21、千両箱の誘惑
「……ん?そこお嬢さんは、誰だ?」
「あー、純野悠羽子さんです」
「こんにちは、わたし、純野悠羽子。よろしく」
「おう、純野ちゃんよろしくな。鬼道士の吉田だ」
「うん、よろしく吉田。……スィンヨーロ吉田(吉田さん)」
「はっはっは。三輪か時春さんに、エスペラントでも習ってるのかい?」
「猫に、習ってる。わたし、希望する者になりたい」
純野さんは、時春さんにエスペラント語を習ってたのか……。しばらくサボってたから、僕も勉強した方がいいかなと思った。
それはそれとして、飲み代を稼ぐ算段をしなければならない。
「吉田さん、本当に何か仕事ないんですか?手品の補助とかでもしますよ」
「悪いな、本当に無い」
……コンコン
その時、ドアが叩かれた。吉田さんが、ドアを開ける。
そこにいたのは……
「吉田殿、助力を願いたい。……ん?わぬしら、三輪に純野さんか?」
涙ヶ池の主、蛙の神登雄流さんだった。
「池を潰して、なんか建てる計画が持ち上がったんじゃ」
「またですか」
「またじゃなあ」
登雄流さんと知り合ったのは、涙ヶ池埋め立てから池を守るために鬼道士の長野さんが動いた時、手伝いで僕もついていった時だった。その時は、当時の市長と話し合い、計画を変更させた。
「前の市長が、計画を白紙にして、池を守るという文書を登雄流さんと交わしてませんでしたか?」
「その通り。だが、蛙と交わした文書など無効だと、池を埋め立てに来た奴らは言うのだ」
「登雄流さん、まさか殺してないですよね?」
「殺してないが、機械は全て水流刃でぶった斬った」
ちょっと嫌な予感がする。
「三輪よ、この神さん、結構強いよな?」
「ええ、金のデンキパイロットの100体位なら、一柱で勝てると思いますよ」
吉田さんが、苦い顔をした。
「……つまり、もっと強いのが乗り出してきたってのか?」
「うむ。確か……風乱党の室賀とかいう娘っ子じゃ」
吉田さんの顔色が、真っ青どころか、死相っぽい。
風乱党とは、薬山という山を拠点とする退魔組織だ。特徴は、強いこと。
とはいえ、吉田さんも20年前はそこで修行し、上位十名の一人になっていた筈である。
「吉田さんの知ってる相手ですか?」
「ああ。当時は小学生位の歳だったが、それでも俺が手を焼く強さだった。今はどれだけ強くなってるか、わからねえ。噂じゃあ、攻撃力だけなら風乱党で最高らしい」
嫌な予感は、当たりそうだ。
「あ、そうそう。報酬は池の底にあったこいつでどうか?昔、供えられたんじゃ」
千両箱というやつだろうか。すごく重そうだ。
「三輪、手伝ってくれ。新しいスーツを仕立てたい。服装に金をつぎ込むのは、病ンディーの条件だ」
吉田さんが、こちらを向いてそう言った。純野さんを見ると、頷いていた。
「三輪、酒のために生き、酒のために死のう」
目をキラキラ輝かせた生き物が、目の前に2体いた。




