかったのじゃ」
「……一時休戦、しましょうか」
「……そうじゃな」
僕は、新しい紙コップに酒を注いだ。




