2、酒が欲しいよう
今の素直な気持ちを、サブタイトルにしました。
僕は、強くない。グラヨンベスパは、弱い。ゼッタニードルさんは、結構強そう。
デンキパイロットの「金」と「銀」は、大体同じ強さだ。「金」は、買収可能な旧式。「銀」は、買収不可の改良型。
相手は、「金」が一体と「銀」が二体。さて、どうするか。
……ちなみに、「金」あるいは「銀」のデンキパイロットに倒されると、腹からキラキラしたえたいのわからぬモノを出して死ぬ。
「無能者ヲ排除シマス」
「このカップ酒で、見逃してくれないかな?」
「金」のデンキパイロットの触手に、カップ酒を握らせた。
フード付きのマントを纏うデンキパイロットは、動きを止めた。
「ガ・ガ・モウ一声」
僕は、スルメを渡した。
「無能者ハ、イナイ」
金のデンキパイロットは、立ち去った。
食屍鬼達の方を見ると、既に二体のデンキパイロット(銀)が破壊されていた。うち一体の頭部、発電所を表す地図記号の書かれた部分に、出刃包丁が突き刺さっている。
……ゼッタニードルさん、予想以上に強い。あの色のデンキパイロットは、平均的な戦闘力の警官2〜3人に匹敵する。が、まだ余裕がありそうな雰囲気だ。
「ゼッタニードルさん、あなたが倒したデンキパイロットの金属触手、もらっていい?」
「旦那が迷惑かけたし、いいよ。でも、何に使うの?」
「リサイクルしてる所に買い取ってもらおうかなと。さっき金のデンキパイロットに酒持ってかれたから、無くなっちゃって」
「ああ、そうなんだ。高く売れるといいね。じゃ、さよなら」
「さらば、三輪。飲み過ぎ、気をつけろ」
食屍鬼達と別れ、歩き出した。デンキパイロットの金属触手は、謎の金属で出来ている。あまり嵩張らず、そこそこ軽い。手足にあたる部分が触手だが、4本程引っこ抜いてリュックサックに入れている。
酒が切れると、きつい。うまいものや、気に入った景色があると飲みたくなるからだ。
今日は、夕方の空の色が変わり、星が映える夜空になるのを、酒を飲みながら眺めるつもりだった。
デンキパイロットの触手を売って、酒が買えるぐらいになるといいのだが、どうなることだろうか。
「一本200円、全部で800円」
「値下がりましたね」
「少し前に、詩人の卜部さんが、えらい沢山持って来たんよ」
詩人の卜部さん、つまり卜部翠隼。彼は拳鬼と呼ばれる鬼だ。
角はない。陰陽道系でなければ、鬼に角はない。見た目はヒトと変わらない。
鬼は、基本的には自らを鬼であると位置づけた者を指す。強い者も弱い者もいる。
卜部翠隼は、沢山いる鬼の中でも五本の指に入る強者だ。ただし、生活力は致命的に低い。おそらくデンキパイロットに無能者と判断されて攻撃され、返り討ちにしたのだろう。
「それなら、仕方ないか。じゃ、800円で売ります」
「おおきに。ありがとうな」
800円で、どんな酒を買うか悩みながら、酒屋に向かって歩き出した。




